EPISODE Ⅳ ALL YOU NEED IS ESCAPE
Ⅰ
DAY1
流行病にかかったようだ。
身体が溶ける様に熱い、体温計は40℃を越えていた。
会社に連絡しなければ、しかし汗びっしょりの身体は全く動かない、私に妻や家族、信頼できる親友と呼べる友人がいればと考えたが誰もいなかった。
私は孤独な中年男だ。
何も考えられない、飯を食う気力すらない、私は眠るしかなかった。
DAY2
どれだけ眠っていたか見当もつかない。
今が昼なのか夜なのかさえわからなかった。
身体中の関節が痛かった、インフルエンザやひどい風邪の症状だろう。
微かに動く左手でスマホを手繰り寄せ、ディスプレイを見ると会社から着信が6件もきていた。
ああ、無断欠勤をしてしまった。
説明しなければ、熱が出て動けないのだと。
DAY3
眠っていた、あれからどれぐらい時間が経ったのか分からない。
不思議と腹は減っていなかった、私はどうしてしまったのか。
夢でミミズか蛇か分からない物体が、身体中を駆け巡っていた。
まだ身体は動かない。
DAY4
誰かが私の部屋のドアを叩いていた。
チャイムの音も鳴っている。
ついに助けがきたのかもしれない。
しかし誰も部屋には入って来なかった、スマホはバッテリーが切れていて真っ暗だ。
身体が重い、睡魔が襲ってきた。
DAY6
ようやく目が覚めた。
長い、長い時間眠っていた。
身体が臭かった、こんな匂いが自分自身からしていると思うと反吐がでる。
シャワーを浴びるべきだ、とにかく起き上がった、身体に力を入れるとすっと起き上がれた。
身体が異様に軽いのだ、何も食べていなかったから痩せたのだろう。
そんな事はどうでもいいからシャワーだ、狭いワンルームの玄関横にあるユニットバスへ直行した。
洗面台の上にある鏡に映ったのは、痩せこけた冴えない中年男であるいつもの私ではなく、今まで見た事のない自分だった。
DAY7
無性に腹が減ったし喉も渇いた。
でもなんでだろう、今まで食べていた食事がしたい訳ではなかった。
じゃあ何が食べたいんだろうか私は、昼は眩しくて外に出る気がしないので夜まで部屋でじっとしていた。
外に出てみようと思う。
しかしこの姿を誰かに見られる訳にはいかない。
DAY10
昨日の深夜、私が近所を徘徊して帰宅している時に隣に住んでいた女性と出会ってしまった。
彼女は私を見るや否や、すとんと腰を抜かして尻もちをついた。
「ば、化け物」
と悲鳴を上げずにすごく小さな声でささやいた。
私は彼女に、
「大丈夫ですよ、化け物なんかじゃありませんよ、隣に住んでいる西ノ
と言いながら彼女の肩を手で掴み、立ち上がらせようと思ったら、彼女の後ろから黒いスーツに身を包み、虚無僧笠をかぶった男達が現れた。
「見つけたぞ、お前が最近この辺りで人や動物を食い散らかしてる変異体やな」
有刺鉄線をぐるぐる巻きにした黒いバットを持つ虚無僧がバットのヘッド部分を私に向けてきた。
私は何の事か全く分からなかった。
とにかく不味い状況なので、女性は放っておいてその場から立ち去ろうと思ったが、アパートの2階の共用部から飛び降りて大丈夫だろうか?と少し考えた。
虚無僧達に話は全く通じそうになかったので、私は共用廊下の塀から飛び降りた。
DAY13
虚無僧達の追跡は執拗だった。
いきなり銃口を私に向けて発砲してきた。
人生で初めて鉛の銃弾をこの身に浴びたが、なんだろう、小学校の時に作った割り箸鉄砲に幅が太い輪ゴムをつけたやつで同級生に撃たれた時の事をふと思い出した。
私は血を流す事もなく、チクッとした痛み程度で済んだ。
「痛いじゃないか!」
と私が腕を伸ばして払いのける様な動作を行うと、中学生の頃見た、エロアニメやエロ漫画でヒロインを襲う化け物が使う触手の様なにょろにょろとした私の指先が、虚無僧達を薙ぎ払った。
