第7話 おすすめ紹介①

 今はお昼休み。

 篠宮さんと教室でお話してる真っ最中。


「ある日、海中を泳いでいたサメが急に雷に撃たれて、そのまま突然変異して電気属性になるんだ。名をエレクトロニクシャークって言うんだけど……」

「電気サメ? 待って冬木くん、それって面白いのかな?」


 うん、面白いよ。


「それで、偶然そばを通りかかった漁船のブレーカーに侵入して、船は跡形もなく全壊。何だかんだあって陸に到達。サメの魔の手が街にまで……」


 っていうのが簡単なあらすじ。


「全然意味が分からないんだけど……」

「とにかくすごいんだ! エレクトロニクシャークは文字通り身体が電気だから、電子レンジとかはもちろん、あらゆる電子機器に潜り込むことができる!」


 天井にあるライトから出てきたり、エアコン、ソーラーパネルとか色々。

 人の目では追えない、超高速で行き来する


「あとはスマホやテレビの画面からいきなり出てきて、ガブッって」

「貞子かな? なら電気がないところに行けば……」

「残念。エレクトロニクシャークは電気さえあればどこへでも移動できる。それは服についた微弱な静電気でもいいから、行けない所はほとんどないんだ」

「えぇ……」

 

 おまけに鉄とか、水、電気を通すモノでも移動できたりする。

 もうビュンビュンビュンビュンッって!

 移動する度にバチバチなるCGがもうすごいんだ!


 そうだよ。

 電気がある限り、エレクトロニクシャークからは逃げられないし、絶対に助からない。


「作中でもサメを倒すために色々やるんだけど、どれも全く通用しない」


 実体がほぼないワケだからどうしようもなくてさ。

 登場人物はただ順番に喰われていくだけ。

 ヒロインとか関係ないよ。


「最終的には全世界の発電所を取り込んで、さらに積乱雲まで吸収してサンダーシャークに進化するんだ」


 それで、最後は地球をまるごと食らって、さらなる獲物を求めて宇宙空間を……


「……って、ネタバレはダメだったね」


 ごめん、つい熱くなっちゃった。

 続きはぜひ、キミの目で確かめて欲しい。


「どうかな? 結構おススメだよ。ぜひ篠宮さんにも見て──」

「見ないよ」

「えっ? でも」

「見ないよ。なんで雷に撃たれたら電気サメになるのかな? もう序盤から意味が分からないよ」

「そう、面白いのに……」


 篠宮さん、そんなハッキリ言わなくても……


「そもそも私、バットエンドって嫌い。恋愛モノとかもそうだけど、基本的にハッピーエンドしか見ないよ」


 偏ってるね。

 僕が言えたことじゃないけど、そういうの良くないと思う。

 

「でも篠宮さんって、別にこういうの嫌いってワケじゃないよね?」


 パニック系。

 恐竜、古代兵器、宇宙人襲来、地球滅亡。

 前に隕石衝突系についても語り合ったし。

 まあ、ああいうのは基本ハッピーエンドだけど。


「見ないこともないけど、そういうあからさまのは見ない。B級が過ぎるよ」

「そっか。まあ人を選ぶ映画だからね、仕方ないね」


 姉さんとほとんど同じ反応だ、残念。


「あっ! 派生作品にファイアブルシャークって言うのが──」

「見ないから」


 やっぱりダメか。


「はあ……冬木くんって変わってるよね。それとも男の子ってみんなそういうのが好きだったりするのかな?」

「それは分からないけど、少なくとも僕は好きだよ。サメが出てくるってだけでワクワクするし、全然飽きない」


 リストもまだまだいっぱいあるから、しばらくは見るモノには困らない。

  

「……冬木くんはホラーも好きなんだよね?」

「うん、週に一本は必ず見てるよ」

「……いつも思うんだけど、幽霊とか怖くないのかな? 夜トイレに行けなくなったりしない?」

「そうだね、普通に怖いよ」


 見た後はトイレに行けなくなるし、なんだったら布団の中でビクビクしてる。


 そういう時は決まって姉さんの部屋に行ってたんだけど、もうやめた。

 中学生だからね、それくらいは。

 あと姉さんにからかわれたくないし。


 そうだよ。

 こう見えて僕って怖がりなんだ。

 人一倍ね。


「えぇ、じゃあなんで見るんだよ……」

「怖いから、かな? そもそも怖くないと見ないよ」


 アレだよ、つい見ちゃうっていうヤツ。

 ホラー映画は怖ければ怖いほど良い。


「逆にその辺が微妙だとガッカリする。恐怖が足りないなって」

「はあ、その感覚、私には分からないよ……」


 篠宮さん、ひょっとして引いてる? 

 でもこういうのって基本、引かせた方が勝ちみたいな所があるから。

 だから、うん、僕の勝ち。


「普通に話が怖いのもあるし、ビックリさせてくる系とか、単純に人間が怖いのとか色々あって面白いよ」


 ストーリー、演出、恐怖度。

 全てが高レベルの良い作品と巡り会えた時は、もう本当に感動だよ。


「それで、初心者にオススメなのが死霊──」

「冬木くん、もうやめよ? その話」

「えっ、でも本当に」

「やめよっか?」



 ……篠宮さん、マジな顔だ。

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