第4話 女の子

 リビングのまんなかには、大きな木のテーブルがどん、とあった。

 だいぶ使い込まれた感じ。触るとなんだか、ほっとする。


「そこに座っててー」


 女の子はパタパタと奥へ。たぶん、あそこがキッチンなんだ。

 かちゃかちゃと、食器の音がし始める。

 木の椅子に座って、ぐるりと見渡してみた。

 見えるもの、ほとんどが木でできている。

 家具はもちろん、天井も床も。

 うちみたいな、さらっとしててきっちりしてる感じとはぜんぜん違う。

 それと、いろんなところに植物が置いてある。

 植木鉢から生えてたり、びんに挿してあったり。

 ひもでできたかごで上から吊るされてるのも!

 干してあるのかな、って思ったけど、それにしては元気そう。

 土がなくても大丈夫なのかな?

 ほー、って見てたら、女の子がトレーを持って戻ってきた。


「はい、どうぞ」


「いただきます……わあ」


 女の子が淹れてくれた紅茶は、それはすごくいい香りだった。

 ふんわり、湯気がくすぐったい。


「お砂糖とか、入れる?」


 私はちょっと考えて、大丈夫、と首を振った。

 実は、いつもは入れてるんだけど。甘いの好きだから。

 でも、こんないい匂いの紅茶は初めてで、なんだかそのまま飲んでみたいなって。

 女の子が一口飲んで、ふー、と息を吐く。

 おしゃれなカップ。恐る恐る、私も口をつけた。

 ——わ。おいし。

 香りが鼻を通り過ぎて、すわっと消える。


「ねえ、あなた」


 カップを置いて、女の子がいった。


「お名前、なんていうの?」


「佐々木さき、って言います」


「佐々木さき。サキって呼ぶね。あたしはイオ。鏑木かぶらぎイオよ」


 よろしくね、サキ! イオさんはそう言って、手を握ってきた。


「よろしく、イオさん」


「ちょっと、さん付けはやめてよ。あと丁寧語ていねいごも! 同じ年くらいでしょ?

 サキはいくつ?」


「うん、いま、十二歳」


「ほんと? あたしも!」


 イオは元気いっぱいで、なんだか不思議と話しやすい感じがする。

 自分でも、普通に話せてびっくりした。


「そうだ、ネネを追いかけてきたのよね。——ネネ!」


「……なぁお」


「こっちきて! 早くっ」


 のそのそと、半びらきの扉から、さっきのくろねこが顔を出す。

 私をじろり、と見ながら、ぽすん、とイオのひざに収まった。


「——本当に、羽がある……」


 空は飛べないけどね、って言いながら、イオは優しくねこ——ネネを撫でた。

 ネネの羽は、ほそっこい。たしかに空は飛べなさそう。


「撫でてもいい?」


「もちろん」


 ふわっふわしてた!

 しっぽはしゅるしゅる。耳はこりこり。羽の付け根もこりこり。

 はあ。かわいいなあ……。ずっと撫でてたいなあ。

 なんて思ってたら、もういいだろ、って感じで顔をプイッとされた。

 イオから降りて、とことこと扉の向こうへ。

 あーあ。


「ふふ。また来てくれるわよ」


 残念がってるのがばれちゃった。

 ところで、とイオが話し始める。


「サキはどこからきたの?」


「森の向こうからだよ。でも引っ越してきたばかりで、あまり道がわからなくて」


「そうなの。じゃあ帰る時はネネに送らせるね。あの子、道案内が得意だから」


 確かに。ここまでつれてきてくれたもんね、と妙に納得。


「その服は? あまり見たことないんだけど、お仕事の服?」


「これ?」


 まっさらなブレザー。私の二つ目の、中学校の制服。


「ううん、これ学校の制服だよ。そういえば、イオはどこの学校なの?」


「あたしは行ってないわ。ママの仕事を継ぐために、ここで見習いしてるの」


 ——まあ、そういうお家もあるのか。ちょっとびっくりしたけど。


「イオのママはなんのお仕事してるの?」


「魔女よ」


 ……え?


「ま、じょ?」


「そう。あたしのママは魔女。あたしは魔女見習いのイオ!」


 えっ。ええっーっ!?

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