第81話 たった一つの冴えた(スキルの)やり方

『うおおおおーっ!!』


 ポンデリグが叫びながら、体の周りに金色のリングを出現させる。

 リングはたくさんのボール状のものに分離すると、俺たちに襲いかかってきた。

 一つ一つが拳の形をしている!


「ウグワー!?」「ふ、防げない!」「撤退だ、てったーい!!」


 各国の軍隊が慌てて距離を取る。

 魔王は強い。

 普通の軍隊じゃ相手にならないのだ。


「軍は訓練された常人の集まりだ。それぞれの力を束ねれば確かに強くなる。だがそれを一つ一つに分けて見れば、常人に過ぎない。常人では恐らく、魔王の攻撃に耐えられない」


 ゴウが冷静に分析しながら、黄金の拳を捌いている。


「ふん! みんな雑魚だからダメなんでしょ? 姫はこんなの楽勝だもの! ざーこ!」


 王女様が光の翼を広げて、ぐるぐる回転しながら次々に黄金の拳を切り裂いていく。

 ここで意外な活躍を見せたのはアンナだった。


 タッタカ走っていったと思ったら、黄金の拳を回避しながら、あっという間に魔王の眼の前にいる。


『なにっ!!』


「技巧神様の薫陶を受けてますから! 隙だらけよ! たあっ!」


 ポンデリグ目掛けて、技巧神の槍が突きこまれる。


『小癪な!』


 魔王が腕を振り下ろした。

 これをアンナは、ギリギリで避ける。

 やりを使って攻撃を逸らさせたらしい。


 やるなあ!


「ひええ! 技を使っても本当にギリギリ! こんなの、何度も続けられない!」


 悲鳴あげてる。

 それでも、魔王とやり合えるだけで凄い!


 次にヒュージが黄金の拳の雨を抜けていった。

 金属の蛇が幾つも、あいつの体を取り巻いていて、全身で触れたものを削ぎ落とす装置みたいになっている。


「おらおらおら! 俺が行くぜ俺が行くぜ!!」


『さきほど我が殴り飛ばした男か! 呆れたタフさだな!』


「俺は体内にも蛇を飼ってるからなあ! ダメージは回転で逃してるんだよぉ!」


 ポンデリグの拳と、ヒュージが正面からぶつかりあった。

 凄まじいパワーを、ヒュージは金属の蛇を大回転させて受け流し続けている。


「くっそ、進めねえ!! バカ過ぎるだろこのパワー!!」


『ぬぐはははははは! それ、押し切るぞ!!』


 回転する蛇と相対しても、全く削られた様子もない。

 魔王は笑いながら、どんどんとヒュージを押し込んでいく。


 だが、その隙間にゴウと王女様とアンナが飛び込んだ。


「連続コンボで行く! ふんっ!」


「姫が切り刻んでやるわ!」


「隙を見せたら即座に攻撃、技巧神様の教えです!」


 それぞれの攻撃のダメージは少なそうだ。

 だけど、確かに魔王は少しだけ後退した。


『ぬうう!! ちょこまかと面倒な! 我へ近づける者がこれほどいるとは……!!』


「近づく必要が無いのもいる!」


 俺はようやく準備が終わっていた。


 魔法の針の山の姿はもう無い。

 俺の背後に浮かぶのは、五本の魔剣。


 炎のレーヴァテイン。


『あんじょうよろしゅう……』


 氷のグラム。


『真なる攻撃目標を確認した。拘束する』


 風の天羽々斬。


『魔王か。相手にとって不足なし。我は完全体。この風で何もかも押し流してやろう』


 雷のクラレント。


『待ってたぜこの時をよーっ!! 俺が! このクラレント様が圧倒的な威力で勝負をつける時が! 今! ここにやって来た! 行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ! この最高の舞台で映える! 俺様が! 豪雷によるアツい一撃が! ついにこの星を救う! 第一部完!』


『はー、元気やなあ』『うるさいぞ黙れ』『喋り過ぎだぞ』『何だお前ら!?』


 あーっ、魔剣同士で喧嘩しないでくれ!

 そして無言なのは、鏡の魔剣。


「よし、いっぺんに突撃!!」


『ほな……』『凍結する』『吹き散らす!』『オラオラオラオラオラオラ! 行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ!!』


 にぎやかに突進する、四本の本物魔剣。


 クラレントが雷撃で、黄金の拳を次々に撃ち落とす。

 グラムが魔王の動きを止め、天羽々斬が魔王の勢いを殺す。


 そしてレーヴァテインは、魔王に腕に深く突き刺さり、燃え上がった。


『ぬおおおおおおおおっ!? 全てが伝説級の剣!! それが四本同時にだと!? 使い手が揃っていれば危ないところであった!』


 効いてる!

 だけど、決定打にはなってない。

 なるほど、使い手が揃ってたら勝ててたのか!


 俺は両替によって、呼び出す力を持っている。

 だけど、剣の使い手じゃない。


『お前が魔剣の召喚者か! ふんぬ!!』


 ポンデリグが拳を振り回した。

 衝撃波が生まれる!

 それは俺を粉砕しようと飛び込んできて……。


「うおおっ!!」


 俺が手にした鏡の魔剣は、的確にこれを受け止め、受け流した。

 必要な時に、確実に仕事をするのがこの魔剣っぽい。


『なるほど、身の守りのために汎用の魔剣を呼んでいたか……! それであれば素人だろうと、我の攻撃を防げよう! だがどうする?』


 魔王は周囲を睥睨する。

 仲間たちが絶えず攻撃を仕掛けている。

 それでも、魔王ポンデリグの凄まじいタフネスを削れない。


 周囲では、ぐったりした軍隊たち。

 みんな無力感に打ちひしがれている。


 俺の魔剣はダメージを与えられるが、それぞれが本来持つ最高のポテンシャルは発揮できない。


 これは……なかなかまずいのでは?

 長期戦になったら、絶対にやばい。


 魔王ポンデリグは、どう見たってタフネスが無限大だからだ。


「つまりさ」


 ここで声が聞こえた。

 後ろからだ。


 俺の後ろに立っている人なんか一人しかいない。


「ミスティ?」


「うん。私たちだけで頑張る必要、ないでしょウーサー。ここはみんなでやろう!」


「みんなで……!?」


 ミスティの手が、俺の手を包み込んだ。


「両替って、お金を物にするだけじゃないじゃない。物を物に変えて、ついには物から何かを呼び出せるようになって……。それでウーサー、スキル確認してみた?」


「最近はしてない!」


 こんな時に、彼女は何を言っているんだろう。

 だけど、とても大事なことを言っている気がした。


「ウーナギが世界中と繋げてくれてるよ。ウーサーのスキルなら、世界中のみんなとサイッコーの両替ができるかも!」


 最高の、両替……!?


 俺の視界にスキルの表示が出現する。



スキル:両替(究極段階)


・今までの全ての能力を有する。

・同意した者全ての意志を力に両替する。

・力を束ね、一つの力に両替する。


「みんなであの魔王、ぶん殴っちゃおうよ!!」


「なるほど、そういうことか!!」 

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