変わらぬ想い

ベルゼ

第44話 「見つけた──」

 ガシャ……ガシャ……


 小屋の奥にある洞窟の奥から、金属が擦れるような音が響いていた。

 中心に浮かぶのは、光り輝く水晶玉。それにより、辺りは淡く照らされていた。


「っ、なぜこんな事をする。貴様は何を考えておるのだ!!!」


 洞窟の最奥、カクリは黒い鎖で両手両足を壁に繋がられ、身動きが取れない状態になっていた。それだけではなく、目にも黒い布が巻かれており、何が起きているのか見る事すら出来ない。


「そう喚くな。そんなに時間はかからん」


 カクリの質問に答えたのは、明人に大怪我をさせ彼を連れ去った、悪魔のベルゼ。


「時間などどうでも良い。なぜ明人にあんな事をしたのか聞いておるのだ!!!!」

「そんな怒らなくても良いだろう。貴様も同じ所に連れて行ってやるのだから。貴様の力を頂いた後にな。まぁ、あの男は色々してきているから、閻魔様が地獄に落としているところだろう。あの男と共に居たければ、地獄へ招待するぞ」


 ケラケラと楽しげに笑いながら言った。


「明人はそう簡単に死なぬ!」

「明人という人物は確かにそう簡単に死にそうにないな。だが、それ以前にあやつも脆い人間だ。人間が直ぐに死んでしまうのは、お主も分かっているだろう」


 ベルゼの言葉に、カクリはすぐ返答できなかった。


 人間が脆いというのはわかっている。だが、それでも明人はまだ生きていると信じていたい。死んでしまったと思いたくない。


 カクリは歯を強く食いしばり、鎖をガシャガシャと揺らし藻掻き続けた。


「それでも、私は信じておる。明人絶対に死なん」

「信じるのは勝手だが、絶望して力を暴走させるのはやめておくれよ。この洞窟でも崩れてしまう」


 ベルゼはカクリの前に浮いている光り輝く丸い水晶玉を見ながら言った。


 水晶玉は、洞窟を囲っている林に張ってある結界の媒体となるもの。

 明人達の住む林には強い魔力が広がっており、強い感情に反応し小屋を出現させると言った仕組みとなっている。


 莫大な力と複雑な妖術のコントロールが必要で、カクリ一人ではとてもではないがここまで正確な結界を張る事は出来ない。

 莫大な力、コントロールスキル。これらを可能としているのは、洞窟の中にある水晶玉と、ここに集まる強い力。それを全てまとめているレーツェルの技量。


 カクリは結界の強弱を調整しているだけで、今までずっと生活していた。甘えている自覚はあるものの、出来ないことを無理にやるというのもと考え、今の形で落ち着いたのだ。


 洞窟の中は力に溢れている為、自身の内に漲る力にベルゼは口角を上げ、楽しげに水晶玉を撫でた。


「この力。あの化け狐は本当に神様なのか。それとも──いや、今はどうでも良いな。あのも、自身から溢れ出る力を抑えるので精一杯だろう。助けには来ぬ、やっと我の物にできる出来るぞ」


 彼はカクリの方に顔を近づかせ、耳元で囁いた。


「貴様の力全て、我に寄越せ」

「何を──………」


 カクリはなんの事か分からず疑問を口にしようとした時、ベルゼが左手をカクリの胸辺りに添えた。


「さぁ、我のために死んで貰おうか」

「っ!! 何を──がっ!? な、やめっ──」


 カクリは何をされているのか分からず、ただ胸元辺りに走る鋭い痛みだけを感じ悲鳴をあげた。


「寄越せ、我に、お前の力を!!!」

「がっ!! ぁぁぁあああ!!!!」


 ベルゼは左手で無理やりカクリの胸元を切り裂き、中へと突っ込む。血飛沫が舞い、ベルゼの顔や体を赤く染めた。

 鉄の匂いが徐々に広がり、狭い洞窟内を埋め尽くす。


 ベルゼはあともう少しで目的のものを手に入れることができると笑みを浮かべ、手探りに何かを探す。

 カクリは痛みで叫び暴れていたが、鎖で繋がれているため、ガシャガシャと鉄の擦り合う音が響くのみ。なんの抵抗も出来ず、痛みに耐えるしか出来ない。


 カクリの体の中をまさぐっていたベルゼは何かを見つけ、先程より口角を上げ呟いた。


「見つけた──……」

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