第71話 忙しい航海
北国の人々に別れを告げて、船は行く。
食べ物や、彼らが海底から拾ってきた財宝などをたっぷりもらった。
これを全部魔剣に変えておいた。
そろそろ、魔法の針よりも強めの魔剣のほうがかさばらなくなってきている。
「なんか金銭感覚が麻痺してくるね……! 前までは銅貨一枚とか、銀貨一枚でわあわあ言ってたのに!」
「うん。俺も怖い……。あと、お金が向こうから集まってくる」
スラムにいた頃なんか、どう頑張っても鉄貨しか手に入らなかったのに。
今は世界を旅して、人を助けたりして回っていると、勝手に金貨何十枚という額がどんどんやってくるのだ。
頭がおかしくなる~。
『あら。お金は寂しがり屋なので、お金を持っている人の所に集まるのですよ』
ニトリアがそう言いながら、俺の背中にくっついてきた。
「んまー!」
ミスティが憤慨した声をあげる。
戦争だ戦争だ。
『いいではありませんか! ウーサーくんはあなたが好きなのですから、最後はちゃんとあなたのところに戻ってくるでしょう? わたくしはちょっと、彼の初物をいただければそれだけで……』
「ダメに決まってるでしょー! それに初めてのものって、そういうのはあげたりするものじゃなーい!」
『ンマー強欲!』
「強欲以前の問題でしょーっ!!」
「うーわー」
女子たちの戦いに巻き込まれる俺なのだ。
これを、エグゾシーが呆れながら眺めていた。
『本当にお前ら、毎日飽きもせずにそんな事を繰り返しておるのう。まあ、魔王を倒すまではお互い手出しもできまいからな。わしに迷惑が掛からぬなら、大いに牽制しあうがいい』
そう言いながら、エグゾシーは舳先にニョロニョロ這っていった。
俺も女子たちの間を抜けて、エグゾシーの後を追う。
「今度はどうするのさ」
『そうじゃのう。大陸の北端がここじゃから』
「えっ、ここが世界の北の果てなのか……」
『世界はもう少し広いがのう? 他にも大陸はあるらしいぞ。だが、そこは別の文明が存在する別世界じゃ。魔力の気流に阻まれて到達することはできぬ。故に、無いものと考えて良かろう』
エグゾシーは、遥か北を見つめながらそんな事を言うのだ。
彼の考えは、ここから大陸をぐるりと巡り、今度は南に下っていくのだそうだ。
すると……やがて、エムス王国やエヌール公国へたどり着く。
悪い印象しか無い二国だけど、今はそいつらに負ける気がしないぞ。
行ってやろう、行ってやろう。
『帆に風を当てるのじゃ。魔剣を呼んだらどうじゃ?』
「そっか、その手が! 両替! 天羽々斬!」
俺は風の本物魔剣を呼ぼうとした。
すると……。
明らかに偽物みたいなのが出てきた。
ウンともスンとも言わない。
これ、カトーのところで手に取った偽物魔剣だ!
『別に世界の危機でもなんでも無いからのう。大したことがない物が出てくるのじゃな』
「これだけでも、世界に存在する最高峰の魔剣らしいけど……」
えいっと振ったら、風が起こる。
それが帆を押し、船はどんどん進み始めた。
速い速い。
沿岸部に幾つも船や港町があったのだけれど、そこの人々が呆然として、猛烈な勢いで過ぎ去る俺たちの船を眺めていた。
「ちょっと勿体ないな。立ち寄ったりできない?」
『その手もあるな。よし、風を止めてターンじゃ』
ということで。
港町に立ち寄るなどした。
そこは、崖に囲まれた港町。
これでも一つの国だった。
領主に雇われた傭兵が悪さを働いているというので、ちょっと俺が一働きすることになったのだ。
「十頭蛇……?」
『十頭蛇は最強の傭兵組織であるというだけで、他にも傭兵なんぞごまんとおるわ。ここのは特に質が悪い連中じゃがな』
詳しくは割愛するけど、つまりはそれくらいトントン拍子でおかしな事も起こらなくて。
俺が傭兵たちのアジトに乗り込み、偽物魔剣を振り回して壊滅させた。
炎の偽物魔剣の一振りで、アジトの砦が燃え上がってしまうとは思わなかった。
それに、剣を合わせると、相手の武器が炎上して折れてしまい、もう敵にならない。
圧倒的過ぎる。
『人間相手ではそのようなものでしょうねえ。そちらの魔剣だけでも、手にするものが傑物ならば単身で一国を奪えるだけの力を秘めていますから』
ニトリアがとんでもない事を言う!
で、最後は領主の私兵と対決。
港町の人々が見守る前で、俺は雷の偽物魔剣を取り出した。
一振りで稲妻が周囲に飛び交い、金属の鎧を着ていた私兵たちは、みんな痺れて動けなくなり……。
領主はふん縛られて海に流されていった。
「ウーサー、今一日で町を解放しなかった?」
「した。凄い、話がめちゃくちゃ早くなってる」
『最短で目的を達成できる力があるからのう。この程度の仕事ならば、お前にとってもはや造作もなくこなせるじゃろう』
ちょっと愉快そうなエグゾシーなのだった。
そしてそこで一晩過ごし……。
ニトリアが俺を夜に襲ってきて、なんか色々なピンチを感じつつ、乱入したミスティの飛び蹴りが二トリアを撃墜したりした。
『ううっ、ちょっとくらいウーサーくんを貸してくれても……』
「ダメーっ!!」
こうして港町の人々と交流して、また俺たちは海へ。
ふと空を見上げると、魔王星がまた大きくなっていた。
「どんどん近づいてくる」
『うむ。普通にいつ降りてきてもおかしくないのう。あと、そろそろまた魔将が降ってくるぞい』
経験者は語る。
魔将本人であるエグゾシー曰く、魔王の先遣部隊として、複数の魔将が降り立つ頃合いらしい。
夜を超えて、朝になり……。
見上げた魔王星は少しだけ欠けていた。
夜のうちに魔将が分離し、世界のどこかに降り立ったのだ。
なんとも厄介だ……!
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