EPISODE Ⅲ ALL YOU NEED IS DREAM

I


午前零時の交差点、霧雨が降る夜。


ユーコと片田へんでんは、四宮しのみやで仕事を片付けてから、唖々噛對ああかむにある幽合会事務所に向かっていた。


「楽勝だったわ、毎回こんな仕事なら最高なんだけど」


後席シートの助手席側に座って、雨粒で視界がボヤけた車窓を眺めながらユーコが呟いた。


「まあ、公安の依頼に比べれば楽でしたね」


そりゃあ、チャイニーズマフィアグループとスプリガンの真似をしながらドンパチやり合うのとは、訳が違うと内心思いながら、片田がハンドルを握ったまま答える。


「公安がね、あんたのJJMセットは妥当な値段だけど、

私のOYセットの値段が高過ぎるって、ぐちぐち言ってきたから、依頼は完了しましたって、ツッパねたら、最近連絡して来なくなったわ」


ケタケタ笑うユーコは、痛快だろと金髪を掻き上げて、月明かりに照らされた蒼く光る碧眼を、片田に向けた。


ユーコ達は、四宮にある心霊スポットになっていた廃墟のラブホテルを買い取ったオーナーに調査を依頼され、

早速現場に向かうと変異体の男が棲みついており、

対話を試みたが、お約束とばかりに襲いかかって来たので、

あっさり撃退した事の顛末てんまつを、オーナーに説明して無事依頼を片付けて来たのだ。


「ええ?こんな夜中に?」


霧雨の中、歩道を歩く白いヘッドギアの様な物を頭部につけ、上下灰色の入院患者が着る病衣を纏った十代前半ぐらいの少女が、ユーコの視界に飛び込んで来た。



霧雨の中、ユーコ達は歩道を歩く奇妙な少女を横目に、そのまま車を走らせる。


「怖っ、お化けだったりして?」


ふざけながらユーコが言った。


「まさか?家出とかですかね?」


ルームミラーでユーコを見ながら片田が答えたその時、Δ


「ええええ、ユ、ユーコさん、と、隣、」


「は?あんた心霊スポット帰りだからって、私をビビらせようっていうの?」


と、少し語気を荒げユーコがプイっと右側に目をやると、

さっき見かけた、ヘッドギアを頭部にした少女が座っている。


「あっ…」


ユーコは、息を呑んで叫びたい衝動を何とか抑え込む。


濡れた灰色の病衣を纏った少女を凝視しながら、

ユーコが恐る恐る話しかけた。


「え、ええと、あなた、どうしてここにいるの?」


「お姉ちゃん達にお願いがあるの」


「いや、えと、そのね、」


状況が全く整理出来ずに混乱するユーコに、ヘッドギアの少女が尋ねる。


片田は、車のハザードボタンを押して、ゆっくり速度を落とし、ターンシグナルスイッチを操作しながら車を左に寄せて停車させた。


「ちょっと、その、まずどうやって車に乗り込んだの?」


「テレポーテーションの事?止まった時間の世界を、

私だけが動くような感じかな」


は?何を言ってるんだ、この少女はとにかくまともじゃない。


ユーコはエスパーかなと困惑している。


「そう、エスパーっていうの?」


少女がユーコの顔を見ながら聞いた。


「あなた私の心が読めるの?」


「うん、近くにいる人から、心の声が聞こえてくるだけだよ」


うわー何だそれ、人の心が読めるエスパー少女が時間停止か瞬間移動して、車に乗り込んできた?ユーコは、深く考えようとしたが、時間の無駄なので考えるのをやめた。


「助けて欲しいの、私、追われてるんです!」


少女がユーコの方を向いて懇願している。 


「テレポーテーションで逃げれるんじゃないの?」


「私の力は長い時間は使えないし、施設シェルターを出たのは初めてだから」


あなた名前は、とユーコが聞こうとした時、


清子きよこです、お願いします!」


ああそうか、心を読まれているのかとユーコは、口を閉じた。


「何で追われてるんですか?誰に?」


片田が清子の方をルームミラーで見ながら問いかける。


「私の力を使って、悪い事をさせようとする人達がいるんです」


「誰なの?」


「教会の人達」


ユーコが、よからぬ邪教なんだろうと思いに耽っていると、

ユーコ達が乗った黒い4WDの前後に白いハイエースが停車した。


中から灰色の袈裟を纏い、頭には灰色の頭巾を被っていて、顔面部分に漢字で、救世と縦にデカく描かれている。


その異様な集団は、ユーコ達の車両を取り囲み、袈裟の袖から総長50cmぐらい刃渡り250mmオーバーサイズのスリーブナイフを出して、威圧的にこちらの様子を伺っていた。


「おい!ドアを開けろ!」


嗚呼クソ、厄介ごとに巻き込まれたなと溜息を吐いて、

ユーコが片田の方を見ると、


「ダメです、これじゃ出れません」


「そうね、ちょっと話し通じなさそうね」


助手席側のリヤドアを開けて、ユーコが車を降りた。


「おい!その娘を黙ってこちらに渡して貰おう」


袈裟袖から出したスリーブナイフをユーコに向けて、

清子が言っていた教会の信徒と思われる男が、高圧的に要求してくる。


「急にあんた達何なの?」


「いいから黙ってその娘を渡せ」


交渉の余地など無いだろう。


信徒達は、袈裟袖から出したスリーブナイフをユーコに向けてさらに高圧的に凄んできた。


片田は、ユーコが動いたらすぐに車を降りて反撃する機会をじっと伺いながら、信徒達とユーコの挙動を注視している。


「誰か、……来る」


清子がそう呟いた時、霧雨の暗闇に黒い影が現れ、信徒達の背後から強襲した。


信徒達がその場に次々に倒れていく、ユーコ達は何が起こっているのか全く分からず、放心している。


「あんた誰なの?」


いきなり取り囲まれたと思ったら、信徒達が次々とその場にバタバタと突っ伏し、本当に訳が分からないわとユーコが黒い影に聞いた。


「拙者ハヤブサ、クリーナーだ、押忍!」


その黒い影は、律儀に黙礼し、フリーランスクリーナー《対変異体民間個人事業者》のライセンスカードをユーコに見せる。


突如現れたのは、ハヤブサと名乗る黒い忍者装束に身を包んだ、小柄な同業者の男だった。



ユーコは、ハヤブサに同業者のクリーナーである事を伝え、車に突然、清子に乗り込まれて困惑していると説明していた。


霧雨に打たれ突っ伏し、倒れていたはずの信徒達がすくっと立ち上がる姿が、ユーコの視界に入る。


「お前達のような不信心者は排除する」


そう一人の信徒が言うと、信徒達の身体が袈裟の上からでも分かるぐらい、屈強な身体付きに変わり、ユーコ達に襲いかかってきた。


「正体を現したな、外道どもが!」


ハヤブサが背中の忍者刀を抜いて応戦する。


「あんた、さっきこいつら倒したんじゃないの?」


ユーコがハンドガンの引き金を引いて、全く無駄や迷いがない動作から、正確無比な射撃を信徒達の頭部に撃ち込みながら聞いた。


「さっきのは峰打ちだ、まさか変異者とは思って無かったからな」


このクセの強い忍者フリークは、甘いなぁと思いながらユーコは、テンポよくハンドガンをリロードして、何の躊躇もなく、さらに信徒達の頭部へ弾丸を撃ち込んでゆく。


信徒達は、変異体というより毒蜘蛛のチンピラ達の様な強化人間に近かったが、俊敏性はなく、牙や伸びた爪で荒々しく獣の様に襲いかかってくる事はなかった。


両腕の袈裟袖から突き出したスリーブナイフで正確に攻撃してくる。


「カッタいわね、頭に何発も当たってんのにまだ動く、あんた忍者でしょ、何とかしてよ!」


ユーコが唇を尖らせコスプレ忍者を煽った。


「外道、滅殺」


片田と同じぐらいかそれ以上の速さで、ユーコが頭部を撃った信徒達の首を、ハヤブサが鮮やかに斬り落としていく。


コスプレ忍者は伊達ではないようだ。


意外とやるわねーと、感心しながらユーコが辺りに散らばった死体を眺めていると、片田が車から降りて、前方に壁の様に停車された白いハイエースを左腕だけで軽々と押して、

車を発進出来るようにしていた。


「とりゃー!せいやー!」


ハヤブサが残存していた信徒達の首を斬り捨てたその直後、後方からトラックに救世魔神教会と車体に書かれた車列が、眩しいヘッドライトと共にこちらへ接近してくるのが見えた。


「ここは、拙者が引き受けた!ユーコ殿、清子殿を連れて先に行ってくだされ、拙者は後で合流する。押忍!」


じゃ、任せたわと、ハヤブサに手を振りユーコはめんどくさそうに車に乗り込んで、片田にとにかく車を早く出してと指示を出した。


「参ったわね、行けって言っても何処に行くのよ?」


ハンドガンに弾をリロードしながら、

ユーコがボヤいていると、ユーコのスマホが震えた。


「もしもし?え?魚家さん、そうなのよ変な連中に追われてて、え?そうそう忍者が出てきて」


ハヤブサは公安が雇ったクリーナーで、清子の身柄を護衛していたらしい。


魚家は、ユーコ達に清子を須魔水族館近くで待機している、公安車両まで連れて来て欲しいと指示した。


「須魔水族館近くで公安が待ってるから、

そこまでこの娘を送ってだって、とんだ、Uber work だわ」


「須魔なら西へ、このまま国道二号線を真っ直ぐですね、飛ばします、二人ともしっかり捕まって下さい」


そう言うとハンドルを握りしめ、周囲を確認してから片田はアクセルペダルを力強く踏み込んで、車を急発進させた。


「Pedal to the metal《アクセルベタ踏みで》」


ドアミラーに写る、忍者ハヤブサの後ろ姿を観ながら、ユーコの唇が動いた。



清子は怯えていた。


何でこんな事になったんだろうか?


教会に実験体として扱われる日々、自分が生きているのか死んでいるのか?分からなかった。


たまに外出した際に、楽しそうに毎日を送る同い年ぐらいの子達を見るたび、悲観し絶望する日々。


自分には両親やこれまでの記憶がなかった。


あるのは、救世魔神教会の施設と呼ばれる場所で繰り返される、様々な超能力実験だけだった。


そんな記憶の断片が頭をよぎり俯いている。


「私もあなたぐらいの時、なんで私だけこんな目に合うんだって思ってたわ、そしてきっと、いつか誰かがこの世界を変えてくれる、そんな気でいたの」


座席のヘッドレスト越しに後方警戒をしながら、ユーコが清子に話しかける。


清子の曇った表情にほんの少し光が差したように思えた。


「クソッ、正気じゃないですね」


ユーコ達の乗る車が、不快な金属音とともに衝撃で大きく揺れる。


並走しているトレーラーが、ユーコ達の車に車体を寄せて体当たりしてきてた。


片田が、ハンドルのコントロールを体当たりの振動で妨害されて車体が左右に揺れる。


後ろにばかり気を取られ、並走してきたトレーラーに気が付かなかったと、片田はハンドルを叩いた。


トレーラーのコンテナ部分、ウイングボディが上向きに開くと中から信徒達が拳銃を構えて、ユーコ達の乗った車に弾丸を撃ち込んだ。


「キャー」


清子の叫びが、片田とユーコの頭の中で反響する。


割れたガラスが車内に飛び散った。


清子の頭を抑えて、姿勢をさらに低くさせ、

フロアマットにしゃがむ様にユーコが冷静に指示を出す。


ユーコは、撃ってきた信徒達にハンドガンの銃口を向けるが、体勢が悪く何発か発砲するも、車の揺れや視界が悪く当たらない。


「ヴァルハラ行きは勘弁して欲しいわ」


マッドでマックスな軽口を叩くユーコは、

胸や肩に被弾して、後席シートは血の海と化している。


「お、お姉ちゃん、血が」


フロアマットに滴るユーコの血を見て、震えた声で清子が呟いた。


「かすり傷よ、心配しなくていい、伏せてなさい」


ユーコは、慣れた手つきで被弾した弾丸をぐりぐりと指でほじくり出して、フロアマットに投げ捨てる。


その時、後方から甲高いエンジン音と共にハヤブサが、黒いバイクに乗って猛追してきた。


車体にはNINJAの文字が刻まれている。


「外道、滅殺」


そう叫びハヤブサは、バイクをウィリーさせて、ユーコ達が乗る車とトレーラーの間に割り込み、信徒達の銃弾を避けながら、勢いよくトレーラーの荷台にバイクで駆け上がった。


「マックス並みじゃない、ヴァルハラには行かなくてすみそうね」


被弾した傷口を再生させたユーコが、不敵な笑みを浮かべて軽口をたたく。


ハヤブサはバイクから降りて、スリーブナイフで斬りかかってくる信徒達を荷台から蹴り落とし、接近してくる者は首を非情に斬り落として滅殺していく。


ハヤブサは、荷台の信徒達を掃討すると、素早く運転席へ駆けていった。


後方から新手のトラックが迫ってきている。


「嘘でしょ」


ユーコ達の車のバックドア付近にもりが打ち込まれた。


「私は、救世魔神教会、神の化身、品内浄 (しなないじょう)様に使わされし角田 (かくた)、不信心者達に裁きの鉄槌を与えん」


一際体格の良い大柄な角田と名乗る信徒が、トラックルーフに固定された銛撃ち砲台をロックして叫んだ。


信徒達が、袈裟袖から突き出したスリーブナイフをギラつかせ、ユーコ達の車に乗り移ろうとしている。


ユーコは、運転中の片田に散弾銃を早く貸せと手を伸ばし、ひったくるように手にとると、リアパネルごと散弾銃をぶっ放した。


銃口から火花が噴き出し、低い重低音が車内に轟き、リアパネルのガラスが後方トラックのフロント目掛けてキラキラと爆散していく。


ユーコは、散弾銃の銃砲身で、凸凹になったリアパネルのガラスをさらえて視界を整えた。


ガシャと散弾銃をリロードして構えると、

低い炸裂音を鳴らしながら銃口から火花を出しながら、後方のトラックに向けて発砲する。


しかし、角田が乗るトラックは防弾仕様で無傷だ。


「効かぬ効かぬ、不信心者が抵抗しても無駄だ、さっさとその娘をこちらへ渡せ!」


角田が巨大な薙刀を振り回しながら、こちらを煽っている。


銛はまだ、ユーコ達の車のバックドアに突き刺さったままだ。


片田の踏むアクセルペダルが重たく、中々踏み込めない。


車のスピードが、徐々に銛に引っ張られて減速していく。


「このままだと捕まります、ユーコさん!」


「しつこい勧誘は、お断りよ!」


ユーコがそう叫び、散弾銃を撃ち込んでいると、並走していたトレーラーが、銛に引っ張られながら走行している角田が乗るトラックの横まで下がってきた。


「いざ参る!」


ハヤブサは、運転手を蹴り落としてハンドルを奪うと、トレーラーを減速させ、ユーコ達の車に銛を打ち込んでいるトラックに体当たりした。


銛砲台がついたトラックの荷台から、ユーコ達の車に乗り移ろうとしていた信徒達数名が、体当たりされた振動で荷台から落下して道路に叩きつけられ転がっていく。


角田は、ハヤブサが運転するトレーラーの荷台に飛び移った。


両腕の袈裟袖からスリーブナイフを突き出した信徒の一人が、ユーコ達の車体のバックパネルにナイフを突き刺して飛び乗ってきた。


さらに、もう二人が一人目の信徒の背中の上を通って、ルーフの上によじ登って来ている。


もう一人はリアパネルがあった空洞から、ユーコに向かってスリーブナイフで、ヘッドレストごと突き刺してきた。


「キャー」


清子の甲高い悲鳴が車内に響いた。


ユーコが、スリーブナイフの切先を散弾銃で防御した拍子に、センタークラスター辺りへ弾かれた。Δ


片田は、飛んできた散弾銃を左手でキャッチしてリロードしようとした時、運転席側のウインドウを信徒のスリーブナイフが何度も突き刺して割った。


ユーコは、リアパネルからスリーブナイフを突き刺してくる信徒の頭部にハンドガンを連射して撃ち落とす。


片田は、砕かれた窓の穴に散弾銃の銃口を差し入れ、信徒に向けて発砲し吹っ飛ばした。


橋渡し役をしていた信徒が、ユーコ達の車のルーフ中央によじ登り、スリーブナイフで突き刺そうとした瞬間、車内から屋根に向かってユーコがハンドガンを連射する。


被弾した信徒が屋根から落下していくのが見えた。


「あんた大丈夫?」


ユーコがハンドルを握る片田に問いかけると、片田の右肩から血が滲んでいた。


「それより銛を何とかして下さい」


分かったと小さく頷いたユーコは、ナックルガード付きファイティングソードとワイヤーアンカー付きアームパッドを装着した。


助手席側のリヤドアを開けて、走行中の風圧を受けながら立ち上がり、後方の銛トラックを睨みつけながら対峙した。


「この代償は高くつくわよ」


ユーコは、ワイヤーアンカーを後方トラックのルーフに固定された銛撃ち砲台に放って、銛トラック上部に飛び移る。


「キェェェェェェェェェェェィィィィィ」


奇声を上げて信徒達が、両腕のスリーブナイフの切先をユーコに向かって突き刺してきた。


ザクザクとユーコの身体にスリーブナイフが突き刺さる、感触が突き刺した信徒に手ごたえとして伝わる。


何度も胸や腹部を突き刺され、夥しい血がユーコの身体から流れた。


しかし、ユーコは凶々しい笑みを浮かべながら、ナックルガード付きファイティングソードで信徒達の首を掻っ切っていく。


「バ、バカな、何故死なない?」


信徒の一人が畏れ退いた。


「もう遅い、あんた達はやり過ぎたのよ」


スリーブナイフで刺された傷口を、白い蟻の様な糸状の何かが急速に結合して、ユーコの傷口が塞がり、血が止まっていく。


「化け物め」


「あんた達が言うの?」


ユーコは、残りの信徒達を滅多刺しにして、それでも抵抗してくる信徒を、走行するトラックの荷台から道路に蹴り落とした。


「やはり邪教徒か、ならば浄化してやろう」


角田の身体が変異していく。


ハヤブサが、小刀でトレーラーが止まらない様にアクセルペダルに突き刺し固定した。


角田の背中から漆黒の翼が生えて、ユーコに向かって飛びかかろうとした時、背後からハヤブサが角田に斬りかかったが、空を斬った。


角田は、すでに空中に浮かび上がっており、邪魔な信徒を蹴り落とした。


角田に背を向けていたユーコに、漆黒の翼を羽ばたかせ、空中から薙刀を振り下ろしながら強襲する。


「チェストー」


一瞬だったユーコの胴体と両腕が、横一線、真っ二つに切り離されいく。Δ


「まだだ」


角田が、ユーコの顔面にトドメの一撃を加えようと薙刀を振り下ろそうとしたが、そこで静止した。


「甘いわね、クソ信者」


切り離された両腕からワイヤーアンカーが放たれ、角田の翼を巻き込み身体に纏わりついて身動きがとれない。


ハヤブサが角田の背後に密着して、ゼロ距離から背中に両腕を変形させた砲口を近付けると、轟音とともに角田の身体が爆ぜた。


角田の胴体が消し飛ぶ。


ユーコは素早く身体を再生して起き上がり、

角田の頭部を左手で掴んで右手に握られたファイティングソードの切先を眉間に突き刺した。


「がぁ、これで私は殉教者になれる」


角田の最後に発した恍惚の断末魔。


「あらそう、解脱おめでとう」


ユーコが突き刺した剣先に再び力を込めて、角田の顔面が無慈悲に真っ二つに切り裂かれて、角田だった肉塊が黒く灰の様になって夜空に霧散していく。


「サイボーグ忍者ね」


「ユーコ殿こそ、不死身ですな」


ニチャリと笑うユーコを背に、銛砲台から伸びた鎖をハヤブサが忍刀で断ち切った。



ユーコ達とハヤブサは、須魔水族館前で待機していた公安車両のバスに向かって、四人で歩き出していた。


「また派手にやったなあ」


魚家が頭を掻きながら煙草に火をつけて、

堪らないなぁと煙を吐きだす。


「ちょっと、この車、勿論そっちに請求しますから」


血だらけでぼろぼろのユーコは、冷ややかな碧眼で魚家を睨んで、もう廃車確定、穴だらけの車体から白い煙を上げている黒い4WDを指差して言った。


「お姉ちゃん!」


清子がユーコに駆け寄って来る。


「いい、強くなりなさい、あなたにどんな能力があっても、一人では生きていけないのよ」


ユーコが清子に目線を合わせて冷たく言った。


清子は、小さく黙礼して公安の警官に連れられ、バスの方へ歩き出して行く。Δ


「サイボーグのお姉ちゃんと忍者さんもありがとう!」


清子が振り向いて手を振りながら笑った。


「ユーコさん怖すぎですよ」 


「あの娘には、これからもっと辛い現実が待ってるから」


そう言いながら、ユーコと片田は清子が乗ったバスが出発するのを見送り、魚家とハヤブサに別れを告げてから帰路に着く。


「あ、天天、須魔支店があるじゃない!行こう」


「何も食べてないですし、賛成です」


ユーコと片田は天上天下、略して天天というラーメン屋に入って行った。


「すいません、私どろ大盛りと餃子下さい」


サイボーグなのによく食べるなあと思いながら、私も同じでとユーコも注文する。 


「清子ちゃんどうなるんですか?」


「そりゃ、公安が保護してくれるんじゃない?」


「まあそうですけど、あの救世何とかって教会が、また狙ってくるんじゃないですか?」


「そりゃ、まあ私達が考えてもしょうがないでしょ」


天天のどろ大盛りと餃子を食べながら、二人はこれぞ本当の救済だと噛み締めていた。


そして会計に至り。


「え、え、え、嘘でしょ」


「どうしたんですかユーコさん?」


空っぽの財布の中身を片田に見せて、狼狽するユーコの顔を見て、


「分かりました、私が立て替えます」


冷徹にユーコを見ながら片田が言った。


ユーコは、支払いは任しとけ!これでも幽合会社長だぞっ!とドヤ顔をしていた数分前の自分の事を思うと、恥ずかしくて堪らなかった。


「あ…………」


ユーコは、全てを理解した。


清子の仕業だ、あの娘こんな事に時間停止能力使いやがってと、溜息をついた。


それに信徒達と戦っていた時、ユーコが散弾銃を弾かれて、それを片田が左手でキャッチした時も、清子が時間を止めて……まあ、今さら考えてもしょうがない事だ。


やるじゃない、強くなりなさいってこういう事じゃないんだけど、清子に一本とられたと頭を掻きながら苦い顔でユーコは笑った。


「夢見る少女じゃいられないか……BANG」


─────────

See you in the next nightmare ...

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