第11話 家族を助けたい

夜、上の階で酔っ払って騒いでいた奴らが地下に降りてきた。人数は三人。

そしてお向かいの牢の鍵を開ける。もはや嫌な予感しかしない。

牢の中では泣き叫ぶ子供を、両親が守るように抱き締めている。


「おい。母ちゃんだけ出ろ!」

「ま、待ってください! なにするんですか!!!」

「うるせえ!!!」


父親が蹴り飛ばされる。泣きながら子供が父親に駆け寄る。

その子供の髪の毛を掴んで引き剥がそうとする。こいつらは鬼か!


「お、おい!やめろ!」


思わず声を掛けてしまった。


「なんだ~? 誰かと思ったらお客様じゃあねえか。」


酔っぱらいがおどけてからかってくる。


「や、やめろと言ってるんだ!」

「うるせえ!!! お前はバッグを作ってりゃあいいんだ。」

「やっぱ、甘やかすのはダメだな。ちょっと教育してやるか。」


鍵を開けて男二人が入ってきた。

ちょっと予定と違うけど、仕方ない。

『体力全開』『回復』を発動。

殴り掛かってくる一人目をかわすが二人目に殴られる。止まると袋叩きにされるので動き回るが狭い牢では限界がある。何発も殴られるが『回復』が発動しているので持ちこたえる。


「クソッ!」


無理矢理転げる様に牢の外に出る。

良いのか? 使って!

でも、でも今、俺が負けたらあの家族はバラバラになる。


くそ。迷うな! 覚悟を決めろ!!!


「埋れ!」


牢の中に二メートル四方、深さ二メートルの穴が出現し、男二人が落ちて、埋まった。


「おい!なんて事しやがる!!!」


残った一人が怒り狂って襲ってくる。


「ランス!」


二メートル四方に土槍が出現する。どちらも狭い範囲に設定し直したものだ。

男の脚に何本も土槍が突き刺さる!


「ぎゃ! なんだこりゃー。」


仲間を呼ばれる前に急いで男を穴に埋めた。

お、お、俺、本当に人を埋めちゃったよ。


「・・・だ、大丈夫ですか?」


茫然としている俺の隣にいつの間にか父親が隣にいた。母親は子供達を抱えてる。

俺の脚は震えている。


「・・・はい大丈夫です。では・・・すぐ脱出しましょう。」


上からドカドカと足音と共に誰かが下りてくる。

そりゃあ、当然気付くよね。


「おい。どうした?」

「何騒いでんだ。おい」


家族を部屋の奥に押し込み静かにするよう伝える。

奥さんと子供はかなり怯えているが今は静かにしてほしい。

降りてきた二人が地下室の奥の俺たち気づくと同時に穴に沈めてやった。


「・・・まだ居るかも知れない。」


暫く聞き耳を立て誰もおりてこない事を確認。

奴らのナイフを腰に差し、家族を手招きしてジェスチャーで上に昇る事を伝える。


足音をたてずにゆっくりと階段を昇る。物凄く静かだ。


登った先に扉がある。

準備しておいたスクロールを発動準備。こいつは魔力消費が激しいので魔石駆動だ。


「(開けるぞ)」


父親が頷く。


ドアを開けると同時にスクロールを貼った板を蹴り入れスクロール発動!

同時に矢と火球が飛んできた。


が、俺には当たらない!

一瞬にして空間が歪み男三人が引きちぎれる様に空間に飲み込まれる。

残った男は俺に矢を連射するが俺にダメージが入らない事をみて唖然とする。

当然だ。

俺の前に球形に展開しているのは圧縮空間。

何でも圧縮して空間に閉じ込めてしまうのだ。

空間魔法の魔石をオフにすると人間の残骸がぶちまけられ、相手がひるんだ隙に男に突っ込みスクロールを発動する。


「寝てろ!」


男は崩れる様に平伏し、床を突き破り、地下室に落ちて死んだ。

これは『荷運び』の魔法の逆転。設定値は目標の重量を二十倍に増やす。


ふう~。何とかなった。


「・・・凄い!」

「・・・あなた。行きましょう。」


俺は決着したと思ってすっかり油断していた。


「ぐっ・・・。」


目の前で、ゆっくり父親が倒れた。


「「父さん!!!」」


父親を揺り起こそうとしている母の背中に矢が刺さる。

子供達に矢が刺さる。


な、なんで?

理解が追い付かない。


あああああああああ・・・


「よくも仲間を殺ってくれたな。てめえ、ぶっ殺してやる!」


振り向くとライルが弓矢を構えていた。

もう一部屋あったのだ。


「わあああああああああ」


俺は『体力全開』の力を借りて矢の射線をかわし、ライルにタックルして床に倒す。


「畜生!!!」


ライルに馬乗りになったまま荷運び反転のスクロールを奴に叩きつけてぶっ放す。

ライルは一瞬苦悶の表情を浮かべ、そのまま床を突き破った。


・・・どれ程時間が経ったろうか。一瞬か数十分か。

気が付くとライルは目の前でトマトを叩きつけた様に潰れて死んでいた。


そ、そうだ。すぐ逃げなきゃ。

家族に回復のスクロールを使ったが、残念ながら既に死んでいた。

家族の死体に手を合わせ、守れなかった事を詫びて外にでた。この世界の宗教は良く解らないが今の俺には何も出来ない。


外は父親に聞いた通りの小さな村だった。

そのまま街道を走り途中の森に入った。誰かが追って来ている様子はない。

森の中で『浄化』で体と服を綺麗にした。奴らと戦った時の怪我は既に治っている。

自分を落ち着かせようと深呼吸するが、何をして良いか判らない。

とりあえず木の根元に座りスキレットで干し肉と乾燥トマトを煮る。

乾燥フルーツを食べようとして子供達を思いだし声を出さずに泣いた。


再び周りに誰も居ない事を確認し、フードを深くかぶって村とは反対方向に歩き出す。

正直言ってここが何処かは判らない。でも俺が誰かに狙われていることは解った。


次の村まで半日かかった。茶店で休憩させてもらう。

この村はデリフデ村。今いる場所はメルロウズに戻るには反対方向。

でも今更あの村を通りたくない。


今戻っても迷惑をかけるかもしれない。もうかけてるかも知れないが。

落ち着け。今は気持ちを切り替えろ。

深呼吸を繰り返す。


「まあ、暫く旅してもいいか・・・。」


村で食料品を買い込んで出発。大きな街は歩いて三日かかるらしい。

雲行きも怪しいので少し早足で行く。路面はソリが良く通るのか圧雪されているので歩きやすい。


いくつかの村を経由して三日後の夕方、日が沈む前にベルアムの街に入る事が出来た。

ベルアムは人口四千人程の交易の中継地点の街だ。往来は多く活気がある。

職人ギルドがあったので貯めていたスクロールを売ろうとして、ふと思った。


「そのまま売ったら俺が無事なことがバレるんじゃ?」


そこで偽名で登録し直す事にする。

この世界には戸籍制度は無い。なので正確な名前も年齢も、街の市民でない限り判らない。

職人ギルドに入り登録申請とスクロールの買い取りを依頼する。


「それでは此方がギルドカードです。それとスクロールの購入代金ですね。ドルフ様」


これで俺は魔道具職人のドルフになった。

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