第2話 ビーナス
いじめ、という言葉で何を思い浮かべるだろうか。
俺としては思い浮かべるものは、死にたい気持ち、だ。
その言葉の通り幼馴染の梅はいじめの影響で何度も死にたい気持ちになったそうだ。
だけど俺は助ける事が.....出来なかった。
そのお陰でツケが回ってきているのだが。
「帰ろうじゃないか。正」
「ああ。じゃあ帰るか。蘭子」
放課後になった。
俺は夕陽が差し込む教室でそう言われたので立ち上がる。
それからそのまま蘭子と一緒に帰宅しようとしていると下駄箱で梅に遭遇した。
俺を見てから目を見開いて嫌悪の顔をする。
そしてそのまま去って行く。
「.....君も大変だな。同志よ」
「もう慣れたけどな。こういうの。もう関係は戻らないだろうしな」
「そうかね。でもまあ確かにな。人の関係性っていうのは脆いからね」
「そうだな。儚く脆いよな」
「ああ」
蘭子は嫌な顔をする。
そして過去を思い出している様だ。
俺はその姿を見ながら溜息を吐いた。
すると蘭子が、だが君はまだチャンスがある、と切り出す。
「チャンス?何処にあるんだ?」
「君の場合だが幼馴染さん達はまだ死んでないだろう。正」
「.....成程な。その点はお前と違うもんな」
「そうだ。まだチャンスはある。何処かにね。私はもう大切な人は亡くなった。私を遺してからな。恨みしかない」
「まあ確かにな。.....それもあっておじさんの事が気になる」
何というか蘭子の母親が自殺したのだ。
列車の飛び込んで自殺したのである。
この自殺方法だと賠償金を払わなくてはならない可能性が高いのだ。
その事に蘭子は怒っていた。
と同時に悲しみに包まれていたのだ。
「私が捻くれたのもこれが原因かもな」
「.....何処が捻くれているんだ?お前」
「私の性格は嫌いだ」
「お前の性格はマシな方だよ。俺よりかは何倍も」
そんな感じで会話をしながら帰宅していると。
蘭子が校門の辺りで、ちょっと付き合ってほしい、と切り出してきた。
俺は、?、を浮かべて、ああ、と返事をする。
すると蘭子は俺達が帰っている方角とは別の方角に行き始めた。
「蘭子。何処に行くんだ?」
「宇宙博物館だね」
「.....ああ。隕石とか宇宙服のある場所だな?」
「そうだね。.....一緒に見たい」
「お前らしくないじゃないか。一人で見るのが好きだろ?そういうの」
「今日は何となく、だね」
「成程な」
そんな感じで話し合いながら近所の博物館に来る。
ここには蘭子が好きな天体ものがある。
蘭子がそういうのが好きな理由が1つあるのだがそれは母親の事に関連している。
その為に蘭子は天体が好きなのだ。
「.....しかし改修すれば良いのにな。この博物館」
「お金が無いのだろう。仕方が無いさ」
「まあそれで解決したらそれっきりだけどさ」
そして俺達はチケットを買う。
博物館のチケットを。
それから博物館の中に入る。
築50年目の博物館。
規模は小さいがそれなりに色々展示している。
「今日は何で俺を呼んだんだ?」
「そうだね。.....まあ気まぐれというのもあるけど。親の話をしたから、だろう」
「.....そうか。母親の事か」
「そうだね」
それから俺達は宇宙展示室に向かう。
そして周りを見渡す。
ちょっとだけ内装が変わっていた。
だけど隕石とかはそのままである感じだ。
展示が、であるが。
「3日ほど改修していたからな」
「内装だけ、だ。でも確かに雰囲気が良くなった感じだね」
「そうだな。.....まあでも詳しく見れる様になった感じで良かった」
そうしてから蘭子を見る。
とある場所に釘付けになっていた。
それは宇宙服の横にある天体の模型。
そこには金星の模型があった。
俺は少しだけ複雑な顔になって言葉を発する。
「確かビーナスだな」
「.....そうだね。皮肉にも私の母親の名前だ」
「嫌いか」
「今の私には嫌いだね。何故母親は私とかを.....」
そこまで言ってから眉を顰める蘭子。
そして唇を噛んでいた。
俺はその姿につい引き寄せてしまう。
それから頭に手を添える。
「.....落ち着け。蘭子」
「.....そうだね」
蘭子は唇を噛むのを止める。
何時迄もクヨクヨはしてられないな、と蘭子は金星の模型を見ながら呟く。
それから俺の手を振り払った。
恥ずかしい、と言いながら。
その姿に態とらしく俺とお前の仲じゃないか、と言うと。
赤面した。
蘭子、がであるが。
何だ?
「.....?」
「冗談でもよせ。い、今は恥ずかしい」
「.....???」
今はそのタイミングじゃ無いからな、とも言う蘭子。
何だコイツは?、と思いながら、トイレに行く、という蘭子を見ていた。
俺はそのまま1人残される形になる。
どうしたんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます