1話② 死ねない理由。
「あっ、えと……私の番だね」
俺に促された美奈さんは、姿勢を正すと、少し考えた後に自己紹介を始めた。
「九条高校2年、
こちらに聞かれても困る。趣味も得意なことも、食べ物関係な辺り、この人の人間性がなんとなく伝わってくる。首をこてんと横にしながら、えへへ〜と、笑う美奈さんを見てると気が緩む。
「やっぱり先輩だったんですね。見たことなかったんでそうかなって思ってたんですけど」
「私は、君が同じ学校だったってことにびっくりだよ」
「桜木さんが制服着てたんで僕は分かってたんですけどねー」
「……」
同じ高校ということもあり、ちょっとだけ心を許してくれたのか、美奈さんと俺は少し打ち解けたような気がした。そんな俺たちを、クロは黙って見つめている。
「言ってくれればよかったのに〜」
「いやー、こうやって自己紹介する時でいいかなーって思っちゃって」
「あーそうなんだ」
「……おい幸人」
「なんですか?」
桜木さんとの会話に、さっきから黙っていたクロが割って入った。
「我をほーちして、ニヤニヤと……気持ち悪いのじゃ」
「ニ、ニヤニヤなんてしてねーし!」
桜木さんがかわいすぎて、直視していると自然とニヤニヤしている自分がいて怖い。そういうところを、クロに見られてるのもある意味怖い。
「貴様はこーいうのがタイプなんじゃな」
「いや、何言って……」
「この前貴様が妹に見つかるとまずいと言って、ここに持ってきた本に出てきたのも、こーいう胸の大きな
「あー!!」
「むぐっ! はひほふふんふぁ!(何をするんじゃ!)」
「もうご飯食べといてくださいクロ様!」
俺は片手でクロの口を塞ぐと、もう1つの手で料理の皿にかけてあったラップを外した。
(ご飯食ってれば口は塞がる! 余計なことをこの狐は……!)
「んっ……なんじゃいきなり…………」
俺はクロの口から手を離すと少しでも余計なことを言わせないために、その手でクロの頭を撫でた。
「貴様やはり撫でるの上手いのぉ……」
撫でられるのが好きなクロは撫でると、気持ちいいのか大体静かになる。
「先ご飯食べててください。話は聞いておくんで」
「分かったのじゃぁ……」
(よし……)
なんだかんだ言ってこの神は食べ物で釣れるから簡単だ。食べ物が口の中にあれば、さっきよりは余計なことを言わないようになるだろう。
「すみません。お待たせしました」
「全然大丈夫だよ」
「じゃあ、そろそろ本題に移りますか。……話してもらえますか?」
一番うるさいのが喋らなくなったところで、桜木さんにその時のことを話してもらう。
「……最後に覚えてるのは、学校から帰っていたってこと。何日だったかな……そう、確か14日だった」
「っ! 9月14日……?」
「どうかした?」
「いや、なんでもないです。ちょうど……1週間前ですね」
(9月14日。本当にこの日は厄日だな……)
美奈さんの口から出てきた日付に俺は一瞬顔をしかめた。嫌な記憶が脳裏をよぎった。
「うん……でも本当に何も覚えてないの。こうして制服でいるから、多分下校中に何かあったんだと思うんだけど……」
「事故か事件か……」
(ただ……気になるのは、どうして俺は彼女が死んでいることを知らないんだ? 同じ学校の生徒が死んでいるのにもかかわらず、ニュースどころか噂話すら聞いていない……そんなことあるか?)
人が死ぬほどの事故や事件が起こったのなら間違いなくニュースになるだろう。人が死んだ事故を隠ぺいするのは難しいことを考えると
「事件かな……」
それも、完全犯罪の可能性が高い。だけど、そんなことを今の時代に出来るのか?
「桜木さん……何か隠してませんよね?」
「そんなことしないよ……?」
「そうですか……」
俺の問いに、美奈さんは純粋な目をしながら否定する。そもそも何か隠してたらクロが分かる。
(そうなると事件に巻き込まれた線が濃厚かな……)
「……あっ」
その時、俺の頭に嫌な考えが浮かんだ。この考えがもしあってるなら……
「……クロ様」
「ふぁんふぁ?(なんじゃ?)」
料理を口いっぱいに含んだクロは、呂律が回らない状態で返事をした。
「この案件、なかなか厳しいかもしれないですよ」
「はむはむ……っん。そうかそうか」
俺の心を読んだのだろう、口を動かしながらクロは頷いている。
「じゃが、それはそれで面白いかもしれんの〜」
クロは喉を鳴らしながら料理を飲み込むと、いたずらをする前の子供のように、にかっと笑った。
「はあ!? 面白いかもって、同族と争うことになるかもしれないんですよ!?」
「同族ってことは……もしかして」
「むふふ~、神とやりあうのはいつぶりかのぉ〜」
心配する俺と桜木さんを他所にクロは口に手を当て思わず吹き出している。
俺が考えていたことは……他の神が関与しているというものだ。
「あくまで想定なんだけどなー……」
まさか、そんなことがあるわけ無いことを…………願おう。俺にはそれしかできない。
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