第2話 偶然は必然

「それでは席に着いて」


 デザインからして異世界らしさを感じる制服に身を包んだ生徒達は、教師の声掛けを合図にぞろぞろと空いている席に座っていく。私も、何とか探して席に座るのだが、思わず溜め息をついてしまう。何故なら、この世界は想像していた以上に過酷な環境だったからだ。


 王立シャントゥール魔法学園。3年間で優秀な魔法使いを育成する機関であり、素質が認められた者だけが通える学舎だ。一方で、学園側が定めるレベルに達していなければ進級することが出来ない為、留年も認められている。しかし、どんな理由があろうとも20歳になれば即退学だ。

 そして、この期間は私のように様々な事情で遅れて入学する人もいれば、周りに圧倒されて学園を去る人も少なくないという。それだけ、ここに集まる100名以上の生徒達は才能に溢れた超エリートでもあり、ライバルなのだ。


「…それでは、本日の魔法応用はここまで」


 午前の終わりを告げる鐘の音が鳴り、昼休憩に入る。制服や諸々の関係で1週間程、授業に参加するまで時間があったので貰ったテキストを読んだり、本を借りて知識を補った影響で授業の内容に必死に着いていく、というよりは何とか理解出来る所まで来れた。しかし、予習と復習をしなければあっという間に置いていかれそうだ。

 とりあえず、お腹も空いたので学園長におすすめされた、生徒なら無料で利用出来るという学食に行こうと席を立ったその時だった。


「──ねぇ、良かったら一緒にチーム組まない?」


 突然の声に驚いて後ろを振り返ると、机から体を乗り出すように金髪の女の子がニコッと微笑んでいた。


* * * * *


 謎の金髪女子と急遽、購買で買ったパンを手に階段の代わりに設置されているエスカレーターに乗ると、学校としては珍し過ぎる屋上庭園に着いた。フラワーアーチや季節に合った花が咲き誇る庭園を進んでいき、お目当てのベンチに到着する。しかし、そこには先客がいた。


「待たせてごめんね〜」


彼女が手を振ると、彼は開いていた本を閉じて「はぁー」とわざとらしい溜め息を吐く。


「作戦会議と聞いていたが、こうして貴重な休み時間を潰すことが君の本来の目的だったという訳か」


「違うって。はい例の子、連れてきたよ」


背中をぐいっと押し出される。ベンチに座る丸メガネを掛けた男の子は年下に思えたが、近くで見ると意外とカッコよく、纏う雰囲気も只者では無いことが伝わってくる。


「すまない。その様子を察するに、どうせアネットに強引に脅されて連れてこられたんだろう」


「脅すって〜そんなことしてないよ」


「取り敢えず、君は黙って話を聞いて?」


拗ねた顔で「はーい」と言いながら、彼女は丸メガネ男子の隣に腰掛けて手作りのお弁当を開いて頬張り始めた。


「それより自己紹介がまだだったね。僕の名前はレオン、14歳。こっちはアネット、13歳。君と同じ1年生だよ」


「ちょっと! レディーの年齢の話はデリケートなんだよ。立派な紳士を目指すなら本人の承諾無く言わない方がいいよ」


「…ご指摘感謝する。以後、気をつけさせてもらうよ」


 丸メガネ男子こと『レオン』、金髪女子こと『アネット』はとても仲良しに見える。もしかして幼馴染とかだろうか。

 それより、名前を初めて知ったが100名以上もいるクラスメイトの名前を把握しているのは教師くらいだろう。友達になれるかもしれないし、顔と名前が一致するようにしておこうと思いつつ、こちらも自己紹介を終えるとレオンが話の本題に移った。


「改めて、君に話がある。先生が言っていた午後の実技授業『チーム訓練』で一緒にチームを組んでほしい」


 実技授業『チーム訓練』とは。3人でチームを組んで、ダミー人形や小型の魔獣を相手にして実際に魔法を用いた戦闘をすることだ。勿論、訓練ではあるが手加減をすれば怪我に繋がる可能性もある、命がけの訓練だ。

 また基本的に魔獣は気性が荒く危険な存在故、容易く近づいてはならないが、指輪の中にいるべザルは伝説と呼ばれる魔獣サマであり、私と契約しているので害は無いらしい。

 

「僕とアネットは、半年前の予備授業で席が近かったからチームを組んで、実力に関しても申し分ないとのことで先生からの許可の元、2人チームでも許してもらっていたんだ。だけど今回からは、より実戦的な訓練になるから3人で組んで欲しいって言われて。お互い誘える相手もいないし、どうしようかとなった時、僕はアネットのを信じることにした。彼女の直感は異様に当たるんだ。具体的には、まだ分からないのだけど」


 異様に当たる直感とは、正直信じ難くある。それに結局は人数合わせの為に呼ばれたのだろう。しかし、先生に認められる程に優秀な2人のチームに入れるのならば学べることも多いだろう。何よりチームをどうしようかと悩んでいたこともあり、最早断る理由は無い。


「是非、お願いします。実は今日から授業に参加したので午後はどうしようかと悩んでた所だったんです」


お礼と共に伝えると、レオンは微妙な表情を浮かべる。


「今日からか…まぁいい。サポートメンバーが増えるだけでも、こちらはありがたい。後、敬語は要らないよ。だって同じ学年で、今日からは同じチームでもあるからね。それじゃ、これから宜しく。ソラ」


 交渉成立の証なのか向こうから手を差し出して握手を求めてきた。私は恐る恐る手を出すと逃がさないと言わんばかりに、ぎゅっとキツく握られる。なんだか怖くて顔を見ることが出来ずにいると、お弁当をほとんど食べ終えたアネットがカバンから書類を取り出す。


「これからよろしくね〜、てことで訓練チーム申請書類にサインをお願いしまーす」


 書類を受け取り、ベンチを机代わりにしてペンを走らせる。学年…名前…メイン魔法の欄は確か学園長が言っていたのを書けば良いはず。全て書き終えて、隣で記載した内容を見たそうにしているレオンに渡すと、さっきとは打って変わって驚きと困惑の表情に一変する。


「メイン魔法が光と闇……こんな奴見たことない。これ本当なのか」


「うん。学園長がそう言ってたし」


「学園長が言うなら、そうか。…記入、感謝する。僕の方から提出しておくよ」


「ほらほら2人共、話してないでお昼食べちゃお。作戦会議も済んでないし」


 アネットの声がけでお昼を食べ損ねていたことを思い出して3人並んでベンチに座り、急いでパンを口に入れる。飲み物も買っておけば良かったと少し後悔しつつも結局は時間が足りず、作戦会議は食べながら行われた。


 そして午後の開始時刻となり、実技訓練が開始された。魔法を実践する絶好の機会ではあるが、正直に言うと初めての実技訓練は生きた心地がしなかった。いきなり、先生も予想外の大型の魔獣が出てきたり、みんなを守らなくてはと覚えたての魔法を使ったら脅威的な威力で跡形もなく魔獣を消し去ってしまったりなど…。


 これって、もしかしなくても指輪の影響?

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