記憶と呪い

柳希久

第2話 「貴女達の事を教えていただけませんか」

 明人とカクリは、いつものように小屋で過ごしていた。


「っ、明人よ」

「来たか?」

「林の中に、二人だ」

「ふーん」


 ソファーに座っていた明人は、カクリが座っている木製の椅子を見る。何を言いたいのか察したカクリは、あえて動かず彼を見上げ続けた。


 数秒見つめ合うと、明人は無言で立ち上がりカクリのわきに手を回す。逃げようと体をよじる前に簡単に持ち上げられ、横に下ろされた。

 すぐさま明人は取られまいと、木製の椅子に座った。


 下ろされたカクリは、何か言いたげに明人をジィっと見るが、彼にとってはどこ吹く風。まったく気にせず、ドアの方向を見てぼぉっとし始めた。


「…………私は奥の部屋に戻る」


 カクリの言葉に、明人は何も返さない。それはいつものことなため、何も気にせず、言葉の通り奥へ続く度をくぐり姿を消した。


 それから数分も経たないうちの、小屋のドアが開かれた。


 中を覗き込むように女性が二人、顔を覗かせる。

 明人は二人の存在を確認すると姿勢を正し、口角を上げ優し気な笑みへと表情を切り替えた。


「こんにちは」


 優しく、紳士的に、明人はドアを開けた二人に声をかける。

 突如中から声が聞こえ、顔を覗かせている二人が驚きで体を震わせた。


 なかなか中に入ろうとしない二人を目に、明人は立ち上がりゆっくりと近づく。ドアを静かに開き、微笑みを向けた。


「怖がらなくて大丈夫ですよ、貴女方には何か悩みがあるのでしょう? さぁ、中へどうぞ。お話をお聞かせ願いますか?」


 ドアを抑え、二人を招き入れる明人。

 美しく、紳士的な態度を見せる彼に、女性二人は顔を赤らめ、小屋の中へと足を踏み入れた。


 入ってきた二人は色違いのパーカーを身にまとっており、軽装。

 同じ髪型、同じ鞄と。違うのは眼鏡の色のみ。一人は赤、一人は青の縁眼鏡をかけている。


 辺りを回している二人をソファーへ促し、彼女達が座るのを見計らい明人も木製の椅子に腰を下ろした。


「では、まずは自己紹介からさせていただきたいと思います。私の名前は、筐鍵明人きょうがいあきと。よろしくお願いしますね」


 ニコッと笑みを浮かべ、名前を告げた。


 同居人である妖のカクリと話していた時の雰囲気、口調。その他色々がまるっきり別人のような明人。依頼人の前ではいつも豹変しており、カクリは二重人格なんじゃないかと疑っていた。


 紳士的な笑みを浮かべ自己紹介してくれた明人に、女性二人は戸惑いを見せた。


「えっと、あの」

「ゆっくりで大丈夫ですよ、貴女達の事を教えていただけませんか?」


 戸惑う女性に、明人は少しでも話しやすくするため優しく促した。


「あ、あの。ここって、噂の小屋で合っているのでしょうか」


 控えめに話し出したのは、依頼人の一人。青縁眼鏡をかけている女性だ。

 普段から大人しい性格らしく、今も少し声が震えている。


「噂とは、いったい何のことでしょうか?」

「私達は、この小屋に来ると願いを叶えてくれると聞いたのですが……。本当なのでしょうか」


 彼女の質問に、明人は気づかれないように片眉を引きつらせる。だが、微笑みを消す事はなく、淡々と質問に答えた。


「申し訳ございません、私達は貴女方の願いを叶えることは出来ないのです。おそらく、噂が独り歩きしたのでしょう」

「そんな……」


 質問した女性が肩を落とし、項垂れる。今にも泣き出しそうになってしまい、隣に座っている女性が背中を撫でてあげていた。


 彼女達の様子に、明人は顎に手を当てわざとらしく首を傾げる。


「もしよろしければ、お話をお聞かせ願えませんか? 何か力になれる事があるかもしれません」

「え、でも。願いを叶えることは出来ないんですよね? 興味本位で聞いていませんか?」


 明人の問いかけに答えたのは、背中を摩ってあげている赤縁眼鏡をかけている女性の方。笑みを崩すことなく、彼は淡々と質問に答えた。


「もし、話したくなければ無理には問いません。貴方達次第です」


 二人に言葉を投げかけ、口を閉ざす。


 お互い目を丸くし、どうするか相談し合った末、話す事に決めた。

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