第四章 ONE
日曜日、作戦会議を開くと言って、ゆかりはメンバーを集めた。
ようやく、真も東京から帰って来たので、その話しも聞きたかったという事もあったのだろう。
ゆかりの命令で、彼女の部屋に集まったメンバー達は、まず最初にゆかりの掴んだ情報を聞く事にした。
「大収穫とは言えないけど、まあそれなりの情報は手に入ったわよ」
ソファーに座る一同の顔を見回し、ゆかりはにやりと笑った。
情報提供者は、竜二が見つけたという、あの正明と接触のあった人物の事だろう。
由沙は、不愉快な気持ちになりながら思った。
ゆかりは、彼女が止めるのを振り切って、やっぱり出掛けて行ってしまったのだ。
なんとなく、心が苦くなる。
それはそうだろう。いくら情報が欲しいと言っても、高校生の女の子が男の人と一緒にホテルなんて・・・・。
考えて、かっと耳まで赤くなる。
由沙には、想像さえ出来ない事だった。
「あら、委員長。顔を真っ赤にしてどうしたの?」
にやにやにや。
見ると、ゆかりの口許に例の如く意地の悪い笑みが浮かんでいる。
由沙は更に顔を赤くし、きっとゆかりを睨みつけた。
あんなに止めたのに行ってしまったゆかりを、彼女は今でも怒っているのである。
「なによ、言いたい事があるなら、口で言ったらどう?」
からかうように、ゆかり。
由沙が口下手なのを、知った上での言葉だ。
「ゆかり、また由沙の心を読んでるんだろ。いい加減にしろよな」
二人の遣り取りで察したのか、竜二が少し口元を歪めた。
由沙は、この竜二と言う男とは余り話をした事がなかった。
彼女を直接ガードしているのは、何時もゆかりと真だ。
竜二は、どちらかが情報収拾に出掛ける時一緒について行くか、はたまた単独で行動している事が多い。
倉田竜二、確か年齢は二十四歳。
見上げる程の長身で、何時も葬式の帰りみたいな服装をしている。
黒のスーツ、白いYシャツ、紺のネクタイ、そして黒いサングラス。
光り物が好きなのか、手首に金の腕時計。指にもやはり、ずらりと黄金色の指輪を付けていた。
一度見た素顔は、目尻の下がったにやけ顔だったと記憶している。
確かにハンサムだが、女好きという感じだ。
なんとなく誰かに似ているような気もするが、はっきりとは思い出せない。
多分、テレビの俳優かなにかだろうが。
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
ゆかりが、けらけら笑いながら言った。
由沙の顔が、今度は違う意味で赤くなる。
由沙には、昔から赤面症の気があった。
照れている時や怒っている時、言葉が出ない代わりに顔に出る。それを見られるのが嫌で、余計に無愛想になってしまう所もあった。
ゆかりはそれを知っているらしく、何かと言えば彼女をからかう。
まるでおもちゃにされているようで、それが由沙には気に食わなかった。
・・・・それにしても。
由沙は、気を取り直して三人の顔を盗み見た。
一体、この三人の関係はどうなっているのだろう?
何日か一緒に行動して、由沙が感じた疑問だ。
ゆかりは、真も竜二も嫌いと断言している。
真もゆかりが嫌いで、竜二には無関心のようだ。
竜二は、それほど二人を毛嫌いしているようには見えないが、やはりなんとなく壁があるような不自然さがあった。
けれど、その割りには平然と話しをしているし、時には冗談を飛ばし合ったりする事もある。
確かに一種独特の雰囲気があるが、激しい喧嘩になるような事はなかった。
全くもって、不思議としか言い様がない。
こんなに合わない三人が、何故一緒に仕事が出来るのだろう?
