第21話 「今日はもう帰るぞ」
明人が次に目を覚ました時には、目を見開く光景が映し出されていた。
「なっ、カクリ……?」
「お、お目覚めか? あともう少しだったというのに、残念だ」
明人の目線の先には、片腕を失っているベルゼの姿。だが、何故か余裕な笑みを浮かべている。
なぜ余裕なのか。目線を壁に移すと、カクリが顔を俯かせ壁に固定されている姿がある。
両腕、両足は黒い影により固定され、体中に鋭く尖った影が突き刺さっている。
血が流れ、死んでいてもおかしくない状態。
明人は動かないカクリを見て、険しい表情を浮かべる。
困惑している明人に、ベルゼが笑いながら言った。
「まだ死んではおらんぞ。力を貰わんといかんからな」
「…………そうか。それならいい」
安堵の息を漏らし、明人は「死んでいないのなら」と呟き立ち上がり、カクリに向かって言い放った。
「カクリ、今日はもう帰るぞ。さっさと俺を休ませろ。体がきつい」
「? 何を言っている…………」
明人が現状のカクリを見ても、口調は変わらずそのようなことを言い放つ。
なぜ今のような状況でそのようなことを言うのか。ベルゼは眉を顰めたが、すぐにその疑問は解消される事となる。
今まで動きがなかったはずのカクリが急に動き出し始めた。
ベルゼはカクリを逃さないよう力を強めるが、彼の力よりカクリの力が上回り、両足、両腕を固定している影が徐々に解かれていく。
「なにっ?」
困惑の声を上げたベルゼに、カクリは深紅の瞳を向け歯を食いしばる。
拳を握り、力ずくで自身を縛っている呪縛を解放させた。
「なぜ、動くことが出来るっ―――!?」
驚愕と焦り。
何が起きたのかすぐに理解出来なかったベルゼは、カクリが壁を蹴り自身に突っ込んできたことに一瞬反応が遅れた。
すぐさま横に跳び回避。彼を確認するため振り向くが、そこにはもうカクリの姿はなかった。
明人の方も確認するが、誰もいない。
路地裏には困惑しているベルゼだけが取り残され、怒りで歯を強く食いしばった。
「~~~~~~~~くそっ!!!!」
顔を赤くし、地面を蹴る。辺りを再度確認するが、やはり二人の姿はない。
殺気の込められている鋭い視線の空へと向け、そのままベルゼは闇に溶け込むように姿を消した。その時、ベルゼの懐からかすかに見えたのは、白い狐面だった。
――――――ガサッ
ベルゼが消えた事を確認すると、建物の影に姿を消していた明人は、元の姿に戻り、気を失っているカクリを片手で抱き上げて立っていた。
「…………視野は狭いらしいな。まさか、影に隠れただけで逃がしてくれるとは思わんかったわ。今回はそれで助かったが…………」
抱きかかえているカクリの傷を改めて見て、目を細める。
明人は今回のカクリの豹変と、ベルゼの零していた言葉。そして、九に襲ってきた睡魔と、夢の中に出てきた女性について考え始めた。
だが、今はカクリの事もあり、すぐに思考を中断。痛む肩に舌打ちを零し、その場から歩き出し林のある方向へと姿を消した。
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