私はどうかしてしまったのか、流行病にかかってからずっと悪い夢の中にいるようだ。
昼は眩しいので地下に潜る事にした、
あれから自分の部屋に戻る事はなかった。
夜になると無性に腹が減って喉が渇くので、野良犬や野良猫の生き血を飲み、偶然出会った人々を襲い貪り食うようになった。
Ⅱ
片田 (へんでん)は左腕のメカニカルアームをメンテナンスをするため、唖々噛對商店街に来ていた。
神解唖々噛對商店街を端から端まで歩くと、
約1.2kmもあり、そこに約300ものお店が並んでいる。
しかもロケーションは神解の中心で、近隣には旧居留地や南南町、メリケリルパークやハノバーランドなど観光スポットもいっぱい。
また、唖々噛對駅と神解駅の間にあり、両駅の ほか旧居留地・大角前駅、みなと唖々噛對駅、西唖々噛對駅、花熊駅などからもすぐで、アクセスがとっても便利である。
最近ハードな任務が続いて左腕がしっくりこないのだ。
簡単な任務中に、左腕に仕込まれたレールキャノンが誤作動し、後一歩で周りの一切合切を巻き込み超高火力で全てを灰燼に帰す所だった。
ユーコにこっ酷く説教を食らったのは言うまでもない、
片田はユーコにさっさと直して来いと指示を受け、久しぶりの休暇を満喫出来ると思っていた。
商店街の四丁目付近にある、一見何の変哲もないマンホールは隠し通路の入り口であり、その先には地下商店街が広がっていた。
片田は、メンテナンスで何度も来ていたので少し周囲を警戒して地下に降りていった。
一般人は商店街の真下に地下商店街がある事は誰も知らない、地下商店街には闇屋や普通に銃火器、薬等が売買されている。
そのてのヤバい奴等が集まる酒場などの飲食店があった。
「ユーコさんから聞いてますよ片田さん、さあ、こちらへ」
「いつもすみません、お世話になります」
短い白髪にワークキャップを深く被り、いかにもな丸眼鏡をかけていて、年齢は六十代ぐらいのサイボーグ職人、
藤部に案内されて黙礼しながら片田が藤部商会と書かれた錆びれた看板の下を潜って暗い店内に入って行く。
「早速見せてもらおう」
片田が上着のジャケットを脱いで、白いブラウスの左腕を捲り上げてメカニカルアームを外して藤部に渡した。
「んん〜中々ハードに使ってますね、ジョイント部分やレールキャノン自体の損傷も激しい、一週間ぐらいかな、それで直しておきますよ、はい」
「その間、代えのアームは貸していただけるんであるんでしょうか?」
難しい顔で片田のメカニカルアームを見ている藤部に片田が質問する。
「それなんですけどね片田さん」
藤部が店奥から中ぐらいのハードケースを持って来て片田に開けて下さいと笑顔で嬉しそうに渡した。
「こ、これは一体?」
「はい、ユーコさんからのオーダーで取り寄せて私が調整しました、どうですか?ご機嫌でしょう?」
ユーコの邪悪な笑みが片田の脳裏を過ぎる、藤部は早口で説明しながら片田の左腕に装着した。
「よかった、ピッタリですね、これは
コ◯ラやん、コブ◯っぽいというかコブラそのものだ。
「片田さん、この最高銃と義手、そしてパイソン77マグナム、このガンホルダーは、私からのサービスです、これをユーコさんが渡してくれとおっしゃってましたので」
「このマグナムは分かるんですけど、最高銃の弾は?どういう仕組みなんですか?」
片田は、パイソン77マグナムを腰に装着したガンホルダーに納めてから、左腕に装着された黒光りする最高銃を見ながら聞いた。
「はい、最高銃は片田さんの精神エネルギーを弾丸として放ち、引金を引く必要もなく撃てる、威力は
うんうんと頷きながら、藤部は最高銃の説明をあれこれ長々と片田にした。
「そ、その片田さんこう構えて下さい」
