第5話 新しい魔法陣を手に入れたよ

「おい、お前。ちょっと待て!」


うを! ビックリ!!!

思わず立ち止まってしまった。


「なななな、何でしょう?」

「回復のポーション持ってねえか? 怪我人が居るんだ。」


怪我人・・・?


「・・・初級の回復なら」

「有り難い。こっちに来てくれ。」


いつでも発動出来るように土穴カードは持ったまま付いて行く。

草むらに大柄な男女の冒険者と足に怪我をして倒れている男の冒険者一人。女は周囲を警戒しているみたいだ。

良く見ると皆怪我をしている。

倒れている人も出血は酷いが意識はある。


「今出しますね。その前に・・・。」


汚れが酷いので浄化を掛け血と泥を落とす。


うん? 何かの噛み後?


次に回復水のカードを取りだし魔力を流す。チョロチョロと水が出て傷口にかかると見る間に塞がっていく。


「魔法か?」


覗き込んでいる男が聞いてくる。


「スクロールですよ。」

「悪いな。使わせちまって。」

「いえいえ。」


治療していると森の奥から足音がする。


「来たぞ!」

「ちっ、しつこい奴等だ。おい、お前は逃げろ!」


倒れていた男が立ち上がろうとする。


「ダメですよ。まだ寝ていて。」

「ありがとよ。でも相手がせっかちなんでな。」


振り向くと十頭以上の狼が走ってくるのが見えた。


「ちょ、ちょっとあれ何ですか!」

「フォレストウルフだ。俺達はあれの討伐に行ってたのさ。」

「囲まれるぞ!」


フォレストウルフは横に展開しながら猛スピードで向かってくる。


「覚悟を決めろ。殺るぞ!」

「「おう!!!」」

「ひゃ~」


皆それぞれ槍、弓、盾や剣を構える。

迫るフォレストウルフを見て思わずへたりこんで力が入る。と、持ってた『穴』発動!!!


ドン!!!

ドシャ! バキバキ、グシャ・・・。


周囲に土煙が立ち込める。


「なんだ! 前が良く見えねえ。」

「足が、足が動かないよ!」

「くっ、どっからでも来やがれ!」

「・・・」


土煙が治まって来ると様々なものが見えてきた。

倒れた木々と地面から突きだすフォレストウルフの頭や背中にシッポ。中には口先だけとか下半身のみ突きだしているものもある。


「い、今ですよ。早く!」


俺は急いで立ち上がりナイフでフォレストウルフにナイフを突き刺す!


ガウ、グワ!!!


いくら吠えたって動けないのだ。


「ふん! 手も足も出ないとはこの事だな。情けない。さあ、皆さんも早く!」

「あ、ああ。その前に足が埋まって動けないんだ。」

「それは自力で出てください。」


俺の隣にいて埋まっていなかったおっさん冒険者にもナイフで刺すよう促す。


「さあ、今なら簡単ですよ。よくも怖がらせてくれたな。俺が成敗してやる!」

「お、おう。急に強気だな。」


二人で次々とトドメを刺していく。

下半身しか出てない奴も滑稽だが仕方がない。


「そいつはほっといても死ぬだろ?」

「いえ。生き埋めの狼、見た事ないでしょ。死ぬって保証は無いですからね。」


一通り刺し終わった頃、足が埋まっていた冒険者の男女もやって来た。


「スゲエな。お前がやったのか?」

「ええ、捕獲用の広範囲に穴を掘るスクロールです。」


アッシュ達と狩りをする時に狙いを外さない様にする為、深さを浅くして二十メートル四方を効果範囲に設定してある。なので殆んど獲物を逃した事はないのだ!フフン!!!。

ちなみにアースホール(初級穴魔法)は最大二百立方メートルまでしか掘れない事が実験で解っている。


「では、私はこれで失礼します。」

「まあ、待て。これは要らないのか?」


男がフォレストウルフの死骸を指差す。


「要りません。冒険者では無いので。」


掘り起こすのが大変だろ。要らん。


「う~ん。手持ちが無くてな。お礼に何か欲しいもの有るか?」


え? 何かくれるの?

