第41話 「駄目だ」

「封印とかは諦めた方がいいわよ、出来たとしてもまたすぐに出てきて同じことが繰り返されるだけ」

「誰が封印と言った? 俺は無力化すると言ったんだ、勝手に勘違いすんな」


 ファルシーの言葉に明人がめんどくさそうに返す。他の二人は明人の考えがわからず首を傾げ、詳細を求めた。


「単純な話だ。今まで俺が行っていた事を悪魔にもしてやる」

「それって、つまり想いを取り除くという事か?」

「そういう事だ。生き物には必ず感情は存在し、感情により体が動く。その感情がなくなれば体は何をすればいいのかわからず動かす事が出来ない。つまり、人形となる」


 真陽留の質問に口角を上げ、楽し気に宣言する明人に他の二人は驚愕。まさか、悪魔相手にも同じことをすると考えるとは思っておらず、言葉が出てこない。


「で、でもよ。そんなのってできるのか? 狐は今あいつの手の中にあるんだぞ、お前一人でなんて不可能だろ」


 何とか質問を絞り出したのは真陽留で、その声は震えていた。


「当たり前だ。だから、カクリ救出が最優先。早くカクリを取り戻さねぇと力を奪われる可能性もあるしな、そうなれば本当の詰み、俺達の負けだ」


 あっけらかんと言い放つ明人に、三人は困惑。何を考えているのかわからず、ファルシーが代表で質問した。


「子狐ちゃんの救出方法はどうするつもりかしら。真正面から何て言う無謀なことは考えていないわよね?」

「当たり前だわ、なんでわざわざ負けるかもしれない危険な方法を選択しなければならない。俺はお前らみたいに馬鹿じゃねぇんだよ、少し考えてから聞きやがれ」

「本当に腹が立つわね、少し聞いただけなのに……」

「誰にでもわかる事をわざわざ聞いて来たおめぇが悪いんだろうが」

「もういいわよ……」


 深いため息を吐き、ファルシーは何も言わなくなる。音禰はそんな彼女を見上げ、何かを考えた。


「…………あの、ファルシーさん。回復能力以外の力を使えるようにできないですか?」

「え」


 音禰から放たれた言葉に真陽留は驚き、明人は片眉を上げた。上にいるファルシーも彼女を見下ろしたのち、明人の方を見る。


「と、言っているみたいだけれど、どうするのかしら?」

「あほか、そんな賭けみたいなこと出来る訳ねぇだろ。そもそも、回復能力だって無限ではないはず、なんか制限はあるんだろ?」

「当たり前よ。私達のような人外の力は人間には強すぎる、授かっただけで体を壊ししてしまう可能性があるわ。だから今回は回数制限を付け仮契約をしたの。これなら少しの負担で済むからね」

「なるほどな、あと何回残っている」

「三回に制限して、一回目は今使ったから、残り二回ね」

「一回は予備で取っときてぇから、普通に使えるのはあと一回か」


 真剣な顔を浮かべながら明人はふと、真陽留を言見た。


「…………まぁ、壁が一人いるし大丈夫か」

「おい、壁なんて誰がなるか!!!」

「ちっ」

「僕の扱いマジで酷いな…………」


 二人の会話をクスクスと笑いながら見ているファルシーに、音禰は名前を呼び問いかけた。


「あの、ファルシーさん。まだ私に出来る事や、使える力はない?」

「あるにはあるわ。けれど、どれも貴方にとって負担が多くなるものばかりよ、それに代償も考えなければならなくなるわ」

「代償? 例えば何? 髪の毛や爪、血とか?」

「貴女って、平然と怖い事をサラッと言うのね……」


 ファルシーの呆れ声に首を傾げる音禰。他二人も呆れて何も言えなくなった。


「まぁいいわ。確かに今言った事は代償に含まれるけれど、貴方に現状渡せる力の代償はもっと重い物よ」

「重い物、腕や足とか?」

「まずは体の一部を渡そうとするのをやめなさい」

「なら、何?」

「仮契約している人の寿命を貰うわ」


 ファルシーから言い放たれた言葉に真陽留は口を開き、明人はため息を吐いた。


「それは使えんな、力を受け継ぐというのは除外して作戦を考え――」

「わかった。私の寿命を上げるから、私でも役に立てるような力を頂戴」


 明人が諦め違う作戦を考えようとした時、音禰が当たり前のように受け入れた。

 真陽留が止めようと口を開くが、音禰の表情に言葉が出ず口を閉ざす。


「私、早くみんなと沢山の話がしたいの。誰も欠けることなく、楽しい日常に戻りたいの。それを考えるのなら、寿命何て安い物よ。だって、すぐに死ぬわけではないのだから」


 ニコッと笑った彼女に、周りの人は何も言えなくなる。

 どうするのと問いかけるようにファルシーは、表情を一つも変えない明人を見た。


 数秒、沈黙した後、明人がやっと口を開き音禰へと言った。


「――――――駄目だ」

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