藤部が左腕を垂直に上げて、右手を左腕の最高銃に添えるジェスチャーを片田にしてみせた。
「こ、こうですか?」
片田が腑に落ちない顔で最高銃を言われ通り構えると、
「ひゅー、心臓の
藤部が取り乱して叫んだが、片田は何の事か分からないとキョトンとした真顔で藤部を見た。
「分かりました、それでお代の方なんですけど?」
「ああ、お代の方はユーコさんから聞いていませんかなにも?」
「はい、なにも聞いておりません」
嫌な予感が片田の脳裏を電撃的に走った。
「ええとですね、メカニカルアームのほうは直しますよ、一週間ぐらいで、そこでなんですけど、片田さんに一つお願いというか交換条件で依頼をさせていただきたい」
もはや断れないだろう、どんな依頼でも。
やられた、ユーコがこの前の清子の一件で車を買い替えに行ってる間、メンテナンスに行って来いとやけにすんなり了承しながら、ニタニタ笑っていたのはこれだったのかと、片田は黒光りする最高銃に義手をはめながら暗い天井を見つめていた。
「最近この地下街の東出口付近で四十五年ぐらいやってた骨董品屋の店主が病気でなくなりましてね、そのテナントが競売にかけられたんですけどそのテナントを購入した者や出入りする人間が次々に失踪しまして、それを調査して欲しいんですよ、おそらく変異者がらみだと思いましてね」
「了解しました、ありがとうございます藤部さん、私の左腕が1週間で直してもらえるならそれまでに調査を終わるようやってみます」
片田は深く黙礼しジャケットを着装した。
「あ、後、片田さん最高銃は心で撃つんですよ、最高銃の放つビームは暗闇でみえない相手でも片田さんが感じて念じれば、誘導弾として追尾していきますから」
さらっと凄い事を言うなと片田は思いながら藤部商会を後にした。
Ⅲ
「クソッ、何もねぇじゃねぇか」
「ガラクタが山盛りあるだけですね」
黒いスーツに虚無僧笠を被った男達が、最近失踪者が続出していると噂される潰れた骨董品屋の店内を乱雑に捜索していた。
「こんかガラクタだらけで狭い所に化け物が隠れてんのかよ」
有刺鉄線がぐるぐる巻きにされた黒いバットで棚の上にある段ボール箱を虚無僧がフルスイングでぶっ叩いた。
「オオタニサーン!」
他の虚無僧達がふざけながら叫んだ。
「誰が二刀流や、俺は
門田は、バットで散らかった足元の段ボール箱やら何か分からないガラクタを左右に避けて店内から外に出た。
「もし化け物がここで
店内を捜索する他の虚無僧達にそう言いながら、虚無僧笠を脱ぐと包帯で覆われた顔が現れ、溜息混じりに紙煙草に火を点けて、門田は咥えた煙草から煙を吐いた。
「誰やお前は?」
「幽合会の片田と申します」
そういうと片田はフリーランスクリーナー《対変異体民間個人事業者》のライセンスカードを見せ事情を説明した。
「ああ、ユーコさんの所の人か、ごっついリボルバー腰にぶら下げてべっぴんなのにおっかないわ」
煙草の煙を吐きながら門田が片田をいじる。
「凶商の方達もここの調査に?」
「せや、なんやこの店に出入りしよったら帰ってこーへんてもう何人や分らへんぐらい失踪者が出とって
「中、見せてもらっても構いませんか?」
「ええけど、ガラクタしかあらへんで」
そういうと片田は店内に入った。
ガラクタと段ボール箱だらけの店内に視線を走らせて店奥に進んで行った。
「な、なんもあらへんやろ?」
門田が追いかけてきて片田に聞いた。
「ここ、何かありそうです」
片田は店奥にある木造の鏡台の様な家具を横に移動させると壁をコンコンとノックした。
「この壁、空洞ですね」
「ほんまや、音がちゃうやん」
片田は壁の下段に視線をゆっくり滑らすと奇妙な窪みを見つけた。
「これかな」
片田がその窪みに指を入れて力を込める。
「マジかいな」
