第48話 『絶対に負けないわ』
明人は何も見えない闇の空間で目を開ける。周りを見回すが何も無い、よく知る闇の空間が広がっていた。
「これが悪魔の匣か。悪魔にもあるのか分からんかったが、入れたからまぁいいか」
変わったものがないか周りを見回し続けていると、背後から砂嵐の音が聞こえ振り返る。そこには映画館のような、大きなスクリーンのようなものが浮かび上がっており、一つの家の中が映し出された。
「これが、悪魔の記憶か?」
映像の中には囲炉裏があり、赤く炎が灯されている。その周りには座布団が三つ置かれていた。
そのうちの一つに座っている綺麗な女性は、ボロボロの着物を着て何かを作っている。手にしているのは白い布と針。その隣には、左右非対称の瞳を持つ一人の少年が興味津々な表情を浮かべながら座り、女性の手元をキラキラと輝いているような瞳で見続けていた。
『お母さん、それはなぁに?』
『ふふっ。これはね──ほら、完成したわ。これを
『僕の左目?』
『そうよ。ほら、これで貴方は周りの人と同じだわ』
純彦と呼んだ少年に、女性は左目に白い眼帯を付けてあげた。
『ふふっ、お似合いよ純彦』
純彦の髪を巻き込まないように頭の後ろで紐を結び、頬を両手で挟みながら笑みを零す。女性の言葉と表情を見て、純彦も釣られるように満面な笑みを浮かべ、女性に抱きついた。
『ありがとう! お母さん!!』
『あらあら。甘えたさんなのかしらね』
そんな二人の空間はすごく幸せな家族の時間。どこの家庭にも有り得る、平和な時間が流れていた。そこに、一人の男性が古い袴を着て、傷だらけの体で帰ってきた。
『あなた、今日も怪我をしてしまったのね。大丈夫?』
女性が言うように、男性の左頬には大きな切り傷が作られており、手にも血を滲ませていた。そんな男性に女性が近付き、心配そうに手を伸ばす。
頬についている傷口に手を触れられると、男性は少し悲しげに微笑み、その手を優しく包み込み『大丈夫だよ』と口にする。
そのあと、純彦の所へ行き片膝をつき、頭を撫でた。
『お父さん、痛い?』
純彦は男性の傷だらけの手をぎゅっと握り、眉を下げ心配そうに聞いた。それを、先程と同じく、優しい微笑みを浮かべながら男性は『大丈夫』と口にする。
『それより、純彦、この左目のはなんだ? 随分とかっこいいのを付けているじゃないか』
ケラケラと笑いながら、男性は純彦の左目に付けられている眼帯を指さした。
『うん!! お母さんが作ってくれたの!! かっこいい?』
『あぁ、すごくかっこいいぞ。さすが私の息子だ。私に似てかっこいいなぁ』
男性は嬉しそうに純彦を抱っこし、立ち上がる。
『ちょっと、それだとあなたがかっこいいという事になるじゃない。やめなさいよ』
『えぇ、それは事実だろ?』
『嘘八百よ』
『お父さん、うしょはっぴゃくだぁ〜!!』
『なっ、純彦まで……』
一つの家族の笑い声が響く。すごく楽しそうで、理想の家族が映し出されていた。
明人は光景を見て、首を傾げ考える。
「まさか、あの悪魔、もとは人間だったのか?」
疑問を口にするが、どこからも返答はない。
彼が考え込んでいると、映像は砂嵐をはさみ切り替わった。
次に映し出されたのは、女性が男性の傷の手当をしているシーン。
『いてっ』
『あ、大丈夫?』
消毒が沁み、男性は顔を歪めた。
『いや、大丈夫だ』
『そう……。今日も結構やられてしまったのね』
『あぁ。まったく、本当に酷い奴らだ。私の大事な息子を悪魔の子だなんて。こいつは誰よりも優しくて、周りがしっかり見えている賢い子だと言うのに』
『本当にそうよね。ただ、目の色は病気じゃないかとても心配なの。なぜ、あの子の左目だけ赤色なのかしら』
『考えても仕方が無いだろう。今一番に考える事は、純彦の安全と将来についてだ』
『そうよね。私達が不安になってはダメよね!!』
『そうだ。私達でこの子を守らなければならない。これからも周りから酷い事をされるかもしれないが、耐えられるか?』
『もちろんよ。純彦のためだもの。絶対に負けないわ』
二人は真剣な顔で言い交わす。そんな中、純彦は気持ち良さそうに眠っており、寝返りを打つと男性にぶつかり、幸せそうに手をぎゅっと握った。
それを見て、二人は優しく微笑み、頭を撫でた。
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