第34話 「子狐の本来の姿……なのか?」

「それはカクリにも効くのか? 妖と悪魔は別だぞ、分かってんのか?」

「そんなに大きな違いあるのか? 人外と言うだけでもう同じ部類だろう」


 真陽留がなんともないように明人の言葉に返すが、明人はその言葉に呆れ顔を浮かべ、ため息を吐く。


「ここまでのアホか……。なるほど、赤点ギリギリ常習犯だっただけの事はあるな。さすがだ、俺には真似出来ない思考だ、褒めてやるよ」

「いちいちムカつくな、お前」


 拳を震わせ、怒りを抑え込む真陽留を横目に、カクリは魔法陣に手をかざした。すると、カクリの力に反応するように、魔法陣が発光する。


「っ、なにが──」


 カクリは驚きのあまり咄嗟に後ろへ下がった。同時に魔法陣は光を失い、元に戻る。今回のだけで、効力があると分かった。


「問題なさそうだな」


 明人はその様子を見てボソッと呟き、怯えているカクリを見た。


「んじゃ、準備は出来たらしいし、やるか。真陽留、黒い匣は上にある。取れ」

「へいへい」


 明人は当たり前のように真陽留に指示を出し、言われた通り小瓶を何個か手に取る。

 中には黒く染った液体が入っており、真陽留が動かす度波打っていた。


 カクリはまだ真陽留を警戒しており、小瓶を差し出してくる彼の手から受け取ろうとしない。それだけではなく、鋭い目を向け睨んでいる。


「…………はぁ。おら、これなら良いだろ」


 今までの行いで警戒されているのは分かっているため、真陽留は仕方がないと息を吐き、床に小瓶を四つ置き、少し距離置いた。

 離れた事を確認すると、警戒しながらもカクリは小瓶に手を伸ばし、おそるおそる触れる。

 何も無い事がわかり、小瓶を四つ手に取ってすぐ明人の元へ駆け寄った。


「明人、これは問題ないか。何か細工をされてないか、すり替えられてないか。確認してくれ」

「俺より疑ってんじゃねぇかお前」

「当たり前だ」


 カクリは真陽留の前で堂々と明人に確認して欲しいと口にしている。

 疑われるような事を今まで散々やってきたため、これに対しては真陽留も何も言えず引き笑い。


 明人も苦笑を浮かべながら四つの小瓶を受け取り、まじまじと見て、中を確認する。


「なんもしてねぇーぞ」

「分かっとるわ。だが、しっかり確認しねぇとこいつがうるせぇーんだよ。餓鬼は変に疑い深い時があるからな。菓子を途中で取り上げると泣き出し、自分の物だと主張するように自身に引き寄せるだろ。あれと一緒だ」

「違う」


 明人の言葉を全否定しているカクリは、大丈夫かどうか不安そうに彼を見上げる。

 すると、わかったのか小瓶をカクリに返し「問題ねぇよ」とひと言伝えた。


 受け取ったカクリだが、まだ疑いが完全に晴れた訳ではなく、真陽留を睨みながら小瓶をぎゅっと抱きしめた。


「時間が無いんじゃねぇの? さっさとやれよ」

「命令するな話すな口を開くな菌が飛ぶ」

「…………子供は親に似るというものを目の前で見た気がするわ」


 カクリの言葉に真陽留は言い返す事はせず、呆れたように明人を見る。その奥では明人が口元に手を当て笑いを堪えていた。


「それじゃ、やる」

「あぁ。菌を飲み込まないように気をつけろよ」

「分かっておる」


 二人の会話に真陽留「分かるな」のつっこむが、それを気にせず小瓶の蓋をゆっくりと開けた。


 開けた小瓶を床に置き、カクリは魔法陣の上に立った。すると、魔法陣は赤く光り、そこから光の壁が現れカクリを包み込む。

 その事に驚き動こうとした時、明人が「問題ない」と口にしたため足を止めた。


「あ、明人よ。大丈夫、なのだな」

「問題ない、早くやれ」


 カクリは横目で明人に確認し、固唾を飲む。そして、床に置いた小瓶を一つ手に取った。

 大丈夫と言われたとしてもまだ恐怖があり、またちらっと明人に目を向ける。だが、明人はカクリを見るだけでなんの反応もしてくれない。


 小瓶に再度目を向け、不安げに眉を下げる。

 数秒悩み、覚悟を決め一気に黒い匣を飲み干した。そのままの勢いでもう一つ、もう一つと飲み、床には空の小瓶が四つ転がった。


 最初は何も異変がなかったため、三人は不思議に思いカクリを見ていたが、いきなりカクリが胸元を強く掴み苦しみ始めた。


「ぐっ……」


 息が荒くなり、目は血走る。その様子を明人は険しい表情で見て、真陽留も心配そうに眉を下げた。


 見続けていると、カクリの姿が徐々に変化していく。

 髪は伸び、耳は狐のように尖り、お尻からは九本の尾が生える。


「あれが、子狐の本来の姿……なのか?」


 真陽留は体を振るえさせ、カクリを見る。


 苦しみから開放されたカクリは、ゆっくりと顔を上げ赤い瞳を二人に向けた。

 口元には笑みが浮かんでおり、牙が見え隠れしている。


 今にも襲い掛かりそうな雰囲気に、真陽留は思わず動き明人を守るように前に立った。


「俺はヒロインか何かか?」

「お前みたいなヒロインが存在したら、その物語は壊滅的に面白くないだろうな」


 余裕そうな会話を見せる二人だが、カクリの異様な雰囲気に固唾を飲み、目を離さない。


 今は何とか溢れる力を抑えているようだが、それも時間の問題。カクリは唸りながら真陽留と明人を睨み、今にも飛びつかんとしていた。


「まずく……ないか……?」


 真陽留が不安を口にした時、カクリは咆哮を上げながら二人に飛びついた。

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