第5話 食堂に来た
「じゃーん! 着いた! ここだよ冬木くんっ!」
「ひ、広い……」
ここは、食堂……
中は思ったより大きくて、しかも綺麗。
でも何より人がたくさんいて、とにかくすごい賑やか。
ゴクリッ……
前に姉さんの通う高校の食堂に行ったことがあるけど、ここも全く引けを取ってない……
っていうかこっちの方が凄いかもしれない。
なるほど、どうりで教室がガラガラになるわけだ。
ワイワイワイ
そうだよ。
僕は今、篠宮さんと一緒に食堂に来てる。
僕が行ってみたいって言ったら、孤独な僕を哀れんでか、特別に案内してくれたんだ。
うん、やっぱり篠宮さんは優しいや。
それにしても、やっぱり私立ってすごいね。
教室の設備とかもそうだったけど、公立とはスケールが全然。
最新っていうか、お金の掛けどころが違う
「メニューもいっぱいある。へぇ、ショートケーキ……えっ、学校でケーキが食べられるの?」
こんなモノ、姉さんの高校にはなかった。
どちらかと言えばチョコケーキ派の僕も、これにはビックリ。
「なっににしよっかな~♪ あっ、冬木くんはどうする? やっぱりラーメンにする? 学食にしては美味しい方だよ」
「うん、僕はうどんにするよ」
カツ丼はちょっと重たい。
うどんくらいが丁度いい。
普通に好きだし。
「うどん、か……ホントにそれでいいのかな?」
「ん? いいけど?」
篠宮さん、なんか不満そう。
何かいけないことでも?
「はあ、冬木くん、いっぱい食べないとダメだよ。なんたって冬木くんは男の子で、しかも成長期なんだから。そんなんじゃ背が伸びないよ」
……篠宮さんって、たまにお母さんみたいなこと言うよね。
「ねっ、だから冬木くんもカツ丼にしようよ」
「いや、僕は別に……」
「そんなこと言わずに、ねっ?」
むっ、しつこいな。
そして、
「んで、結局冬木くんはうどん、でもって私はカツ丼……はあ」
「なんでため息なのさ?」
まだ食べる前なのに。
「だってこういうのって普通、男の子がカツ丼でしょ? なのにこの絵面だと、まるで私の方が食い意地張ってるみたい。チョイスが逆だよ」
篠宮さんってそういうの気にするのか。
変なところで細かいよね。
そもそも僕って、晩ご飯をいっぱい食べる派だからこれでいいんだ。
「はあ、ただでさえ明代ちゃんに最近太ったんじゃないかって言われてるのに……」
「そんなことないと思うけど……」
たぶんからかわれてるだけだよ。
それに僕、よく食べる子って良いと思う。
なんだか可愛いらしくて。
「なにかな? もしかして冬木くんもそう思ってる?」
「別に思ってないけど」
「ウソ、絶対思ってる。そんな顔してるよ」
「……してないよ。それより早く食べよう篠宮さん。麺が伸びちゃうよ」
僕の目の前にあるうどん。
うん、良い匂い。美味しそう。
「むう、分かったよ。頂きま~す」
お箸を装備、僕も頂きます。
いざ、モグモグタイムへ移行。
「冬木くんが痩せすぎなんだよな~……あっ、そうだ! なんだったら私のカツ、ちょっと分けてあげよっか?」
ズズズズ……ピタッ
「えっ? いいよ別に。篠宮さんのなんだから、篠宮さんが食べなよ」
「うんうん、冬木くんの言い分はよ~く分かったよ。だけど遠慮しなくていいからね」
「いや、だから僕は……」
「どれどれ~、私が特別に食べさせてあげるよう~。ほらっ、試しに口を開けてごらん? あーん」
「や、やめてよ、みんなの前で……」
「あははは、冬木くん照れてる~。可愛い~」
篠宮さん、もう……
──そして、うん、ごちそうさま。
「はあ~、お腹いっぱい~。私もう動けないよ~」
パンパン
篠宮さん、満足そう。
お腹をさすりながらぐた~ってしてる。
それはもう幸せ〜って感じ。
そんな篠宮さんを見てると、なんだか得した気分になる。
うん、一緒に来て良かったよ。
ちなみに僕は丁度いいくらい。8割。
「冬木くんのせいだよ。これじゃきっと午後はウトウトかな~」
チラッ、チラッチラッ、チラッ
何その仕草、可愛いね。
それに篠宮さんの寝顔、ちょっと見たいかも。
気持ちよさそうに眠るんだろうな。
「だったら、篠宮さんもうどんにすれば良かったね」
「嫌だよ。私はかつ丼が食べたかったんだ。それにうどんはもう飽きちゃった」
飽きるとかあるんだ。
まあ、今2年生だから、来たばかりの僕とは違って新鮮さは欠片もないんだろうね
「ねえ、冬木くん」
「なに?」
「勉強の調子はどうかな? ちゃんとついて行けてる? ほらっ、ここって私立だから、公立と違って進むペースが早いよね?」
「言われてみれば……確かに」
いや、正直、かなりレベルが高い。
僕程度の性能じゃ、まるで歯が立たない。
ノートを取るので精一杯だよ。
元々私立に来るような子たちばかりだから、校内の偏差値は高め。
おまけに僕自身、前の学校でも平均よりちょい下くらいだったから。
ひょっとすると、いや、きっとクラスのビリは僕だ。
留年がないのは救いだけど、両親がせっかく入れてくれたんだし、やっぱりちゃんと勉強しないとダメだよね。
分かってる、ゲームばかりじゃなくてさ。
「だけど、う~ん……」
勉強するって言ったって、どこから手をつければいい物なのか。うむむ。
「そんなお困りの冬木くんのために、私が勉強を見てあげようかと思ってるんだけど、どうかな?」
「それはすごく助かるけど……いいの?」
「全然構わないよ。私、これでも成績は良い方なんだ。復習にもなるからね。誰かに教えた方が頭に入りやすいって言うし」
「そうなの? でもそれだと、篠宮さんのアニメを見る時間が……」
篠宮さんは塾にも通ってる。週に3日。
だからこれ以上僕の相手をする余裕は……
「いいんだよ。私はアニメよりも、冬木くんの成績の方が心配なんだ。で、どうだい? 受講してみる気はないかね? 冬木少年」
篠宮さん、そこまで僕のことを……
これじゃまるで、ホントにお母さんみたいだよ。
「もちろん無料だよ? それとも何かな? やっぱり帰ってゲームがしたい? 冬木くんゲーム大好きだもんね」
篠宮さんが勉強を教えてくれる、僕に。
それってつまり、一緒にいられる時間が増えるってこと?
ゲームか、篠宮さんと勉強会、か……
う~ん……
「……お願い、しようかな」
比べるまでもないよ。
ゲームなんて、あっちにポイッ
……ゲーム、チラッ
ちょっと、戻ってこないでよ。シッ、シッ
「そっ、よかった。じゃあ決まりだね!」
篠宮さん……いや、篠宮先生?
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