第4話 狩に行ってみよう

 「あれ? ドランじゃねえ?」


振り向くと髪型も服装もチャラくなったアッシュがいた。


「お、おう。久しぶり。」


ちょっとタイミング的に恥ずかしいな、おい。


「アッシュ遅い!」

「この人アッシュの知り合い? しつこいんだけど。」

「ドラ~ン。朝から盛ってんな。しつこいと嫌われるぞ。」

「いや、ちが・・。これの宣伝、宣伝なんだよ。」


急遽実演してお茶を沸かして誤魔化す。


「へえ~便利だな。それより今から狩に行くんだけどドランもいかねえ?」


軽く流されたな。


「か、狩り?」

「おう。グレーボア三頭な。グレーボア初めてだからよ。ちょっと攻撃力が不安なんだよ。」


グレーボアは比較的小型の猪だ。食肉として人気だが気性が荒く攻撃的な性格だ。


「この人大丈夫?」

「ああ、こう見えてドランはスクロール持ってるからな。」


どう見えてるんだ?


「でもスクロール使うと取り分が少なくなるよ。」

「大丈夫だって。ドランはスクロール作れるんだ。」

「「凄~い!」」


おいおい。作れてもタダじゃないからな!

解ってるかな?


ぶつぶつ文句を言いながら・・・何故かそのまま狩に同行する。


女の子二人はアリアとリリス。冒険者講習で一緒だったそうだ。

三人の装備は全員槍!

猪相手にバランス悪すぎない?

小型といってもグレーボアは体重五十キロはある。突進もそれなりに強力だ。


「俺も依頼書取ったけど不安だったんだよ。」

「飛び道具は無いのか?」

「弓は練習してるけど、ほら、俺達まだ新人だからグレーボア位がちょうど良いだろ。」


いやグレーボアにとっては新人とか関係ないけどな。


「所で今まで何か狩った事は有るのか?」

「有るよ。」

「アッシュはゴブリンの討伐経験があるわ。」

「そうそう! だから安心。」

「・・・?」

「ほら、お前も一緒だったじゃないか。忘れたのか?」


え、あれは俺がスクロールで生き埋めにした・・・?

アッシュがウィンクしてくる。


「そ、そうか。俺もウッカリしてたよ。」

「そうだろ。で、今日は生き埋めじゃないのある?」

「あ、ああ。串刺しのヤツなら・・・。」

「おい、聞いたか!」

「ドランすごーい。」

「見かけによらず野獣系?」


ちなみにアッシュ達にはスクロールが連続使用出来ることは伝えてない。燃えないだけで使えなくなると言ってある。半分は事実だ。


そんな無駄話をしながら探索する事一時間。

遂にグレーボアを発見!

アッシュが囮で俺が待ち伏せ。アリアとリリスが控えという「俺しか攻撃しない」布陣・・・?


「アッシュ、最低二メートル引き離せないとお前も串刺しだからな。」

「うわ、怖え~!」


そう言いながらアッシュは唐突にグレーボアに接近して石をぶつける。そして俺の横を駆け抜けていった。


「え?」


直後『ブモー!!!』と叫び声を上げながら肉塊が突進してくる。

速い! バイクが突っ込んでくるみたいだ。


慌ててカードを出してアースランスを発動!


ズゴ! っと音がして無数の大小様々な土の槍が地面から出現する。


グレーボアは何本か土の槍をぶち壊し、転倒して身体中に槍を突き刺して、目の前で止まった。


ふう~。危ねー。チビりそうだ。いやちょっとチビったかな。


「いえ~い!!! やったね!」

「だろ。俺達なら出来るって。」

「流石、アッシュ!」


いや。倒したのは俺。解ってるかな?


「ドラン。いい動きだった!

解体はやってやるから次も頼んだぞ!」

「お、おお・・・」


三人はいそいそと解体を始めた。丸ごとは重くて運べないから。

解体されて肉とシッポを取られたグレーボアを地中に埋めて次の獲物に向かう。


この日、無事に三頭の討伐を達成しお礼に肉を一塊貰った。

いや、肉よりお金が良いんだけど・・・?

炊事場無いし。


アッシュ達は意気揚々と引き上げていった。


おい。肉では材料買えないんだよ!