でも狼は要らないよ。

そうだ。


「・・・では防具に魔法陣が書かれていたら写させてくれませんか。

あ、見えてる奴で良いですよ。」


内張りの中に書かれていることも有るらしいが、それだと防具を壊さないといけないからね。それ以前に魔法陣の書かれている防具は高価で数が少ない。


「それなら俺の籠手にあるぞ。」


怪我を直した冒険者が見せてくれた。


「そういえば自己紹介してませんでしたね。

私はドラン。魔道具職人をしています。」


三人は冒険者パーティー「暴虐の盾」のメンバー。怪我をしていたのがミルド。後の二人がルミエラとライネル。他にもメンバーが居て交代で依頼を受けてるらしい。

街道沿いのフォレストウルフ討伐中に仲間が負傷し撤退している最中だった。


「でもまあ。お陰で依頼達成だな。」

「最後は呆気なかったね。」

「ドランのお陰だな。よかったら今度スクロール売ってくれ。」


俺は籠手の魔法陣を複写しながら


「自作ですので、ギルド印無しで良ければ少し安くしますよ。

冒険者ギルドにも良く行きますのでその時はまた声を掛けて下さい。」


彼らはメルロウズの冒険者としては中堅処の冒険者でそれなりに実績も有るらしい。


「よし。出来たっと。ありがとうございます。」

「そんなんで良いのかよ? どんな効果か解んねえぞ。」

「その辺は後で調べて見ますね。ではまた。」


急いで家に帰る。

やった! ついに防具の魔法陣を手に入れたぞ。

兄さんの店に持ち込まれる防具には一つもなかったからな。

身体強化かな。攻撃力アップかも。

ふっ、俺が解析してやるぜ。


*****


「うーん。なんだこれは?」


魔法陣は、入力した魔力を増幅して『ability_full_open』なる関数に渡している。


「能力全開? 体力全開かな? 身体強化系かな?」


危険は少なそうなので、とりあえず紙に書いて手の上で発動してみる。


「特に変わった感じは無しと・・・。」


手を振って見る。

何か思いっきり振ってるだけ?


「もしかして物凄く力が強くなったとか?」


外にある水の入った大樽を持上げ・・・上がらない・・・。ふ~。


「瞬発力が上がったかも。」


道に出てダッシュ!

うん? 何か違う。

今度は全速で走る。


「おお? 何か違うぞ。」


そのまま全速力で走る!

速い! 減速せずそのまま走り続ける。凄い! 凄い!!!

人が居たので魔力を切って減速・・・。

いきなり足がロック!!!


バタン!!! ズサー!!!


全速で躓いた様に思いっきり転倒して盛大に滑った。

息が、息が苦しい! 脚が、痙攣してる!


ウォー。イタタタ!!!

クー苦しい・・・。

ゼエ、ゼエ、ゼエ、ゼエ・・・

痛い・・・クー!!!

寝転んだまま膝を抱えて転がり痛みと苦しさを耐える!


「ちょっと。あんた大丈夫かい?」


どこかのオバチャンに起こされて家の壁にもたれさせて貰った。

痛みと苦しみで頷く事しか出来ない。

オバチャンに水を貰って、少し休んでようやくお礼が言えた。


・・・多分これ、息が苦しかろうが体力が限界だろうが無理矢理体力を全開するんじゃなかろうか。

だから魔力を切ると一挙に負担が掛かってさっきの様になる。


試しに今の状態で発動すると・・・痛いながらも体が動く。

切ると一気に苦しくなる。


これは危険だ。


全力で連続活動すると死ぬかも知れない。

使うとすれば瞬間的に使ってクールダウンみたいな使い方か?

それ以前に体力をアップしないと使うことも儘ならない。


「ちょっと残念な魔法陣だったな。」


でもせっかく手に入れた魔法陣。どうにか活用したい。

使うと体にダメージが入る・・・。


回復と組み合わせたら使える?

初級回復の水の魔法陣。中身は回路図・・・と言うよりフローチャートに近い図に構文が組み合わせてある。

シンプルだが殆んどブラックボックス。


1 魔力を受け取る。

2 多分、空気中から水分を取得する関数。

3 2番と並列で回復関数

4 2と3を結合

5 排出


この中の水分関係を取り除いた魔法陣を作り体力全開と同時に使ってみる。

とりあえず軽くダッシュ!


うーん、回復が多いと気持ち悪い。でも使えそう!

魔力量を調節して再び走る。

言い知れぬ気持ち悪さに中断。

結局ドーピングしながら走り続ける状態なので回復は最小限にした。

体力全開の魔法陣は筋力は上がらない。でも瞬発力や動体視力といった身体機能は自己最大なので使う価値は有ると思う。

朝のランニングから取り入れて見よう。


もう一つ発見。スクロールを書くのも少し速くなった。

少し収入アップ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る