「それはね、あたし達が大人だからよ」
由沙の疑問に、ゆかりが直接答える。
「・・・・またっ!」
思わずかっとして、由沙はゆかりを怒鳴りつけた。
あの夜以来ゆかりは、勝手に由沙の心を読んでは、直接返事を返して来るようになっていた。
それは、テレパスではない由沙にとっては、この上なく不愉快な行為なのだ。
「あら、あんたはあたしに、心を読んでいいって言ったじゃない」
「確かに言ったけど、返事を返していいとは言ってないわ」
「おい、いい加減にしろって言ってんだろ」
二人の会話に、再び竜二が割り込んで来る。
そんな彼に向かって、今度は真が生真面目な顔で言った。
「ゆかりさんが、人の意見を聞くとは思えませんよ」
それから、表情を変えることなく、視線をゆかりへと移動させる。
そして、少年のように爽やかな声で続けた。
「それにしても、珍しいですね。あなたが、必要以上に他人に干渉をするなんて」
ゆかりは、由沙に向けていた笑みを、ゆっくりと真の方へ回した。
「どういう意味?」
「別に、そのまま疑問を口にしただけです。他人には、これほどにないくらい冷淡なあなたが、何故由沙ちゃんに対してはそうなのかなって・・・・・・。あなたが由沙ちゃんにしている事は、仕事にしては少しやり過ぎって気になるのは、僕だけじゃないと思いますよ」
真の機械染みた顔に、満面の笑みが浮かんだ。
最近気付いたのだが、厭味を言う時に限って、彼女はどうやら愛想笑いを浮かべるらしい。
─────真って、結構底意地が悪いのね。
由沙はそれに気付き、少しだけ真に対するイメ-ジが変わった。
一瞬、二人の間に冷たい沈黙が漂う。
しかし、
「厭味な女ね。あーあ、あんたなんかコンクリート詰めにして、海の底に沈めてやりたい気分だわ」
と殊更冗談っぽく言ったゆかりの言葉で、緊張の糸はぷつりと途切れた。
「そっりゃお前、あんまり意味がないぜ。真ならきっと、何事も無かったように海から這い上がって来るに違いない。俺は、こいつは実はアンドロイドじゃねぇかって、本気で疑ってんだが・・・・」
竜二の間の抜けた声が、全ての余韻を綺麗に消し去る。
「ばーか。馬鹿の話しは聞きたくないから、報告を進めてさっさと終わらせるわよ」
まるで何もなかったように、三人はすぐさま仕事に徹する態度に切り変わった。
由沙は、彼女達の変わり身の早さに溜め息をつく。
三人が必要以上に険悪にならない訳が、やっと分かったような気がした。
三人とも、相手の方に踏み込む手前で引いてしまうのだ。
挑発はするが、互いに係わり合うのを避けている。
それは確かに、大人の関係かもしれない。でも由沙には、猜疑に満ちた冷たい関係に思えた。
大体仲間として動いているのに、何故腹を割って話し合わないのだろう?
もう少し互いに心を開けば、今の関係はもっと良くなる筈だ。
時には、言い争いになってもいいじゃないか。
それが、由沙の考え方である。
彼女にとって、喧嘩は全て悪いと言う訳ではなかった。
とは言うものの、思っている由沙自身、不器用で無愛想な所があるので、よかれと思って言った言葉が逆に誤解を招いてしまう場合も多々あったのだが・・・・・。
客観的に見ているから、言える事なのかもしれない。
と、
「腹が割れたら死ぬわよ」
ゆかりに耳元で囁かれた。
また心に返事を返されたと、由沙は真っ赤になってゆかりを睨む。
「そんな事より、あんたちゃんと話しを聞いてる?これは、あんたの問題なのよ。あんたが聞いてなくてどうすんのよ」
由沙の視線を完璧に無視して、ゆかりは馬鹿にするように言った。
「・・・あっ、御免」
思わず、素直に謝ってしまう由沙。
途端、ゆかりは彼女のお下げを思いっきり引っ張った。
「痛い!ちょっと、何するのよ!」
「あたし、すぐ謝る人って嫌いなのよね」
「そんな事言われたって・・・・」
「おいおい、じゃれてねぇで、ちゃんとしようぜ」
ちゃんとと言う言葉が全く似合わない竜二が、うんざりした顔で言う。
由沙は乱暴にゆかりの手を振りほどき、ぶすっと頷いた。
彼女にしてみれば、じゃれていたつもりなどなかったのだが・・・・・。
ゆかりも肩を竦め、中断していた話しを再開した。
「あたしが接触した男は、橋本啓介と言う男よ。杉原正明とは、研究所時代の同期。同じグループで研究してたらしいわ。やっぱり目的は、杉田隆司の昔の研究データみたい。ただね、どんな研究だったのかは知らないみたいね。上からの命令で動いてる感じだわ。杉田とは、何度か接触を繰り返してたようだけど、交渉は決裂ってとこかしら」
「杉田博士に接触してたのは、彼だけではないですよ。ここ一年の間に、幾つかの組織が博士に接触しています。合法的な組織から、非合法的な組織まで・・・・」
「とにかくそのデータは、とんでもなく重要な物って事か」
世間話しのように語られる内容を聞きながら、由沙は背中に冷たいものが走り抜けたような気がした。
───お父さんは、無事なんだろうか?
もしかして、そいつらに捕まっているんじゃないだろうか?
「それに関しては、こういう興味深い記事があるですが・・・・」
そう言って真がテーブルに出したのは、十三年前に出された科学雑誌だった。
そこには、対談という形式で、杉田隆司と記者の会話が掲載されていた。
「脳に移植するチップに関してですが、彼は障害をケアする為のチップ以外に、空想的な発言として記憶を操作する例をあげています。例えば、そのチップによって記憶を削除したり、違う記憶を擦り込む事が可能になると言う話しです。そのチップを利用し、衝撃的な体験をした為に精神異常をきたした人に対し、記憶を消す事で治療出来るかもしれない、と言う内容でした」
「確かにそんなものがありゃ、色々ごたごたが起きるだろうな。中には、治療じゃなくて違う事に悪用したいと考える奴もいるだろう」
「まあ、どれくらいの範囲で出来るかってにのもよるけどね。広範囲で記憶が操作出来るとすれば、どうにかして手に入れたいと思うのは当然だわ。だってそれさえあれば、どんな人間だって簡単に洗脳出来ると思うもの」
洗脳?!
話しが大きくなる程に、益々それが信じ難くなっていく。
由沙にとっての正明は、ごくごく平凡な父親に過ぎないのだ。気難しくて不器用で、でも根は優しくてお人良し。
重労働をしながら、愚痴も零さない父を、由沙は半分呆れ半分誇りに感じていたものだ。
それが、由沙の父である。決して、優秀な博士ではない。
「なあ由沙、お前は本当に何も知らないのか?」
何気ない竜二の言葉で、一斉に三人の視線が由沙に集中した。
彼女が、今一番杉田博士に近い存在なのだ。毎日一緒に生活していれば、何か勘づくともあったかもしれない。
けれど、本当に由沙は何も知らなかった。
正明は由沙に、駆け落ちしたのだと話していた。だから近くに親戚がいなくても不思議に思わなかったし、過去のことをあれこれ父に聞く気にもなれなかった。
こんな事が起こらなければ、一生父の過去なんて知らなかっただろう。
「由沙は、本当に知らなかったみたいだわ」
由沙の心を読んだのか、ゆかりがそう断言した。
「研究所に行ってみたんですが、杉田博士とその妻に関しては、思ったほど情報を入手する事は出来ませんでした。ただ・・・・」
「ただ?」
真はゆかりの顔を見て、それから由沙の顔へと視線を移した。
「ただ、杉田博士が、極秘で何かの移植手術をしていた事が分かりました。研究所と関連のある病院で、それを行っています。オペ室に忍び込んで見た光景は、断片的なのではっきりとしないのですが・・・・」
「で、お前のスクリーンには何が映ったんだ?」
真は、会社ではスクリーンと呼ばれる、サイコメトラーなのだ。
彼女は人を見ただけでその人物の体験してきた事から、性格や性癖まで分かり、物に触れただけで誰が何時何の為に使っていたのかまで知る事が出来る。
真は、竜二に促され、小さく頷いてから話しを続けた。
「彼が移植を行っていた人物は、小さな子供でいした。丁度、四歳くらい。頭髪は全て綺麗に剃られていましたが、くりっとした大きな目の少女です。・・・そう、丁度由沙ちゃんを小さくしたような感じの・・・・」
真は不意に立ち上がって、由沙の前に立った。
上から屈み込むような形で、彼女の頭に手を翳す。
「前から思っていたんですが、由沙ちゃんの大脳左中央部の側面付近に、何か小さな異物が見えるんです。この辺りは、恐らく記憶に関係している部分。もし博士が研究を成功させていたとすると、由沙ちゃんはそれを移植されている疑いがあります」
手を戻し、真は生真面目な顔で一同を見回した。
「ちょっ、ちょと待ってよ!それって私が、お父さんの人体実験に使われてたって事なの?」
愕然として、由沙は真の無機質な顔を見つめた。
「人体実験かどうかは、定かではありません。しかし、それによって由沙ちゃんの記憶の一部が、人為的に消されている可能性はあるでしょう」
記憶の一部が、人為的に消されている?
一体、どういう事だろう?
由沙は、なんだか益々混乱してきた。
自分の頭の中に、そんな物があると思っただけで気味が悪い。
「それで、由沙が狙われているのかもしれないわね。もしかして、能力にプロテクトがかかっているのも、それのせいじゃないかしら?」
「さあ、何とも言えません。ただ、これは恐らく、由沙ちゃんを巡っての争奪戦なんだと思います。仮に敵の求めているものがチップだとして、当然それを手に入れることが一番の目的でしょうが、敵に渡さないというのも目的の一つだと考えたら・・・」
「なるほど、それであの爆破か。抗争グループの中に、由沙ごとチップごを破壊しようとした奴等がいたって言いたいんだな。どうりで、暗殺者がごろごろ居る訳だ。大方複数の組織が、由沙を狙って密かに戦を繰り広げていたんだろう」
三人の視線が、再び由沙に集まる。
由沙は全く信じられない様子で、何度も首を振った。
「でも変ね・・・、それなら由沙を捕らえようとする動きもある筈だわ。なのに、由沙の周囲には暗殺者ばっかり。チップを奪うだけなら、なにも殺さなくてもいいと思うけど。それより生かしておいて、サンプルにした方が良くない?成功例な訳だし、色々データが取れるわ」
ゆかりの尤もな意見に、一同は沈黙して顔を見合わせた。
「何か、理由があるんでしょうね。殺さないといけない理由が・・・・」
真のハスキーな声が、静かに告げる。
ゆかりは肩を竦め、竜二がさらさらの前髪を掻き上げた。
由沙は、ただ茫然とするのみ。
「結局の所、暗殺者を雇ってる大元を叩かねぇと、埃は出ねぇって事か」
ぼそりと、低い声で竜二が言った。
「そうね、それが一番てっとり早いわ。橋本啓介って男は、これ以上何も知らないようだけど、田辺康弘って男なら何か知ってるかもしれない。橋本は、そいつの事を随分気にしていたわ」
「そいつ、何者なんだ?」
竜二が、興味深々といった表情で、長い足をもどかしそうに組み替えた。
「橋本と同じく、研究所の人間よ。杉田より十歳程年上で、杉田は最初彼の助手をしてたみたい。橋本は、この町に来た時田辺を見たのよ。上の命令かは分からないけど、この町に来たって事は目的は一つしかないでしょ」
「杉田博士に会いに来た、って事ですね」
ゆかりは、真の無機質な顔を見つめ、にっこりと微笑んだ。
「焦るわよね、橋本としては・・・・。自分が研究データを探す前に、そいつに横取りされるかもしれない。そうすれば、折角の出世のチャンスがパーだもの。そこで彼は、留守を狙って家に忍び込み、杉田の部屋から何か手掛かりになるものは無いか探した」
はっとして、由沙は顔を上げた。
それはつまり、あの最初の事件ではないか?
「まあ、後の展開はあんたも知っての通りよ。あんたが戻って来て、そりゃ驚いたみたい。彼、まさか杉田に娘が居たなんて知らなかったのよ。だって、娘は十三年前に死んでる筈なんだもん」
ゆかりは、由沙の反応を見る為か、一度言葉を途切らせた。
由沙は、彼女の言葉を一言も聞き逃すまいと、真剣に話しを聞いている。
小さく笑った後、ゆかりは話しを続けた。
「橋本は、逃げようとして窓を開けた時、足音が近づいて来るのを知ったの。それで、慌ててデスクの下に身を隠した。あんたは、まず開いている窓を見つけて、まっしぐらにそっちへ向かったでしょ?彼が隠れていたのは、その側にあるデスクの下。あんたは、窓から身を乗り出して、外の景色に心を奪われていた」
「由沙ちゃんは、ごく普通の女子高生ですからね。少し武道の心得があれば、首筋に手刀を入れて気絶させるくらい、造作ないしょうね。咄嗟に隠れた場所も、そっと立ち上がるだけでいいと言う、実に都合のいい場所だった」
真の言葉を肯定するように、ゆかりは大きく肩を竦めた。
「彼、由沙を見てショックを受けたようだわ。その様子から、杉田由沙は間違いなく死んでいた、ってあたしは思う訳。橋本はそれから、あんたについて調べたみたい。すると、あんたが殺し屋に狙われている事を知った。彼としては命が惜しかったから、取り敢えず待機して様子を伺っていたってとこね」
ほっと、由沙は溜め息をついた。
一つの謎が解けたからと言って、全てが明らかになる訳でもないらしい。
謎は次の謎を生む。
記憶を操作するチップの事、何故父親が自分にそれを移植したのか、何故それを奪う為にやつらは殺し屋を雇ったのか。その父親は今、一体どうしているのか。
「もう一つ、橋本がショックを受けた事があるわ。それは、あんたが母親に瓜二つだったって事」
ゆかりは、由沙の戸惑いを楽しむように、にっこりと優雅な笑みを浮かべた。
「面白かったわよ、橋本に杉田由紀の幽霊を見せてやった時には・・・・。あの男、あんたの母親を好きだったみたいだわ。杉田由紀に対する思いと、幽霊を見た恐怖でか、凄く錯乱したんだから。泣き叫びながら、愛していいるから殺さないでって土下座するのよ。あたし、思わず笑っちゃったわ」
その時の事を思い出したのか、ゆかりはくくっと含み笑いを洩らした。
「・・・・ゆかり、お前コントロールを使ったのか?」
途端、竜二の顔が険しくなった。鋭い目をゆかりに注ぎ、咎めるように言う。
「あの力は、トランシーバーとは違うんだぜ。一歩間違えば・・・・」
「一般人が一人狂ったって、たいした問題じゃないわ。臆病な男だったし、仕事の失敗が元でノイローゼになったとしても不思議じゃなでしょ」
テーブルを軽く指で叩きながら、ゆかりは平然と言った。
コンコンコン、指が一定のリズムを刻む。
「そういう問題じゃねぇだろ」
竜二は、ゆかりの指を苛々した様子で見つめながら、苦々しく言葉を吐き捨てた。
「あたしは、あたしに与えられた力を、有効に使ってるだけだわ。一体、それの何が悪いのよ。それで相手が廃人になったって、知った事じゃないわ」
悪びれた様子もなく、ゆかり。
由沙は、コントロールを言う言葉を聞いて、背筋に冷たいものが走った。
コントロールという力が、相当恐ろしいとものだというのは知っている。
人を廃人にしてしまえるのだとも、ゆかりから聞いた。
もしかして、橋本と言う人をゆかりが・・・・・。
気分が悪くなる。
平然とした顔で、何が悪いのだと言うゆかりが信じられなかった。
どうしてゆかりは、こうも冷酷な事が出来るのだろう?
「あたしが何をしようと、あたしの勝手よ。あんた達に迷惑をかけてる訳じゃないんだから、放っておいてよね。・・・・それより、田辺康弘の尋問が必要だわ。つべこべ言ってないで、さっさとそいつの居所を調べて来なさい」
口許に笑みを浮かべたまま、ゆかりは威圧的に言った。
竜二は口を閉ざし、不機嫌な態度で部屋を出て行く。真も無言でそれに習った。
二人の大人に平然と命令する少女。
ゆかりとは、一体何者だろう?
ETSで、どんな立場にあるのだろうか?
由沙は、微笑みを浮かべる綺麗な横顔を見つめ、同調しただけでは分からない、エンジニアとしてのゆかりを思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます