第14話 戦場
隊列は街道を進み昼頃に昼食休憩。行きの食事代は支給された金額に含まれているので各自調達だ。
知り合いも居ないし配属先も皆と違うので一人でスキレットで野菜スープを作る。兵士は火を起こしてお湯を沸かしパンと干し肉をかじっている。冒険者達も兵士とほぼ同じだ。
こんな時に俺のスキレットは役立つのに。
などと食事をしながら思っていると兵士が話し掛けて来た。
「そいつは火を使わないのか?」
「え? ええそうです。これ自体が魔道具なんですよ。」
「へー、便利だな。ああ、思い出した。君が職人ギルドから派遣された人だね?」
「そうです。道中お世話になります。」
「困った事にベルアムの職人ギルドで派遣されるのは君だけだからね。もう少し融通してくれても良いのにな。」
「ははは・・・」
領主の兵士と職人ギルド会員では立場も考え方も違い過ぎて笑うしかない。そもそも職人ギルドの人は個人事業主で個人領主みたいなものだから「自分達が領土を守る」ような考えはあまり持っていない。
今回の派遣も領主がうるさいので職人ギルドも仕方なくといった感じだ。
「君達を鉱山まで引率するジャンだ。よろしくな。」
「職人ギルド会員のドルフ(ドラン)です。」
ジャンは握手すると兵士達の元に戻っていった。まあ、確認と挨拶みたいなもんだろう。
移動中は比較的和気あいあいとした感じだ。
雑談をしたり乾燥フルーツをかじったりしながら進んでいく。戦地はまだ遠いからね。
中継地の集落に着いたのは空が薄暗くなった頃だ。
数件の家が建っているだけで、そこに管理する兵士と馬、物資が収まっている。
兵士は小屋で宿泊出来るが冒険者と俺は外だ。
各自焚き火やテントの設営を始める。まだ雪の残る泥の地面でテント泊はしたくないが仕方がない。冒険者は二つのパーティーで合計七人。一人でくつろぐのも気が引けるので冒険者達の夜営を手伝う。
支給された薪を運びスクロールの切れ端で作った『マッチ』で火を着ける。本来は使用後のスクロールを燃やすものだがこの部分だけの構文を書いて実行すると紙が燃える。残った材料で作れるのでコストは気にしない。それに火打石は以外と火が着きにくいのだ。
今回の遠征用に夜営グッズは幾つか作ったがこれもその一つだ。
「おい。それ魔法か?」
「いえ、スクロールですよ。」
「そんなショボいスクロール初めて見たぞ。」
話し掛けて来たのは『雪の守り」パーティーのゾルボイさん。デブのいたパーティーは「暴食王」ね。
どちらもベルアムの冒険者パーティーで銀級だ。
「切れ端で作ったスクロールですからね。燃えればいいんです。」
「なんか便利そうだがいくらするんだ?」
「売ってないですよ。スクロールは初級でも五千ギルと決まってますので、火を着けるだけで買う人は居ないでしょう。」
「そりゃそうだ。」
その後は料理を分けあったり酒を酌み交わしたりと親交を深めた。彼らは第三次派遣隊で、今後も逐次ベルアムから派遣されるらしい。
「派遣されると一応金は貰えるんだが、どうも負け戦っぽくていけねえ。先行の銀級の奴らも出張ってるんだが、このままだと銅級とかも戦地に駆り出されるかもな。」
「ユーガイアは魔導士部隊も出てるって聞いたぜ。」
「こっちはどうなんだ?」
「リーデンベルグ領の魔導士は元々少ないからな。王都に要請してるらしいぜ。」
「そりゃダメだろ。王都がリーデンベルグ領に肩入れする事になるからな。」
ユーガイアもリーデンベルグも同じスタージス王国内だ。
この国は各領主が統治する自治領を集めた物なので、小さなことには王国は干渉しないが仲裁を頼まれれば出しゃばってくる。
ただし、侯爵と伯爵では爵位的に見て通常はユーガイア侯爵に軍配が上がってしまう。
「適当に戦って優位になった所で仲裁を頼む位しか出来ないだろ。」
「そいつは難しいな。情勢をひっくり返して優位な状態を作るのか?」
「だから俺たちまで引っ張り出されるのさ。」
「くー。負けしか見えねえ。」
「いざとなったら国王に金を貢ぐのさ。」
「つまりその金は俺達の懐には関係無いって事だ。」
「あー面倒くさ。」
翌日も早朝から出発。
俺は魔石ヒーター付きのコートと回復と浄化を掛けて寝たので問題ないが、さすが冒険者と言うか酒をがぶ飲みして寒い中を寝たのに皆元気そうだ。
そんな旅を続けて五日目の午後、鉱山の村に着いた。
早速俺以外の人は前線に配属され俺は近くの集落に行くことになった。冒険者達とジャンさんに軽く別れの挨拶をして直ぐに集落に連れていかれる。
集落は前線より五キロ程後方で怪我人の収容施設と物資の集積所になっている。
本来は鉱山採掘の坑夫の為の場所だったが今は坑夫は居ない。近付くとここの管理者と思われる兵士が出迎えてくれた。
「私はここの責任者のカーツだ。職人ギルドのドルフだな。今、前線では全ての魔道具が足りない! お前は何が作れる?」
「回復と攻撃のスクロールが幾つか・・・。」
「良し! すぐ作成にかかれ。材料はその辺に積んである。」
作業小屋の周辺では何人かの兵士が荷車の修理を行っていた。
小屋の中に他の魔道具師は居ない。
積まれた物資の中から適当に材料を取りだし空いているテーブルに並べ、ランプとコンロに火を灯し坩堝で材料を加熱しながら準備を進める。
物資の中の魔法陣リストには中上級もあった。
魔石を砕いてインクに溶かしながら書く魔法陣を選ぶ。
隣の収容所は忙しそうだ。治癒士の衛生兵が走り回っている。
治癒士もポーションも足りない様子だ。
「良し。まずは『回復』からいくか。」
魔石の物が良いのか魔力の通りが速い。
これならいつもより多く書けそうだ。
普段使っている魔石は一番安いやつだからね。
書きやすいようにサイズを小さく、余分なメッセージは省く。即実行させる事にして、燃やすのも無し。これで手間は大幅に減る。結果的に連続使用出来る事になるがこの際仕方ない。人の命の方が大切だ。魔力溜まりの大きさから数回で使えなくなるが十分だろう。書きなれているのでペースも速い。
一枚作って収容所に持っていく。
「これを使って下さい。」
「これは?」
「急拵えの初級回復スクロールです。」
「少々違う様だが?」
「速く作る事に特化したので。でも効果は同じです。それと、可能であれば本人に使わせて下さい。そうすれば治癒士の魔力は減りません。」
「・・・分かった。やってみる。」
近くの意識のある患者に持たせて実行。一瞬体が光りあっという間に傷口がふさがり元通りに治った。
「おお効いたぞ。・・・うん? スクロールが燃えないが?」
「これは、数回はそのまま使えます。もっと用意してきますね。」
「おい君!」
詳しく聞かれる前に作業場に戻る。その日の内に十枚ほど作成し渡しておいた。
この日から劇的に怪我人の復帰が早くなったのは言うまでもない。
「次は攻撃か。」
近場の兵士に戦場で良く使われる魔法を聞いてみた。
「ファイアボールとか良く飛んでるけど、あんまり効果ねえんだよ。遠くて当たらないから意味が無い。ありゃ魔法使いの自己満足だぜ。火より土魔法の方が効果的だな。」
それって、普段使ってる魔物捕獲用でいいんじゃないか?
戦場の地形は山間部と言うことで土槍かな。確かここの魔法陣リストに上級土魔法が有ったような・・・。
カーツさんに相談して土魔法に決定。
それと「魔力増幅」の魔法陣を見っけ!
これで少ない魔力を増幅できるぞ。
効果面積を広めに取って行動不能優先っと。一応敵に再利用されない様にコピー防止で魔力溜まりが足りなくなったら燃える様にしておいた。実験で一度に使う魔力量は測れてるから規定量が取れなくなったら燃える様にすればよい。今後作るのはこの方式で行こう。
翌日カーツさんに持って行き実演する。
「こいつは何度も使えるのは本当か?」
「無限では無いです。せいぜい十回。使えなくなったら燃えますよ。」
「よし。量産してくれ。」
量産の許可が出たが一人では魔力が足りないので療養中の兵士達にインクへの魔力充填をお願いする事になった。
この翌日からユーガイア領の魔導士を駆逐する勢いでスクロールの攻撃が増加する。
「進め!進め!!!」
「ケチるな!ガンガン攻めろ!」
相手が魔導士だろうが多人数の兵士だろうが土魔法が蹂躙する。その一回の影響範囲は八百平方メートル。範囲攻撃を更に数で上乗せして押しきる。
相手の矢や魔法が発射される前にスクロールで圧倒する。
「ははっ、こりゃ凄いな!」
「どこだ~。出てこい! 俺様が魔法で殺してやるぜ~!」
「俺達って無敵じゃねえの? あはは。」
万能感に酔いしれながらリーデンベルグの兵は突き進んでゆく。
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