第61話 「私は──」

 いきなり明人に見られ、手を握られ音禰は顔を真っ赤にし慌てふためく。

 そんな彼女を気にする余裕がない明人は、まっすぐと見つめ問いかけた。


「お前、今、彼氏いねぇの?」

「えっ? い、居ないけど」

「まぁ、女っ気ないもんな。もう少し自分に金かけた方がいいんじゃないか? 男一人すら寄ってこないなんてやばいだろ。年齢的にももうそろそろ相手を作らねぇと結婚すら出来ねぇぞ」

「よ、け、い、な、お、せ、わ、よ!!!!」


 先程とは違う意味で林檎のように顔を赤くし、音禰は怒鳴りつけた。

 明人はそれを笑いながら受け止め、そのままゆっくりと顔を俯かせる。


 普段の明人らしくない弱々しい空気に、彼女は作った握り拳を戻し、耳を傾けた。


「まぁ、そうだな……。こんな女っ気ない奴を貰ってやれるのは、一人だけだろうな」

「だから余計なおせっ──え?」


 俯いてしまった明人の顔を確認する事は出来ないが、髪から覗く耳は付け根まで赤く、右手が微かに震えていた。


 その様子を目にして、音禰は彼の言葉の意味を理解する。蒸気が頭から出るほど顔が赤くなり、言葉にならない声を発していた。


 真陽留はいきなりの告白に頭を抱え「素直に言えよ。らしいけどよ」と一人呟く。


「────まぁ、もう人間ではない俺だ。確実にお前は普通の生活を送ることは難しくなるだろう。それも含め、お前自身で決めろ」


 照れ隠しのような明人の言葉にカクリは溜息を吐き、ベルゼはつまらないというような顔を浮かべ彼の足を蹴っていた。


 明人の様子を見て、遠回しな告白をされて困惑していた音禰だったが、赤い顔はそのままに、彼を見る。


 彼女の震えていた口には、微かな笑みが浮かび、目を細め繋がれている手を握り返した。


 ピクッと彼の手が震える。少しだけ上げた明人の顔は赤く染まり、不安げに音禰を見上げる。


「相想、私はね。どんな生活が待っていようと関係ないの。私は私の気持ちを一番に優先するわ」


 明人の漆黒の瞳と、音禰の茶色の瞳が交じり合う。


「相想、私は――……」


 今、この瞬間。この場にいる人全員がその言葉を耳にし、そして──…………

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