第5話 む、蒸し暑い

教室がワイワイしている。

その理由としては、俺と蘭子がデートしていた、という事が持ち上がっているのだ。

俺はその事に対しては苦笑いしかない。

だけどまあこうして優しく見守ってくれるだけ有難いのかもな、と思う。

女子と会話していた蘭子が戻って来る。


「.....やれやれだね」


「蘭子。お前も大変だな」


「そうだね。まあでも説明したから問題は無いけど」


「.....そうか?どういう説明をしたんだ」


「私と彼はそんな関係じゃ無い、って。そしたらまあ女子達は納得してくれたみたいだ。私にそれ以上追求しなかった」


「そうか。有難うな。誤解を解いてくれて」


「こういうのは鬱陶しいからね」


そうして俺は大欠伸をしてから窓から外を見る。

すると、君はどうなんだい、と聞いてきた。

蘭子が俺を見ながら。

どうとは何が?、と思いながら蘭子に向く。


「何かこういう噂を立てられて.....不愉快じゃないのかい」


「蘭子となら構わないって思ってるよ。.....寧ろ蘭子だから許すって感じかな。全然気にならない」


「そ、そうなのか」


「そうだな。まあこれが知らない他の女子と噂だったら嫌だけどな」


「き、君は相変わらず恥ずかしい事を言うね.....」


「そうか?」


よく分からんが恥ずかしいならもう止めておこう。

思いながら俺は口を噤んだ。

すると、でも私も悪い気はしないね、と笑みを浮かべる。

どういう意味だよ?、と苦笑する俺。


「でもこれ以上噂が広まると君の過負荷になるからね」


「.....有難うな」


「ああ。.....そう言えば一つ聞きたいんだけど」


「何を聞きたいんだ?」


「君はまた恋をするのかい」


「ああ。その事か。.....恋はもうしないだろうな。人に迷惑を掛けるし」


そうか、と返事をする蘭子。

何でそんな事を聞くんだ?、と蘭子に向くが。

蘭子は、気にするな、と返事をしてそっぽを向いてしまった。


一体何だ?、と思いながらその姿を見る。

微かに頬が赤くなっている。

するとこんな事を言い始めた。


「や.....やー。暑いな」


「.....いきなりだな?熱でもあるのか?」


「そ、そういう訳では無いがね。でも暑いと思わないかね」


「まあ確かにな。蒸し暑くなるだろうなこの先」


俺は外を見ながら考える。

まあ6月も後半だしな、と思う。

それからチャイムが鳴った。

俺達は挨拶してから別れてから。

そのまま授業をまた受けた。



「先輩」


「.....どうしたんだ。美津」


屋上でご飯でも食べるか、と思い蘭子を誘って行こうとした時。

目の前に美津が現れた。

そして俺を見上げてくる。

これどうぞ、と言ってくる。


「.....何だこれ?」


「飲み物です。.....言い過ぎたお詫びです。.....手作りご飯とかにしようと思いましたがそれは毒が入っているかと誤解されても困るので。そこの売店で買ってきた未開栓の飲み物です」


「別にそうは思わないが。わざわざすまないな」


お茶である。

それも3本入っている。

俺は、もしかして梅の分もあるのか、と聞くと。

はい、と返事をした美津。

それから俺をジッと見てくる。


「.....先輩。放課後空いてますか」


「.....放課後?.....空いているっちゃ空いているが。どうした」


「放課後にお話がしたいです。.....今後の私達の関係とかそういうの、です」


「.....分かった」


すると蘭子が、それは私も行って良いかい、と尋ねた。

俺は、?、を浮かべて蘭子を見る。

蘭子は真剣な顔で美津を見る。

美津は、はい。大丈夫です、と返事をする。


「私は.....気持ちが本当に揺らいでいるので.....」


「その何とも言えない気持ちは分からなくもない。俺が全ての原因だから。ここで話し合いをした方が良いだろうな」


「.....有難う御座います。一応、梅先輩も来るみたいですので」


「.....そうか」


そう返事をしながら俺は美津を見る。

美津は、では、と言いながら立ち去ろうとする。

俺はその背後に、サンキューな、と声を掛けてみる。

すると後輩の足が少しだけ止まり。

それからまた歩き出した。


「彼女も葛藤しているんだね」


「.....まあそれはそうだろうな」


「君はどうしたいんだい」


「俺としてはやはり話し合いしかないと思う。姉ちゃんも言ってたしな。話を聞いて歩み寄るのが大切だって」


「.....相変わらず君は優しいね」


「優しいと言うか罪滅ぼしの様な気がする」


言いながら俺はビニール袋に入っているお茶を見る。

それから盛大に溜息を吐いてから天井を見上げる。

そして、行くか。蘭子、と言いながらそのまま屋上まで向かった。

そうしてからドアを開ける。



「お弁当作ったんだが食べるかね」


「.....へ?お前が.....?」


「この前の博物館のお礼というかね。そんな感じだ」


「.....ああ。気にしなくて良いのにな。サンキューな」


正直、蘭子から弁当がもらえるとは思わなかった。

俺は思いながらお弁当を受け取る。

それから中身を開けてみる。

そこに綺麗に陳列された料理が.....。

え?コイツって失礼だが料理出来んの?


「お前って料理出来んのか?」


「そうだね。.....まあ哲学だけが全てじゃないんだよ」


「良い奥さんになるぞお前」


「なっ」


「.....え?」


真っ赤になる蘭子。

それから目を回して慌て始める。

何だコイツ、と思いながら蘭子を見る。

そして目をパチクリした。

すると無理矢理に蘭子が話題を変える。


「.....と、所で。君は哲学に興味はあるかね?」


「哲学?」


「ああ。哲学は良いぞ。色々な事を学べるしな」


「.....そっか。お前が言うなら学んでみる。まあ何つーか恋の哲学とかあればなぁ」


「.....ふむ.....」


それは私も学びたい、とボソッと何か聞こえた気がしたが。

俺は?を浮かべて蘭子を見る。

蘭子はモジモジしていた。

うーん。

やっぱりなんか最近様子がおかしくね?コイツ.....?

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