第70話 ヒトデは串刺しだ

 デカラビアが動く。

 それだけで、周囲の水面が弾け、大きな波が起こる。


 デカラビアが吠え、体の中心にある目玉から光を放つ。

 ナイトはこれを、横っ飛びに回避した。

 普通の馬よりも機動力高くないか?


 そして外れた光は、俺の後ろの海面を爆発させた。


 うわーっ、とんでもない!!


「この世の終わりだあ」

「まさかあんな化け物がいたなんて」

「漁場どころじゃねえ」


 現地の人たちも近くで見ているようで、声が聞こえてくる。

 危ないなあ。


 彼らが被害に遭う前に、魔将を倒さないと。


『もがーっ!!』


 デカラビアが叫びながら、足に当たる部分で蹴り上げてくる。

 海底が削れて、サンゴとか岩盤が水上に飛び散ってきた。


 ナイトはこれを、加速してくぐっていく。

 つまり、近づくってことだ!


『いいぞ。俺様を叩きつけろ。遠距離の雷撃ではダメージにはなるが、決定打にはなるまい! 星を超えてきた化け物には、直接俺様をお見舞いするのがいい!』


「分かった! ナイト! もっともっと近くへ!」


『ぶるる!』


 ナイトが加速する。

 猛烈な勢いで、デカラビアの懐へ。


『かーっ!! 恐れ知らずめ! 死にに来たか!!』


「お前をやっつけに来たんだ!!」


『小癪なちびめ!! もがーっ!!』


 腕に当たる部分を振り下ろしてくるデカラビア。

 これを、ナイトが回避した。


 デカラビアの挙動の一つごとに、大きな波が生まれ、海底がえぐれて飛び出してくる。

 ナイトは、その弾け飛んだ海底の破片を足がかりにした。


 デカラビアの頭上まで、一息に飛び上がる。


「よしっ!! 今だ!!」


『なにっ!?』


 デカラビアが起き上がるよりも速く、俺はクラレントを構えている。

 視界いっぱいが、魔将デカラビアだ。

 どこに攻撃しても当たる!


「うおおおおっ!!」


 叫びながら、切り込んだ。

 刃が魔将の硬い皮膚にぶつかり、それを削りながら深く入り込んでいく。


『がははははは!! 中身から俺様の稲妻を喰らうがいい!! そーれっ!!』


 間近で見たら、眩しさのあまり何も見えなくなるような閃光が、轟音とともにほとばしる。


『ウグワーッ!?』


 デカラビアが体の一部を爆散させつつ、後退した。


『ちいっ、状況が悪いな。雷の伝導率はまあまあ上がっているが、やはり海水が多すぎる。おいお前』


「俺?」


『お前以外に誰がいる』


 クラレントがニヤッと笑う気配がした。


『俺様以外に、海に向いた武具と契約しているだろう。そいつを呼べ。弱点は作っておいてやった』


 そう告げるなり、クラレントは轟音とともに稲妻になった。

 空に還っていく。


 消えた。

 俺の手から、魔法の針がじゃらじゃらこぼれていく。


「おっとっとっとっと!」

 

 慌てて針を受け止めながら、俺は考える。

 海に向いた……?


 それはつまり、バイキングのところで見たあれか。


「両替……トリトンスピア……!!」


 魔法の針が輝いた。

 同時に、辺りに飛び散っていたサンゴも輝き、それら全てが一つになる。


 俺の手に生まれたのは、青く光る三叉槍だ。


『ルサルカの名に於いて。汝に力を授ける』


「ありがとう! 魔将デカラビアを倒す!」


『ルサルカの承認あり。我を投擲せよ』


「わかった! 行け、トリトンスピア!!」


 俺は大きく振りかぶり……。

 槍を投げた。


 槍が飛翔し、加速する。

 さらに加速、加速、加速。


 水面から水が浮き上がり、トリトンスピアを包み込む。

 それは横一文字の竜巻になり、デカラビアへと突き立った。


 クラレントが稲妻を打ち込んだ部位だ。

 そこに、魔将の硬い皮膚はない。


『ウグワーッ!? こ、こんなところで、魔王様到着前に! 魔将デカラビアが討ち取られるなんてーっ!? ウグワーッ!!』


 そう叫ぶと、巨大なヒトデみたいな魔将は、粉々に爆散した。

 トリトンスピアは魔将を通過すると、纏っていた水を辺りに跳ね飛ばしながら戻ってくる。


『五つの伝説が汝とともにあり。世界の危機近し。また呼ぶが良い』


 そう告げて、トリトンスピアは消滅した。

 凄い量の魔法の針が辺りにばらまかれる。


「うわーっ、もったいない、もったいない! 集まれ!! 両替! ええと……船!!」


 とりあえずそいつら全てを帆船にしたら、ちょっとした船団になってしまった。

 現地の人々はこれを見て、またとても驚くのだった。


「とんでもないことになってた!!」


 水面を這うニトリアに乗って、悠々とやって来るミスティ。

 ライズはちゃぷちゃぷと泳いでいる。

 泳げたんだ!?


「ウーサー、なんでライズに注目するの!」


「あ、ごめん!」


 つい。

 ぶもーと鳴くライズをわしゃわしゃ撫でて、船を一旦両替。

 俺たちの真下に作り出した。


 ふう、これで人心地付いた。


『いやはや……。凄まじい勢いで成長しておるなお前は』


 ライズの頭の上にいたエグゾシーが、感心半分、呆れ半分だ。


「そうかな……? そうかも」


 俺もよく分からないけれど、あっという間にできることが増えて行っている。

 でも、俺からするとミスティと出会ってから、それなりに長い時間を掛けて鍛錬してきたから、自然な成り行きという感じもするな。


『お前は若いからな。時間の流れがゆっくりに感じるのじゃ。わしは年寄りだから、何もかもあっという間じゃ。ついこの間、お前にぶっ飛ばされたと思ったら、今はもうどう逆立ちしてもお前に勝てなくなっておるぞ』


「そんなに!」


『若い者の成長は恐ろしいのう。おっと、現地の連中が来ておるぞ』


 帆船の下に、小舟がたくさんだ。

 現地の人たちが、手を上げてわあわあ言っている。

 

 俺は船から身を乗り出して、彼らに向かって叫んだ。


「これで、魚が集まる邪魔をしてたやつはやっつけました! また戻ってくると思います!」


「本当かー!!」

「すごい戦いだった!」

「俺たちは神話を目にしたんだ!」

「ブラボー!」


 なんか、さっきまで敵味方に分かれていたとは思えないくらい打ち解けて、俺に手を振ってくるじゃないか。

 平和なのはいいことだけど……!


『彼らの信頼も勝ち取ったようですね。リーダーはなんだか、こういうまだるっこしい旅をウーサーくんにさせて、色々な人間関係をつなげようとしているみたいですねえ』


 なぜでしょう、と首を傾げるニトリア。

 まあいいじゃないか。

 事態が丸く収まって何よりなのだ。


 

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