仕方ないのでよく行く定食屋に持ち込んで調理して貰った。

調理で残った肉は誰かの胃袋に収まったらしい。


*****


先日のアッシュ達の討伐の教訓からアースホール(土穴)とアースランス(土槍)のスクロールを数パターン作った。

ランスは範囲を変えたり、ホールは範囲と深さを変えて捕獲も出来るようにした。


余計なお世話だがついでにアッシュ達用に武器も考える。

アッシュ達にはもっと手軽で低コストの武器が良いと思う。弓矢は矢一本買うと三百ギル必要だ。初心者は赤字にしかならない。才能の無い奴が手を出してはいけない武器だ。

結局体力勝負で槍か剣か。

うーん、それじゃ今と同じか。


そう言う俺自身も体力をつける為にランニングを毎日している。

単純に魔物に追われたらと想像したら走って逃げるしかないからね。


「後は防具も欲しいな・・・。」


と言っても防具は高い。

革鎧の中古でも十万ギルはするのでちょっと手が出ない。

身体強化の魔法陣も有るらしいが見たことが無いし、買わないとコピーも難しいだろう。


ある日、日課の道具屋巡りをしていて叩き売りのスクロールを見つけた。

『クリーン(浄化)』のスクロール。

体や服の汚れを落としてくれる物だが全く人気がない。

中級魔法に該当し定価は八千ギルするが、一度しか使えないのにこの値段なら冒険者は攻撃魔法を買う。なので道具屋も不良在庫になりやすい。

それが四千ギルで売っていたので迷わず購入。どうも前世の記憶が甦ってからは毎日体が洗えない環境が気になっていたのだ。


スクロールを読み取っていくと何時も不思議に思う。

おそらく構文がスクリプトの様に実行されるのだろうが、パソコンでもないのに何がこれを読み取って実行しているのだろうか。

言語も関数に当たる部分はブラックボックスになっている。

例えば土穴魔法と呼んでいるアースホールもサイズはパラメータで指示するが実際に掘る『Hole』関数の内容は書かれていない。


アースホールは大まかに次の順に実行される。

・掘る。(Hole)

・指定時間待機。(Wait)

・戻す。(Restore)

ちなみに「掘る」だけのスクロールは動作する。土はどこに行ったか解らないけど。

時間待機や戻すだけの単独スクロールは魔力は使うが何も起こらない。(ように見える)

掘る、掘る、掘る、戻す、戻す、戻すは正常に動作する。掘ったら時間を空けて戻す事は可能。

掘るを繰り返すと穴が深くなる。

他の関数と組合せは可能。

掘る、土槍の組合せは実行すると穴の中に槍が出来る。


掘るのは下が石でも掘れるが、槍は下が土である必要がある。


うーん。関数が魔法の詠唱に属する物なのかな。それ以前に紙に書いたものを実行する事自体が魔法か。

何かマニュアルがあれば良いのに・・・


*****


クリーン(浄化)のお陰でスッキリした気分で仕事が出来る。

冒険者は女性でも臭いがキツかったり埃っぽい人が多い。

体や服を洗うのも大変だからね。


今日は森に採取に出かける。

採取をしなくても生活に変わりは無いが、まあ、気分転換だ。

毎日狭くて薄暗い部屋でスクロールを作っていると無性に外に出たくなる。そんな時は森で採取をする。


草原を歩いていると様々な生き物に出会う。

ホールラット、ブッシュリカオン、色々な鳥達・・・。

こいつらは此方から手を出さなければ襲ってくる事はない。

ここを駆け回っているのは子供か初心者冒険者達だ。

小型の生き物でも取引所で売れるからね。


俺? 俺は冒険者じゃないから。

でも今では四、五日に一回位アッシュ達と狩に出てる。一応分け前もほぼ公平に貰ってる。

ただ、スキレットを奴等に盗られた。

貸してやったらシッカリ自分達の名前を書いてやがる。

自分専用でないと気持ち悪いだと。金よこせ!


・・・暇なのかって?

職人ギルドから『スキレットの納品はもう不要です』と言われた。普通のスキレットが行き渡ってるからあまり売れないそうだ。

水のスクロールで『水の湧き出る水筒』も考えたが、魔石を使ったバージョンが現存した。


さて、森に入って暫くは何もない。

薬草が有るのはもう少し奥。人があまり入らず下草が多くなって来た当たりからだ。

この辺から人がめっきり少なくなる。

捕獲用に修正した『穴』(アースホール)のカードを用意する。

このカードは広範囲の足元五十センチを埋めて動けなくするためのもの。誰かをいきなり生き埋めにしないためだ。


順調に採取していると奥から人の気配・・・。


「まずいな・・・。」


森の中で知らない冒険者に会うのは危険だ。

獲物の横取りや恐喝は日常茶飯事。この世界には警察が無い。街の周辺を巡回している騎士や衛兵がそれに該当するが真っ当な調査は期待できない。貴族か賄賂の多い方が有利になるからだ。殺人も死体が見つからなければ捜査もされない。

なので気配のする方からスムーズに離れる。


が、少し遅かった様だ・・・。

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