ギギギと軋みながら壁だと思っていた扉が開いていく、門田が虚無僧達を呼び寄せて扉を開けるのを手伝わせた。
「くっさ〜ヤバい臭いするんやけど」
隠し扉の先は真っ暗で何も見えない、しかしとんでもない悪臭がする。
「暗すぎてなんも見えへん、なんか灯りないんか?」
門田が虚無僧達に灯りを探して来いと指示を出した。
片田は中には入らず、手で口と鼻を押さえながら一度店内から外に出て行った。
「どしたんや?」
「匂いが臭すぎて、耐えられなくて、こほっこ、こほっ」
片田はあまりの悪臭に咽せていた。
まぁあの扉の奥に変異体がおったら任しとけと、
門田が自身ありげに、可愛いとこあるやないかと笑い飛ばして片田の肩をパーンと叩いて、ペンライトを持ってきた虚無僧達と共に、片田に外で待っていろと言い残して隠し扉の中へ消えて行った。
片田の左腕につけた腕時計は深夜23:30を標示していた。
Ⅳ
ペンライトと梵字が刻まれた銃を構えた虚無僧ニ人を先頭にして、背後にバットとペンライトを持った門田は隠し扉の中へ入った。
「ヤバっ臭過ぎるな、ひどい匂いや」
「動物の死骸でも腐ってるんですかね?」
「ヤバいっすよ、こんな匂い嗅いだ事ないすよ」
ゆっくり周囲を警戒しながら三人は奥へ、奥へと進んで行く。
真っ暗な煉瓦造りの狭い通路を進むと、三人は開けた広い部屋に辿り着いた。
「えっぐ」
ペンライトに照らされて虚無僧達の視界に入ったのは、
無数の人間のバラバラに食い散らかされた様な腐敗が進んだ蛆が沸いた肉片と、血溜まりが劣化して黒くなった染みの床だった。
「当たりすね」
「せやな」
辺りを警戒しながらペンライトの光を頼りに三人がさらに捜索する。
「あっ、えっ」
という声と共にひゅっと一人の虚無僧のペンライトが床に転がる。
「なんや?」
門田がペンライトを左右に振りながら辺りを見まわすがさっきまで左側にいた虚無僧の気配がない。
ぴちゃんと何かの雫が天井から落ちてきた。
二人はゆっくり天井にペンライトの光を向けた。
「お、おわああああ」
銃を構えた虚無僧が絶叫しながら、
光の先に見えた黒いうねうねと動く太い触手に向けて何度も発砲した。
「あ、あかんわ、出るぞ」
銃撃の火花に照らされ垣間見える無数の触手、絡め囚われた一人の虚無僧が触手の渦に飲み込まれていった。
部屋の中を硝煙が包み込んで行く最中、門田はもう一人の腕を掴んで猛烈な勢いで来た道を全速力で走った。
「えらいこっちゃ」
門田ともう一人の虚無僧は隠し扉を閉めて店外へと飛び出した。
「変異体や、クソヤバい奴や」
慌てて門田と虚無僧が、店のシャッターを力任せにビシャっと閉めながら片田に言った。
「いたんですね、あの扉の奥に」
動じる事なく片田が門田達に冷静に答えた。
門田は煙草を咥えて火を点けようとするが、ジッポライターを握る手が震えて火が点かない。
「落ち着いてんなあ、あんた、とにかく銃が効かんし、ここは一旦、し、仕切り直しや」
ようやく点いた火に門田が咥えた煙草を近づけようとした時、
「危ない!」
片田が急に大声で叫び二人を前方にぶん投げた。
「ガシャン」
と、シャッターを突き破り黒く太い触手が何本も片田達を突き刺す様に飛び出て来ていた。
片田も前方に頭から身を投げ出して、間一髪触手から逃れていた。
「おい!増援や!そ、それとなんか強い武器持ってこさせー!」
地面に腹這いになりながら包帯の間から見える血走った赤い眼で、門田がもう一人の虚無僧に大声で指示を出すと、
「了、了解っすー!」
もう一人の虚無僧が起き上がって、西出口の方へシャッターが閉まる薄灯りの地下街を走って行った。
「あなたは行かないんですか?」
「可愛いネーチャン残して逃げたらカッコ悪いやん、このまま貸し作んのも嫌やし」
至って冷静な片田を見て、どないなっとんねんこいつは?
