1.5話 アイジョウヒョウゲン
「まだ他の神を相手にするって決まってないのに、はしゃぎすぎです!」
「のじゃぁ……」
先ほどの元気なクロはどこにもなく、俺に説教されるのが嫌なのか、クロは耳と尻尾を弱々しく垂らして、桜木さんの膝の上に乗っている。
「そもそも、仮に他の神を相手にするってなったら喜んでる場合じゃないでしょう? それこそ対処法をしっかり考えないといけないのに。この前だってーーーー
いっつも敬意を持てって言ってるんですから、そう言うんだったら敬意を持たれるような行動をしてください。分かってるんですか?」
俺だって長い説教はしたくない。だけど、最近のクロは神としての自覚が一切ないのだ。改めて、気持ちを引き締め直して欲しいから、俺は心を鬼にして説教をするのだ。
(まあ、これで反省したら後でアイスでも買ってきてあげるか)
「幸人くーん」
「なんですか?」
だが、クロからの返事はなく、桜木さんが俺を呼んだ。
「その……寝ちゃってるよ?」
「すぴー……」
彼女の目線の先には、桜木さんの膝の上で丸くなり、気持ちよさそうに寝ているクロの姿があった。
「この……! はぁ……なんかもう起こすのも面倒くさい」
これには俺も力が抜けてしまった。平常運転というか、クロらしいといえばそうだが、俺の説教を恐らく1割も聞いていなかったと思うと、怒る気もどこかに行ってしまう。
「あはは……くーちゃんは幸人くんに怒られるのが苦手みたいだね」
「くーちゃん?」
苦笑いを浮かべた桜木さんは、聞き慣れない言葉を言った。
「あっ、自由に呼んでいいって言われたけど流石にダメかな?」
「えーっと、クロの呼び方ですか?」
「うん。クロ様って、なんだかお堅いかなって思って」
どうやら、桜木さんなりのクロの呼び方らしい。基本的になんと呼ばれてもクロは気にしないが、こういった馴れ馴れしい呼び方の方が好きだ。
(そもそもクロっていうのも、俺が勝手に呼んでるだけだしな)
「喜ぶと思いますよ。こいつお堅いの嫌いなんで」
「こいつって言っちゃっていいの〜?」
にまにまと笑みを浮かべながら桜木さんが聞いてきたが、別にいいだろう。
「この寝顔に神の威厳なんて微塵も無いですからね
「確かに、
かわいいもんね」
あほ面ですし」
桜木さんと言うタイミングが被ってしまった。……って、桜木さんなんて言った? かわいい? このロリババアが?
「……かわいいですか?」
「え、逆にかわいくないの?」
さも、クロがかわいいのが当たり前かのように桜木さんは逆質問をしてきた。
「……憎たらしいですね」
俺はその質問に素直に答えた。
「なるほどねー、それが君の愛情表現なんだねー」
「アイジョウヒョウゲン?」
だが、どうやら桜木さんは違う捉え方をしたらしい。
「ツンデレ男子……いいね!」
「ツンデレじゃないです」
俺がクロのことを本当はかわいいと思っているけど、恥ずかしくて言えない。その結果いじわるを言ってしまう
このように捉えたみたいだ。どこのヒロインだよ。
「そうやって否定すると余計ツンデレみたいだねー」
「だからツンデレじゃないですって!」
なんなんだこの人……俺をヒロインにでもしたいのかというくらいツンデレを押してくる。実際、俺はクロのことをかわいいなんて……ちょっとだけしか思っていない。
「意地張っちゃって〜」
「意地なんて張ってないですから!」
俺はそれを全力で否定するために、大きな声を上げた。
「貴様ら〜! 我が気持ちよく寝ているのにうるさいのじゃ!」
「気持ちよく寝てんじゃねえよ!」
「あはは〜」
その声に起こされたクロにツッコむ俺、そんな俺たちを見て笑う美奈さん。そんな、平和な空気感が社務室の中を包んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます