第13話 友人と紛争

魔道具の扇風機の魔法陣を使った飛行中の姿勢制御は何とか使えてる。手袋に魔法陣を書いて進みたい方向とは逆に手をかざす。これが難しい。綺麗に飛ばないのだ。

それと魔石の自動切り替え機能を作った。

魔法陣の時間当たりの魔力流量はプログラムで計測する。実験で魔石から一定量の魔力を取りだし、その時の取り出せるまでの時間を計測。魔石は魔力が減ってくると徐々に取り出すのに時間が掛かるかようになり、最後に急激に出力が増大して停止。この計測を魔石十個分繰り返しデータを取って、初期の流量からある程度減ったところで魔力の取先を切り替える様にしたのだ。


『重力』関数の値は変数で渡すようにして魔法陣上の数字を自分の魔力で押さえて変更する。コンロとかのダイヤルスイッチの応用だ。

それでも様々な自然の影響を受けるので、普段は飛行と言うよりジャンプしたり低空を短い距離を飛ぶような使い方になった。これは墜落死を避ける事と魔石の魔力切れの安全確保の為だ。安い魔石で飛び続けると一つ一時間程度で魔力切れになるのだ。

でも森の木々の間をゆっくり飛びながら移動する気分はまさに異世界の気持ち良さだ。


*****


ベルアムの中央広場に兵士が集められ隊列を組んで出発していった。

ユーガイア領との境で小競り合いが起こっているらしい。

同時に沢山の怪我人も到着。


「凄い怪我人の数。」

「本当に小競り合いかよ? 戦争になってねえか?」


教会前には野次馬と治療を待つ怪我人達でごった返していた。教会は治癒士と呼ばれる人の回復魔法とポーションで治療を行っているが欠損部位は戻らない。手足や臓器の一部を失った人は今後一生苦労する事になる。そして後に亡くなる人も・・・。

実際には高額なお布施を払えば特級魔法で欠損部位も治るらしいが、それが受けられるのは貴族だけだろう。


「・・・」

「ユーガイアに押されているってのは本当らしいぞ。ドラン。」

「へ? ええ~!?」


振り向いたらお揃いの革鎧を着たアッシュ達がいた。


「よっ!久しぶり!」

「こんな所で何してるのよ?」

「そうそう。」


慌ててアッシュ達を人混みから遠ざけて路地裏に入る。

付近に聴いている奴がいない事を確認する。


「いや、今はドルフって名乗ってるんだ。いろいろあって・・・」


アッシュ達にこれまでの経緯を大雑把に話す。

誘拐された事、そこを逃げ出した事、隠れる為にドルフと名乗っていること・・・。


「ドランもいろいろ有ったんだな。そう言えばドランの兄さん所にも誰か訪ねて来たらしいぞ。もっとも居ない事が判ったらあっさり帰ったらしいが。」

「皆無事か?」

「ドランの兄さんは問題ない。」

「そうか・・・。良かった。」

「俺達の方は領境の小競り合いの件でちょっと大変だがな。」


メルロウズの冒険者ギルドでは領主の依頼で召集令が出て傭兵や護衛に冒険者を派遣しているそうだ。

アッシュ達もギルドの依頼で怪我人搬送の護衛でベルアムに来たらしい。


「戦場じゃあないからまだ良いんだけどよ。血の臭いを嗅ぎ付けた魔物とかがよく襲って来るんだ。護衛は鉄級と銅級ばかりだから怪我人も多くてな。」

「そうそう。」

「結構大変なのよ。」


笑顔で話すアッシュ達をよく見ると三人とも擦り傷や切り傷があちこちにある。表情にも疲れが見える。

その日はアッシュ達を宿に送りスクロールで浄化と軽く治療してやった。これで少しは気分よく寝られるだろう。


翌日、アッシュ達が宿泊する宿に行き最近作り貯めした連続使用のスクロール渡した。

一応簡単にコピー出来ないように、スクロールに別の落書きした用紙を張り合わせてある。落書きに誤魔化されなくても無理に剥がせば破れて使えない。


「お、おい。こんな物受け取れねえ。」

「凄ーい!」

「そうそう!」

「いや。持っていってくれ。これ位しか役に立てない。」

「・・・」

「十枚以上あるから三人で分けろ。それと・・・」


『体力全開』と『回復』を組み合わせたスクロールを三人分出す。


「これを鎧の内側に貼ってくれ。」


使い方と注意事項を説明しながらアッシュ達の集合場所に向かう。


「これ、滅茶苦茶調子いいな!」

「使いすぎるなよ。体力が増える訳じゃないからな。休憩は必ず取れ。でも危ない時には・・・」

「ドラン、お母さんみたい。」

「そうそう。」

「いや、でも、うーん・・・。」

「大丈夫だって。これだけ貰っといて簡単には殺られねえ。」

「「「そうそう。」」」


リリスが口癖を真似されて不満顔をする。

それを見て笑い合っている内に領境に向かう荷馬車の準備が出来た様だ。


「じゃあ、行ってくる。」

「ああ、気を付けてな!」

「「またね~。」」


街を出ていく荷馬車の隊列を見送る。

朝日に照らされて風に舞う雪が煌めき道が黄金に輝いていた。


*****


領境の紛争によってベルアムの物流はより活発になった。

各地から人や物が集められ紛争地域へ運ばれて行く。


「お陰でいろんな物が手に入るけど、これ勝ってもリーデンベルグは思いっきり赤字だろ。」


ベルアムの冒険者ギルドも召集令が出た。冒険者に登録しているとこれを拒否する事は出来ない。拒否したりすると処罰の対象になる。まあ、逃げる奴もいるみたいだが。

それと職人ギルドにも要請が出た。

ただこっちは強制力が無い。もともと規約に無いからね。


職人ギルドで詳しく聞くと、職人ギルドの派遣では前線で戦う事は無いらしい。

仕事は後方での魔道具の作成と修理。

寝床と食事は軍で支給。

ただ日当は日に一万五千ギルとちょっと微妙な金額である。

この条件だと魔道具職人は行かないかもしれない。

しかし不謹慎な話だがどんな状況か見てみたい気持ちもある。


「本当に行って頂けるんですか?」

「はい。ただ襲われそうになったら逃げるかも知れません。」

「構いません。職人ギルドとして要請に応じたという実績が出来ればいいんです。」


俺の仕事は紛争地後方でスクロールや道具を作ること。

俺としてはメルロウズやアッシュ達がどうしてるか知りたいし、もし俺を狙ってる奴らに見つかっても兵士と一緒の状態で俺を拐うのは難しいだろう。

ギルド支給の金で旅支度をして翌日、部屋を引き払って集合場所に行く。

ほとんどはマジックバッグに入れ、偽装で背中にリュックを背負う。


「小隊集合!」


ぞろぞろと周辺の兵士や冒険者が集まってくる。総勢二十名位か。兵士は同じ革鎧に槍と決められた装備だが冒険者はバラバラだ。

所属と氏名を申告して俺は冒険者の後ろに並ぶ。馬車だと思ったら徒歩だった。現地まで五日。長い旅になりそうだ。隊長と思われる男の掛け声で出発する。


「よう。小僧、武器も持たねえで戦場に行くつもりか?」

「俺は職人ギルドの要請で裏方なんで。」


前に並ぶ太った冒険者に話し掛けられた。四人組で全員男。街でよく見るチンピラみたいな奴らだ。

念のため『体力全開』『回復』は起動している。ついでに体重軽減の魔石オン。

他の三人はこちらに興味は無い様子で先に進んで行く。


「なんだ。皆に守って貰って小遣い稼ぎか。それなら守ってやる俺様の為に荷物でも運んで貰おうか。」

「はは、断るよ!」


まさか即断られると思っていなかった男は下ろしかけていた荷物を地面に投げ捨て怒りだした。でも誘拐犯に比べたら恐くも無い。


「なんだとテメエ。もう一度言ってみろ!」

「荷物は自分で持て!」

「この野郎!!!」


大振りのパンチをかわす。同時に相手に触れて体重を三倍に増やしてやった。男は体重を支えられず、よろけて顔から雪解けの泥水に突っ込んで倒れた。


「わ、わっ、いっでー!」


男が派手に倒れたのを見つけた仲間が近寄ってくる。


「何やってんだ。ほら立て。」


仲間が起こそうとするが加増されて推定四百キロ近い体重を起こす事は難しいだろう。男達は泥水にまみれてもがくだけだ。

俺は無視して隊に付いて歩き出す。


「貴様ら何を遊んでいる!!!」


案の定、兵士に怒鳴られ必死にデブを起こそうとするがどうにもならない。その間にも隊列は進んでいく。

暫くすると太った男以外の冒険者達三人が走って追い付いて来た。どうやら見捨てた様だ。三人ともまだ出発したばかりなのに泥塗れのびしょ濡れになっている。御愁傷様。あの男は暫く動けないぞ。


「ちっ! あのバカ太り過ぎなんだよ。」

「まったくだ。とんだとばっちりだぜ。」


男達は口々に悪態をついている。俺の事は特に気にして無いようだ。

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