幽合会気合い入り過ぎやろと思いながら、右手にバットを強く握りしめて、門田が起き上がりながら言った。
Ⅴ
「で、どないする?」
門田が片田に辺りを警戒しながら小声で聞いた。
「そうですね」
そう小声で返した片田が、ハンドサインで左右に分かれて挟み打ちにしようと指示した。
二手に分かれて左右のシャッターが閉まる店と店の間に走って身を隠した。
「ギギギギギギギギギギギギ」
穴が空いたシャッターが不気味な軋む金属音を響かせてバタンと地面に落ちた。
灯りが点けっぱなしの店内に、触手の化け物の姿は確認出来ない、片田と門田は息を殺して待機している。
「ガラガラガラ」
骨董品屋から近い場所にある飲食店のシャッターが上がり、緊張の糸を切るように中から小太りな壮年男性が出てきた。
壮年男性は、店のシャッターを閉めながら灯りが漏れる骨董品屋を見て、
「ボロシャッターが落ちた音かよ、びっくりさせやがって」
そう溜息混じりに呟いて、飲食店のシャッターキーがちゃんと閉まったかを確認してから、門田が隠れている方へ歩きだした。
片田からは壮年男性が確認出来ているが、門田は気づいていない。
門田は足音や何かがくる気配に気づいて、有刺鉄線ぐるぐる巻きバットを強く握りしめ、今にも殴りかかりそうな勢いで待機している。
片田はパイソン77マグナムをガンホルダーから抜き、
撃鉄を起こしていつでも撃てる体制で待機している。
壮年男性が門田の隠れている隙間の前まで来た時、突然、
顔面包帯ぐるぐる巻きで有刺鉄線が巻かれた黒いバットを持った門田が現れたのに壮年男性が驚いて叫んだ。
「うわああああ、何だあんた?」
「チッ、危ないから、はよ、
門田がしっしっと壮年男性に手を振ってここから離れるよう雑に促そうとした時、
「うわああああああああああ」
「なんやねん、はよ行けやー!しばくぞ!」
壮年男性の絶叫に門田が怒鳴り返した。
「タァーン、タァーン」
重低音が響く片田のパイソン77マグナムが火を吹いた。
「後ろです!」
門田の背後に黒い触手が胸部から無数に生え、
両手両足はあるが頭部はない
片田が放った弾丸は触手に当たり触手の肉片が飛び散ったが、黒く太い無数の触手は動きを止めず蠢いている。
「た、助けてくれ」
壮年男性が門田の横をすり抜けて逃げようとしたが、触手に全身を串刺しにされて血を流し、断末魔を喚きながら触手の渦の中央部分に貪り喰らうように吸収された。
「オラァ」
門田がバットで殴りつける。
「ググアアアアアアア、ワタシ、ハ、ニシ、ノ、ヒノ、デ、ス」
「やかましいわ!ボケェ!化け物が」
門田が何度もバットで殴りつけるが黒い触手がバットを弾いてダメージは与えられない。
片田が再びパイソン77マグナムの撃鉄を起こして距離を詰めて銃撃する。
「クソが、この蛸野郎」
バットを握る右腕ごと門田が黒い触手に絡め取られていく。
「アホが、右腕一本ぐらいくれてやるわ、離れろやネーチャン!」
語気を荒げてそう叫びながら門田が一瞬、片田の方に視線を送ると、バットの握りについたボタンを押した。
どデカい破裂音と黒煙と共にバットが爆炎に巻き込まれ、
門田の右肘より先が爆散した。
門田が右腕から大量の血を流しながら爆風で後方に吹き飛ばされる。
片田が炎に包まれる黒い触手の化け物と距離を詰めてパイソン77マグナムの引き金を引いたが、カチッ、カチッと音がする、弾切れだ。
片田はパイソン77マグナムを握る手を離しその場に落とした。
化け物の身体から徐々に炎が鎮火していき、片田の方へくるっと体制を整えて無数の黒い触手をうねらせながら近づいてきた。
門田は爆発のショックで気絶している。
「最高銃は心で撃て…………でしたっけ」
小さく片田が呟きながら拳を握った左腕を触手の化け物に向け、右手を左腕、
「キュオーーーーーーン」
片田の左前腕部がロケットパンチのように迫ってくる触手の化け物の胸部中央を貫いて暗い空洞が出来た。
「グオオオオオオム……………」
触手の化け物はその場に前のめりで崩れ落ちていく、
