第49話 『お帰りください』
優しく、温かい映像が流れ続ける中、明人は不審な点を見つけぼそりと呟いた。
「映像が何度か切り替わっているが、何故いつも家の中なんだ?」
明人が疑問を零すと、それに答えるように彼の後ろから淡い光が現れる。
気配に気づき振り返ると、そこには映像に出ていた少年、純彦が顔を俯かせ立っていた。
「…………お前が、純彦か?」
問いかけると、純彦はゆっくりと顔を上げ左右非対称の瞳を向けた。
純彦の顔を見た瞬間、明人は片眉を上げ、胸糞悪そうに舌打ちを零す。
「その顔の傷はなんだ」
明人が問いかけるように、純彦の顔、よく見ると体にも複数の傷跡がはっきりと刻まれていた。
明人が純彦に問いかけるも、何も言わない。ただ、指で映像をさしただけ。
振り向き、今だ幸せな映像が流れている空間を再度見る。そこに、明人が知りたい情報があると、純彦がそう言っていると信じて。
改めて映像を見ると、今度は幸せな光景ではないとわかる物だった。
いつも焦りを見せない男性が、今回だけは勢いよくドアを開け家の中に入ってくる。
家の中でいつものように敗れた服を縫っていた女性は、男性が勢いよく入ってきた事に驚き、焦りを滲ませながら問いかけた。
『どうしたの、あなた……?』
女性が手に持っていた針と服を畳に置き、男性の方に慌てて目を向けた。純彦も不安げな表情を浮かべながら一緒に見る。
『役人がここまで来ている』
『なっ、なんで役人様がここまで──』
男性と女性は顔を青くし体を震わせ始める。純彦はなんの事か分からず、女性の袖を掴み見上げていた。
『やくにんってなに?』
純彦の言葉に女性は何も言えず口を噤む。そのまま、宝物を包み込むように自身の胸に抱き寄せた。
『大丈夫、大丈夫よ。必ず、貴方は私達が守るから。大丈夫』
女性は体を震わせ、何度も『大丈夫』と繰り返す。まるで、自分自身に言い聞かせるように。
男性は出入口付近から動かないで、手でドアを押さえている。すると、いきなりドアが強く叩かれた。
ドアを破壊しようとしているのではと思うほど強く叩かれ、押さえている男性は踏ん張り、開かないように必死に抑え込む。すると、音は止み、静かな声が部屋の中に聞こえた。
『すいません。こちらは
外から若い男性の声が聞こえた。その声には抑揚がなく、感情がない。台本を渡され、そのまま感情を込めずに読んでいるような声色に、逆に恐怖を感じた。
純彦も危険を感じ、女性の着物をぎゅっと握り直した。
『お留守じゃない事は分かっています。早くこちらを開けてください。でなければ、無理やりにでも開けますよ』
その声に、男性と女性は目を合わせ頷いた。
覚悟を決めたような顔を浮かべ、男性はその場から動き、ゆっくりと開ける。
そこに立っていたのは、武士のような服を身にまとった男性二人と、おじいさんが一人。隣には、綺麗な着物を身にまとっている上品そうな女性が一人立っていた。
『なにか御用でしょうか』
『お宅に居ます、純彦という名の子供を引き取りに来ました』
『何故ですか』
『鬼神様への捧げ者として、今年は貴方達の子が選ばれたのです』
『ふざけないでください。なぜ私達の子なのですか』
男性は冷静を保ちつつも、我慢できない怒りで体を震わせながら突っかかる。だが、相手は刀を腰に差している武士。なにかすれば斬られてしまう可能性があり迂闊な事は言えない。
『貴方達の子は悪魔の子と呼ばれているそうですね。この村にとってその子は害をなす存在となったのです』
『あの子は悪魔の子なんかではありません、お帰りください』
男性が言い切るが、役人の一人がまた口を開き説き伏せようとした。その時、後ろに立っていたおじいさんが一歩前に出て、役人を下がらせる。
『確かに、その子は悪魔の子では無いのかも知れません。ですが、左右の目の色が違うではありませんか。それは、新たな病の可能性があります。それがもし周りに感染でもしたらどうするのですか。もしそれが不治の病だったら、貴方達は責任を取れますか?』
おじいさんは前に出ると、諭すような言葉を投げかける。その声にも抑揚は無く、感情が一切感じられない。
『ですが、純彦は今まで元気に育ってきました。もし病気なのであれば、今は寝込んでいるはずです。なので、純彦が病気の可能性はひくっ──』
『しかし、ゼロではない。それは貴方達も分かっていると思います』
男性の言葉に対し、間髪入れずにおじいさんが口を挟む。それにより、男性は何も言えず口を閉ざしてしまった。
『可能性がゼロじゃなければ、その病気が広がる前にこの村のため、生贄になってもらわねばならない。ただ死ぬのと、村のため生贄になるの。あの子にとってどちらが良い死なのか、親なら考えた方が良い』
おじいさんは淡々と口にし、男性は後ろをちらっと見る。
怯えた表情で今までの会話を聞いていた女性と純彦。その表情を見て、男性は決意を固めもう一度おじいさんに顔を向けた。
『なんと言われても、私達は純彦を貴方達に渡しません。お帰りください』
男性が言い切ると、おじいさん息を吐き、仕方がないというように右手を挙げた。
「そこまで言うのなら仕方がない。殺れ」
おじいさんの指示に従い、男性二人が刀を引き抜いた。
『やめてください!!! この子は悪魔の子なんかじゃありません!!』
『そうだ!! この子は私達の子だ。悪魔の子なんかじゃない!!! やめてくれ!!』
二人の最後の叫びも虚しく、それからは残虐な行為が明人の目の前で繰り広げられた。それは、一瞬の出来事。
男性が最初に斬られ、次に女性が腕、頭と切り落とされる。それにより、その場は血の海となった。
純彦は動かなくなった両親へと、返り血で染まった服など気にせず手を伸ばした。
血と涙が混ざり頬から流れ落ちる。両親に手を伸ばす姿を明人は、胸糞悪いと言いたげな瞳で見続けてた。
純彦はそのまま腕を引っ張られ、両親から無理やり離されてしまった。
何度も何度も手を伸ばし、泣き叫び両親を呼ぶ。それでも、役人達は引っ張る手を緩めずそのまま引きずる。
ずっと泣き叫び続ける純彦が煩わしくなり、最終的には左頬を殴り気を失わせた。
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