第77話 ウーナギの秘策

 公国が再建されていく姿を眺めながら、のんびりする。

 この国に降り立った魔将が、直接攻撃してこないタイプだったから、エヌール公国は助かったんだろう。


 エムズ王国の魔将ベアードは、国の中心部にいた人間を光線で全て殺してしまったらしいから。


「こういうところも運みたいなものが関係してるんだなあ……」


 俺が呟くと、隣にいたミスティが頷いた。


「もちろん。この国だって噂はよくなかったけど、なんだかんだで公王の人、国と国民を愛してたもんね。エムズ王国はそういうの無かったんじゃない?」


「そうかも知れない」


 天幕の下で、藁を敷き詰めたところでまったり座っていたら、お茶が差し入れられた。

 茶菓子も一緒だ。


 都は壊れてしまっていたが、食料やら何やらは全て無事だったそうで、これらを持ち出しては料理が作られている。

 腹が減ると何もできなくなっちゃうもんな。


 国の再建作業をしてる人たちにためにも、美味しい料理や甘いものは不可欠なのだ。


「この国のお菓子は形かわいいね。くるくるっと捻った縄みたい」


「なんか、公国って建築が得意で、こういうねじった形に削った柱が名物なんだってさ」


「柱のお菓子なんだ! 甘くて美味しい~」


 ミスティが笑顔でお菓子を食べている。

 俺も口にしてみたら、食感はサクサク。

 焼き菓子なんだなあ。


「ふん、こういう形であえて焼き菓子にして割れないように仕上げるとか、技術への奢りが見えるぜ。美味いけど」


 暇を持て余しているらしいヒュージまで来た。

 こいつの能力、破壊にしか使えなさそうだもんなあ。


 ヒュージが生み出した、小さな金属の蛇が、リング状になって辺りをコロコロ転がっている。

 ロバのライズはこれが気になるらしく、トコトコ追いかけていた。


 蛇が逃げる。

 ライズが追いかける。

 蛇がまた逃げる。

 それをライズが追いかける。


 のどかだなあ。


 頭上の魔王星は、また一段と大きくなっている。

 油断できない状況だとは思うけれど、焦ったところで今できる事は何もない。


「ああ、暇だ……」


 ぶつぶつ言いながら、ヒュージはまたどこかに行ってしまった。

 本当に戦う以外は何もしない男なんだなあ。


 今、エグゾシーとニトリアがウーナギへ連絡を取っている。

 十頭蛇リーダーであるウーナギの到着を待ってから、いよいよ魔王との最終決戦スタートとなるわけだ。


 だから俺がこうして、ミスティと二人でのんびりしているのは正しい。

 今が最後の息抜きかもしれないし。


「ウーサーはさあ」


 ミスティが話しかけてきた。


「あたしのこの能力が無くなったら、どうするの? ほら、ウーナギに能力を預けたりしてさ」


「無くなったら……。えーと、うーん、それは」


 何をするかは決めてるんだけど、ちょっと言うには気恥ずかしい。

 だけどここで濁すのも違う気がして、俺はきちんと言葉にすることにした。


「ちゃんと、ミスティの責任を取る!」


「責任!」


「俺はミスティが好きだから、一緒にいられるようにする!」


「!」


 彼女と目が合う。

 ミスティが、凄くいい笑顔になった。

 そして俺に抱きついてくる。


「そうだねえ……! そうだね! ずっと一緒にいよ! 元の世界にとか言われるんじゃないかって思って、ドキドキしてたから」


「元の世界……。ミスティは戻りたいの?」


「どうかな。最初は戻りたかった。だけど、なんかこの世界を旅してたら、こっちも悪くないなって思えてきたんだ。仲がいい人もたくさん増えたし、こっちでも友達がいっぱいいるなら、どこにいても一緒じゃないかって」


「そうなんだ。そういうものなのかな……。でもミスティが思うなら、きっとそうなんだろうな!」


「そうそう! この辺の細かい気持ちのお話は、お姉さんが後で教えてあげる」


「またお姉さんぶってる!」


 二人で笑った。

 しばらくそんな感じで喋っていたら、ミスティがハッとして振り返る。


 羨ましそうにニトリアがこっちを見ていた。


『くうー、ともに過ごした時間の濃さが違います。悔しい』


「ふふふ、あんたに勝ち目はない!」


『なんの! こちらは夜に大人の時間で差をつけるとします』


「だ、ダメーっ!! それはこっちに勝ち目がないからダメ!!」


 女子たちの間で戦いが勃発したぞ。

 俺は割り込むのも何なので、これを眺めている。

 そもそもああいう話に参加するのは苦手なのだ。何を言えばいいか全くわからなくなる。


 あ、ニトリアが戻ってきたということは……。


「やあやあふたりとも、元気だったようだね。僕? 僕はもちろん元気だ。魔王星が近づいてきたお陰で、少々頭が痛いけどね」


 とてもマイペースな事を言いながら、エルフに似た見た目の男がやってきたのだ。

 ウーナギ。

 十頭蛇のリーダーにして、かつて倒された魔王でもある。


「ウーナギ! もう来たんだ」


「声を掛けてもらえば、どこにだって駆けつけるさ。それにしてもウーサー、仕上がったね」


 ウーナギが俺を見て感心している。


「普通、こんな速度で能力は練り上がらない。もっとゆっくり時間を掛けていくものだし、仕上がること無く人生の寿命を迎えるなんてのも当たり前なんだ。だが……最適な運命に連続で巡り合わせれば話は別だ」


 ウーナギの目が、ミスティに向けられた。

 何もしていないように見えるミスティ。

 だけど彼女はいるだけで、好ましい運命と、それに伴う宿命を引き寄せる。


「世界に迫る魔王という宿命の反作用が、ウーサーという対抗者を強引に仕上げた。近々決戦だね。僕にも色々考えがある。ちょっと後で、どこに立ち寄ってきたか旅の話を聞かせてもらえるかい?」


 ウーナギ、何かを企んでいるようなのだった。

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