第36話 「賭けに出るしかねぇ」
明人は呪いがどれだけ進んでいるか確認するため、上の服を脱ぎ床に置いた。
隣では真陽留がげんなりとした表情を浮かべ、準備を整えている明人を見ている。
「本当にムカつくなお前」
「おいおい、俺が美しすぎるからって惚れんじゃねぇぞ。男なんぞ願い下げだ」
「僕だってごめんだよ!!」
そんな会話をしている明人だが、一目でわかるほど今の状況は酷く、危険。
体の半分以上が黒く変色しており、呪いが明人の全てを蝕むまでもう時間はない。
「酷い状態だな」
「辛いから当然だろ」
服を脱ぎ、自身の体を見る明人。もう背中だけではなく、お腹や胸辺り、腕までも呪いで黒くなっていた。
「どうするのだ?」
「そうだな……。賭けに出るしかねぇ。カクリ、黒い小瓶と記憶の小瓶を真陽留と二個ずつもって来い」
明人の言葉に、カクリと真陽留は顔を見合わせ、詳細を求めた。
「簡単な話だ。内側から記憶の欠片を呪いに当て浮き上がらせる。これをするには俺が記憶の欠片を飲まなきゃならんが、記憶の欠片をそのまま飲めば、人の記憶が入ってくる訳だからどうなるかわからん。なら、少しでも記憶の要素を薄くするため黒い液体を混ぜるんだ。料理と一緒、簡単だろ」
「簡単ではないだろう……」
頭を支え呆れ声を出す真陽留の隣で、カクリは少し考え込み、すぐに言われた通り小瓶を手にした。
明人に渡す直前、カクリは彼を見上げじぃっと見つめる。
「なんだよ」
「これをして、大丈夫なんだろうな」
「これは賭けだ、大丈夫とは言い切れん。だが、やるしかない」
彼の覚悟に、カクリはも何も言えず、小瓶これ以上何も言わずに渡した。
真陽留が不安げに二人を見るが、視線など気にせず明人は二つの小瓶を開け調整を始めた。
調整している彼を見つめ、カクリが微かに震える声でぼやく。
「必ず、呪いを解くのだぞ。約束だ、絶対だ」
「んなもん分かるか。約束なんてな、破るためっ──ウィッス」
明人が調整しながらだるそうに返すと、カクリは言葉の途中で手を伸ばし彼の左手を握った。
その顔はベルゼなんかより何倍も凶悪そうな悪魔のようになっており、向けられていない真陽留ですら油汗を流し、明人も最後まで言葉を繋げる事が出来ず頷いた。
ため息を吐きつつ明人は調整が完了、二人を見た。
彼の視線を感じ、すぐに悪魔の形相がなくなったカクリはいつもの無表情へと戻る。それに対し真陽留は安堵の息、祈るように二人を見続けた。
「なら、飲むぞ──おっとそうだった。カクリ、お前は俺が小瓶の中を飲み干したのと同時に力を使い、俺から想いの欠片を取り除けよ。それと同時に呪いも一緒に浮きでるはずだ」
ついでというようにカクリに言い放つ。その言葉を理解するのに数秒かかってしまったカクリは、目を丸くして彼を見ているしか出来なかった。
「……なっ」
カクリが理解したのと同時に、明人は小瓶の中にある想いの欠片を飲み干してしまい、口元を拭う。
「ふぅ、マッズ……。おい、何を惚けてやがる。さっさと操作して俺から想いの欠片と共に呪いを取りのぞっ──」
――――――ドクンッ
色んな甘いジュースが混ざったような味が明人の口内に広がり、思わずうげっと舌を出し苦い顔を浮かべた。だが、その顔は直ぐに消え、突如襲ってきた心臓が大きく跳ねあがるような感覚に苦しみ出す。
唖然としていた二人だったが、彼の様子を見て正気を取り戻し、急いで駆け寄った。
「明人! しっかりするのだ!」
「おい! しっかりしやがれ!!」
二人の声など聞こえておらず、明人は自身の胸元を押さえ苦しみ続ける。
カクリはどうすればいいのか分からず声をかけ続けていたが、真陽留は先程の彼の言葉を思い出し、カクリに叫ぶ。
「おい狐!! 早く明人の中にある想いの欠片と呪いを取り除け!! 力が増幅している今なら出来るはずだろ!!」
真陽留の焦っている言葉に、カクリはハッとなり両手を前に出した。
不安げに瞳を揺らしているが、やるしかないと決意を固め、深呼吸し、集中し始めた。
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