第7話 わすれもの
「サキは、魔法でどんなことがしたい? あ、ひとつに決めてね」
「うーんと……」
ひとつかあ。私はむー、と考える。
いっぱいお花を咲かせたり、
あ、この前見せてくれたシャボン玉の魔法もしたい。
でもひとつ、決めるとなると……。
——もし魔法が、何でもできるなら。私の心を、強くしたい。
「自信がつく魔法、かな」
「面白いわね、それ。てっきり、シャボン玉の魔法かなって思ってたわ」
「ぐ、それも考えたけど!」
ばれていた。
イオはあはは、と笑って、それならこれね、と文字を見せてきた。
ひらがなの「く」みたいな文字。
「この文字はケンって読むの。勇気や行動力を意味していて、自信を与えてくれる力があるわ。これを杖に彫り込めば、サキの魔法を助けてくれるはず」
「どこに彫ったらいいの?」
「あたしは持ち手に彫ってるわ。削ったら白くなって、文字が見やすいから」
「じゃあ私もそうしよっと」
さいわい、すぐに出来た。初めてにしては上手くない?
イオがじっくり見て、うん、と頷いた。
「「できあがり!!!」」
出来たばかりの杖を掲げる。
なんだか、指先がじんわり、あったかくなる感じ。イオが言うには、自分に合った杖はそうなるんだって。
私だけの、魔法の杖……!
「……で、自信がつく魔法って、どうやるの?」
「あー……」
ちょっと目をそらすイオ。
もしかして。
「やり方、知らなかったり……?」
「今度来た時までに、ママに聞いとくわね!」
ぱちん、と手を合わせて、ごめんって言われた。
もう。
でも、今日は自分の杖ができただけで十分嬉しいし、別にいっか。
「って、サキもう帰る時間じゃない?」
「えっ、あ、大変! 急がなきゃ!」
イオに言われて、私は慌ててテーブルの上を片付ける。
杖を作る前はイオに言われて、宿題のプリントを見せてたんだった。
がさがさ、とりあえずリュックの中へ。
「ネネ、またお願い!」
「なー」
「じゃあまたね、イオ! 魔法よろしくね!」
「うん、またね、サキ。気をつけて」
後ろでばたん、とドアが閉まった。
佐々木さきを送り届け、ネネが窓から帰ってきたのとちょうど同じ頃。
ぴゅう、と風をかき分けて、ひとつの人影が降り立った。
黒いマント、とんがり帽子。そこから覗くクルミ色の髪。
ほうきを玄関に立てかけて、ドアを開けて。
「イオ、ただいま」
「あ、ママ!」
イオのお母さん、鏑木モクはぎゅっとイオを抱きしめた。
「今日もお友達は来てくれた?」
「うん、一緒に杖を作ったわ!」
「そう。イオはまだ見習いなのだから、弟子を取るのは早いわよ?」
「弟子じゃないわ、友達だもの!」
イオの言葉に、モクはうふふと笑った。
リビングに入り、モクはテーブルの上に目を留める。
一枚の紙。イオはあっ、と気づいて言った。
「それ、サキが忘れていっちゃったの。今度返してあげなきゃ」
「あらあら……おや」
紙を手に取るモク。その目が少し、険しくなる。
「——ママ?」
「イオ」
「なあに?」
「今度、ママもサキちゃんと会わせてちょうだい」
「いいけど……どうして?」
「……その時話すわ」
まずいことになってるわね、と呟いた声は、イオには届かないくらい小さかった。
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