左前腕部が無くなって黒光りする最高銃を片田はその場に突っ伏した触手の化け物に向けたまま照準を離していない。
「門田さーん!門田さん大丈夫ですか?」
サブマシンガンを手に持った虚無僧達が門田の所に駆け寄ってきた。
「門田さん大丈夫ですか?、腕ないじゃないすか!」
増援で来た虚無僧達が門田の右腕を素早く止血し、門田の両脇に肩を入れて2人掛かりで担ぎ起こした。
「あ、あれすか?あの変異体すか?」
気絶から目覚めた門田が微かな声で担ぎ上げてくれた虚無僧に耳打ちした。
門田から何か耳打ちされた虚無僧が片田が最高銃を構えたその先にある無数の黒い触手の塊を指差した。
「撃て撃て、粉砕しろ!」
ハンドサインを確認した虚無僧達が倒れた触手の化け物をサブマシンガンで滅多撃ちにする。
数多の銃弾を浴びた触手の化け物から、触手以外の人間らしさの名残りである両手両足が銃弾で粉々に弾け飛んでいった。
片田は最高銃の銃口をダラリと下げて門田を見た。
包帯の隙間から見える門田の眼には光は宿っておらず、思ったより深刻な状態である事が伺えた。
門田は両脇を支えられて西出口の方へ歩き出した。
サブマシンガンを乱射していた連中もこれ以上は弾の無駄だと射撃を止めて門田達を追いかけるように踵を返し、薄明かりのシャッター街を西出口の方へ進んだ。
Ⅵ
「う、うわああああ、クソッ何だこいつ」
完全に活動を停止していたはずの黒い触手の塊が、最後尾を歩いていた虚無僧の胸部に取り憑いて店と店の間にある隙間に消えた。
「まだ生きてやがったのか?探せ!逃すなよ!」
サブマシンガンを構え、シャッター街を注意深く捜索に向かった虚無僧達の気配が一人、また一人と消えて行く。
「クソッどうなっているんだ」
捜索に行った仲間が帰ってこず、サブマシンガンを構えてキョロキョロ焦りながら残った虚無僧が口走った。
片田は、西出口へ向かう門田達の背後を後ろ歩きでゆっくりカバーしながら眼を瞑り、精神を集中させ五感を研ぎ澄まして自分の周りにあるもの全てを警戒した。
片田は眼を瞑ったまま左腕の最高銃を構えて右手を左肘に添えた。
「キュオーーーーーーン」
片田の最高銃から白い光が放たれ空中でカーブしてシャッターが閉まった店と店の間に流れ込んでいった。
するとそこから黒い触手に取り込まれた虚無僧の焦げた首なし死体が片田達の視界に現れて地面に倒れた。
「キュオーーーン、キュオーーーーン、キュオーーーーーン」
片田が最高銃を連射した。
白い光は空中でカーブし次々に黒い触手に取り込まれ首なし死体に成り果てた虚無僧達を葬り去った。
「グオオオオオオム、シュルシュル」
不快な低音をシャッター街に響かせて、頭部の見えない虚無僧の身体を乗っ取った化け物が黒いスーツの胸部中央から無数の黒い触手をうねらせながら片田の方へ駆け寄って来る。
「一気に解放する…………」
片田は呪文のように呟き、目を瞑ったまま最高銃の銃口を迫ってきた化け物に向けた。
片田が両眼を開いたその瞬間、
「キュオーーーーーン」
これまでより特大の白い閃光が触手の化け物を光に包んだ。
凄まじい衝撃波がシャッター街を波打つ。
「やり過ぎちゃったかな」
最高銃の銃口から煙が上がる、黒い触手の化け物は跡形もなく消滅した。
「あ…あんた一体何者なんだ?」
門田を担いでいる虚無僧が片田に聞いた。
「カリフォルニアドリーム」
「え?幽合会の人でしょ?」
片田の耳が紅く染まっていった。
片田はあれ〜私の左腕?っと左腕を探す振りをして、
じゃあと門田と虚無僧達に黙礼して右手でスマホをみながら薄明かりのシャッター街の闇に消えて行った。
仲間の虚無僧達に両脇を支えられていた門田の口角が上がった気がした。
西ノ
screaming out an sos
────────
See you in the next hell…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます