第76話 次は真打ち?

『ブオオオオオオオ!!』


 レイガストが岩がこすり合わされるような音で叫ぶ。

 それと同時に、岩の巨人みたいなそいつの全身からモヤが吹き出した。


 モヤが辺りの岩や石に取り付き、動かし始めようとする……。


「うおーっ!!」


 それは、俺が振るった天羽々斬が烈風を起こし、全て吹き散らした。


『なんだと!!』


「次は俺だ!! くたばれ化け物が!!」


 ヒュージは金属の蛇を伸ばし、その上を走っていく。

 蛇の先に蛇を生み出し、その先にも蛇を生み出し。


 まるで蛇の坂道だ。

 駆け上がるヒュージの両腕を、金属製の蛇が甲高い音を立てて回転しながら包み込んでいる。


『小癪なちびめ! ここで捻り潰してやる!!』


 レイガストの腕が叩きつけられる。

 これをヒュージは、回転する蛇で受け止めた。

 すると……蛇の回転が、レイガストの腕を構成する岩石を削り取っていく。


『な、なにぃーっ!!』


「俺の力は回転! 磨き上げて蛇の形に昇華できるようにしたんだ! 振れるものを皆削ぎ落とすぞ! てめえも俺の回転でバラバラにしてやる!」


 ヒュージは歩いてもいないのに、レイガストに向かって進んでいく。

 よく見ると、蛇の坂道は無数の回転する蛇のリングで作られていた。

 これがヒュージを自動的に運んでいくのだ。


「やるなあ! じゃあ俺も頑張ろう! ナイト!」


「ひひーん!」


 俺は天羽々斬を魔法の針に戻した。


「お疲れ!」


『危機あらばまた呼ぶがよい』


「ありがとう! じゃあ、続いて砦!!」


 レイガストに向けて、倒れ込む巨大な砦が出現する。

 これ、バイキングの島で見たやつ。

 構造は木造だし、簡単に再現できそうだなと思ったらイケた。

 やっぱり値段がそんな高くないんだろうな。


『ブオオオオオオッ!!』


 レイガストが砦を乗っ取ろうとモヤを吐き出す。

 だけど、砦にモヤが取り憑いた瞬間には、もうそれを魔法の針に戻して手元に回収しているのだ。


 お前、俺の能力相手だと相性最悪だぞ!


 跳躍したナイトの足元になるように、次々見張り塔を生み出す。

 レイガストの頭よりも高いところを、俺たちは疾走しているわけだ。


 ヒュージの回転で真っ向から攻撃されつつ、レイガストはこちらを無視することもできない。


『なんだ! なんだ貴様らは!! この世界の全ての物品をしもべにし、ポンデリグ様に捧げようとしておったのに! その矢先で邪魔をする者たちに遭うとは!!』


「うるせえ! てめえの事情など知ったことか!! 死ねえ!!」


 ヒュージは血気盛んだなあ!

 全身に巨大な金属の蛇を纏って、猛烈に回転させながら突っ込んだ。


『ウグワーッ!?』


 回転する蛇は、言うなれば刃が付いた車輪みたいなものだ。

 レイガストの巨体を粉砕し、削ぎ落としていく。


 俺もまた、ナイトの跳躍と同時に魔法の針全てを変化させている。


「ハンマー!」


 その全てが、ハンマーになった。


「行け!! ハンマーの雨!!」


 降り注ぐハンマーの雨。

 レイガストの岩の体を砕き、奥深くに食い込む。


「両替! ブロードソード+8!」


 その全てがレイガストの体内を掘削しながらまとまり、数本のブロードソード+8になって戻ってきた。

 この間の、鏡の魔剣じゃない。


 だけど、カトー曰く世界最高の魔剣と言われるこいつが、何本も作れるくらいまで俺は腕を上げたのかもしれない。


『ウグワーッ!!』


 体内を俺に破壊され、同時に頭部をヒュージに粉砕され、レイガストは断末魔の叫びとともに爆散した。

 岩石が飛び散る。

 だけど、俺の周囲に来た魔剣が、盾のように働いてこれを防いだ。


 チリ一つこちらに飛んでこない。

 なんか凄いな。

 手も触れてないのに、自在に制御できる……。

 これがブロードソード+8……?


『ひひーん!』


「あ、着地着地!!」


 ナイトの足元に、大量の藁を生み出した。

 ボフッと着地するナイト。


「ウグワーッ」


 あっ、ヒュージが落下してきた。

 蛇ごと地面に激突し、ぼーんと弾んでまた吹っ飛んでいく。

 豪快な男だなあ。


 そしてすぐに、自分で走って戻ってきた。


「おう、見たか? あれが俺の力だ! 以前お前にやられたのは、正体不明の能力に驚いただけだからな! 今ならわかる。お前は物を媒介にして違うものを作り出す力だな? ……とんでもない奴だな……」


「冷静になっちゃった。ヒュージも強かったんじゃないか」


「俺は強いに決まってるだろう」


 自己肯定感高い人だ。


 しばらくすると、ミスティとニトリアとエグゾシーがやってきた。


『おうおう、やったのう。これで恐らく、降り立った魔将は全て片付けたはずじゃ。後は魔王が降りてくるのを待つばかりじゃのう』


「そうなんだ!」


『魔将の数は無尽蔵ではないからな。デカラビアで海を制御し、ベアードで敵を制圧し、レイガストで物質を支配しようとしたのじゃろう。この三体が十全に動いていたなら、ほぼほぼ侵略は完了しておる』


「ほんとだ!」


 魔王はとんでもないやつらを派遣していたんだな……。


「よくウーサー勝てたね!」


 ミスティが感心している。


『ウーサーの強みは、相手に応じて最適な戦いができることじゃな。魔将どもは全て、弱点を突かれて破れておる。魔王となればそうは行くまいよ。次なる策を練らねばな。そろそろリーダーを呼び出すか』


 呼び出されるんだ!?

 とにかく状況は一段落。


 今後の対策はエグゾシーに任せて、俺は一休みしたいなと思うのだった。

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