第80話 魔王ポンデリグ

 ついに魔王が降りてきた。

 拳大だった空の赤い星は、あっという間に大きくなっていく。


 どうやらあれ、高い空に浮かんでいたみたいだ。

 そして魔将がすべて倒されたことを確認し終わったんだろう。


 急に加速して、地面に激突してくる。


「両替! 藁!!」


 このままではすごい衝撃になると俺は判断して、この場にある財宝を全て藁に変えた!

 落下の勢いが、全て藁に包み込まれる。


『な、なんだこれはーっ!!』


 藁の向こうから声が聞こえてくる。

 魔王の声かな……?


 まさか、いきなり藁で包み込まれるとは思ってもいなかっただろうからな。


 だけど、魔王星の周りは高温になっていたようだ。

 藁が燃え始める。


「両替! 両替両替! 藁を魔剣にして、魔剣をまた藁に戻して……」


「ウーサーがんばれがんばれ!」


 ミスティが応援してくれる。

 彼女がいる限り、失敗なんかありえないと信じられるのだ。


 徐々に藁の体積を変えながら、魔王星をそーっと地面に下ろした。


『わ……我がこんな、卵をそっと包み込むみたいなソフトタッチで大地に降ろされるとは……!! こんな屈辱は初めて……!!』


 魔王星がぶるぶると震えた。

 既に藁は全部、魔法の針の山になって回収が終わっている。


 世界中の軍隊が取り囲む中、魔王星が平原の真ん中に鎮座している状態だ。


「おいおい、いつまでも周りで見守ってるんじゃねえよ! 俺がいってやるぜうおおおおおおお!!」


 ここで我慢できず、ヒュージが飛び出した!

 今まで見た中で、一番でかい金属の蛇を呼び出す。

 それが甲高い金属音を立てて猛烈に回転。


 蛇の鱗が魔王星に激突した。

 ……と思ったら。


『我が親しみやすい言動だからと、舐めてしまったようだなあ!』


 魔王星を突き破って、巨大な腕が飛び出してきた。

 それが金属の蛇に激突すると……。


「なんだああああああああっ!?」


『ふんぬらああああああ!!』


 真正面から、蛇を殴り飛ばして粉砕する。


「物理攻撃系の魔王かい!?」


 ウーナギが驚く声が聞こえた。

 珍しいんだろうか?


「宇宙に飛び出してくる魔王は、大体が概念を使う系のやつなんだ。分かりやすい物理的な強さを持つ魔王は概念系に勝てないからね。だけど、物理系なのに宇宙に飛び出したということはあの魔王、他の概念系を真っ向から粉砕したとんでもない奴ということになる……」


 ヒュージが「ウグワーッ!」と吹っ飛んでいく。

 魔王星は全体にヒビが走り、その中から魔王ポンデリグが姿を表した。


 黄金に輝く巨人だ。

 体の周りを、柔らかいボールが繋がって作られたリングが回っている。


 顔にはもこもことしたタテガミがあり、肉食獣のような頭をしていた。


「おっと、マナビ王から魔王の情報が送られてきたぞ。魔王ポンデリグ。能力は鉄拳」


 鉄拳!?

 つまり、拳でぶん殴るってこと!?


 魔法でも能力でもなんでもなく、あの拳が魔王の能力……!


『ふうー。我は少々驚いたぞ。まさかこんな柔らかく出迎えられるとはな。柔らかいものには我の鉄拳も通じにくい。だが柔らかいものでは我にダメージを与えることはできぬ』


 魔王は周囲を見回した。


『少しばかり魔王星で寝ていたら、よくぞここまで頭数を集めたものよ。まあ、どれだけいようと無駄だがな』


 ポンテリグは拳を、ガーンと打ち合わせた。

 強そうだ。


「うおー!! いけいけいけー!!」


 どこかの国の軍隊が仕掛ける!

 魔王がガンガン飛び、矢が放たれる。


 だがこれは……。


『ふんっ!!』


 猛烈な勢いで、ポンデリグの拳が突き出された。

 すると、拳の周りに光が生まれ、それがポンポンとしたリングになる。

 リングが全ての魔法と矢を弾き飛ばした。


 それどころか、拳の勢いが逆流し、一気に軍隊目掛けて襲いかかった。


「な、なんじゃこりゃウグワーッ!?」


 軍隊ごとふっ飛ばされる。


「ば、化け物!」


「だがやるしかねえ! いけいけいけ!!」


 あちこちから、ワーッと襲いかかる各国の軍隊。

 だが、みんな蹴散らされる。

 全然勝負にならない。


「いやあ、強いねえ。フィジカル一本で来るタイプの魔王はそれしかないぶん、力押しは無理だ!」


 ウーナギがちょっと引いている。


「ウーナギでも無理なのか?」


「僕との相性は最悪だね。ちょっと仕掛けてみようか」


 他の軍隊が大体壊滅したので、次にウーナギが攻撃する。

 天変地異みたいな精霊魔法が発動し、竜巻に地震、大地から湧き上がる炎に、氷が襲いかかる。


 だがこの全てを……。


『わははははははは!! 無駄よ! 無駄無駄あ!!』


 ポンデリグの拳とそれを包み込むリングが一気に粉砕する。


「うわあ、デタラメだ!」


「ウグワーッ!?」


 ウーナギが魔法を破られた衝撃で、吹っ飛んだ!

 魔法ってそういう仕組みなんだ………!?


「リーダーがやられた!」


『リーダーがだめなら、わしら十頭蛇は正面からじゃ無理じゃのう』


 エグゾシーが諦めてる。


『何気にわたくしたち、搦め手がメインですからねえ。ヒュージがまた行けばいいんじゃないですか』


「そうだな! また俺が行くか! おい、俺ばっかり仕事させてるんじゃねえぞ! 各国の軍隊は粉砕された! あいつらのメンツも立っただろ。いや、メンツが潰されたか? まあどうでもいい。てめえらじゃ勝てねえって理解しただろ!」


「よし、じゃ、俺も行くよ!」


 俺が進み出たら、王女様とゴウも出てきた。


「姫もやってやるわよ!」


「いっちょやるかあ!」


『おいらは権能を槍の形にした。これでアンナを参戦させるぞ』


 まさかの、イサルデに支援されたアンナ参戦!


 こうして、俺、ヒュージ、王女様とゴウ、それにアンナの五人が魔王とやり合うことになったのだ。

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