第72話 戻ってきたエムズ王国

 幾つもの国を越えた。

 ある国では干ばつで悩んでいたので、氷と炎の魔剣のあわせ技を使った。

 偽物魔剣でも、猛烈な水蒸気が飛び出してきて、それが雲を呼ぶ力を持っていたらしい。

 雨が降り出したりして、俺は大いに感謝された。


「なんでこうなったんだろうなあ」


「なんかこうなるって思ったんだよね」


 ミスティの助言だったわけだ。

 エグゾシー曰く、


『土地の魔力バランスが崩れておったのじゃな。それをウーサーが直したんじゃ。わしも気付かなかったのに、よく察したな? これが運命の能力というやつか』


 なるほど、やっぱりミスティは凄い。

 そしてそう言う能力を持っていると知られるのは危険だなあ。


 次には、逆に洪水や浸水で困っている国に来た。

 ここでは氷の魔剣で水を凍らせることになった。

 何故かグラムが来てくれたので、全ての水が凍りついた。


 これをみんなで掘って、海に捨てることになる。

 その間に、干拓作業ができるようになった。


「次々にアクシデントに見舞われた土地に到着するぞ……」


「なんかこっちに行ったほうがいいと思ったんだよね」


 運命と宿命を引き寄せる力……!

 それらを克服する能力さえあれば、ミスティの力は世界にとって良いものになる気がする。


 俺は結構、そんな克服能力を得てきたのではないか。


『寄り道が多くて、なかなか進みませんねえ。魔王星がどんどん大きくなってきています。いつ降ってくるんでしょうねえ』


 ニトリアが空を見上げて、怖い怖いと呟く。

 まったくだ。

 俺も魔王に備えたいけど、一体どうすればいいのかさっぱり分からない。


 どうしたもんだろう。


 こうして、幾つもの国々を巡り、それぞれの国が色々な問題で困っていたのを解決し、俺たちはどんどんと進んだ。

 

 船は昼は風の魔剣の力で進み、夜はアンデッドな船員たちの力で進む。

 国を巡るたびに、船員の髪の毛とか爪の先をもらい、これをエグゾシーがアンデッド化して労働力にするのだ。


『基本、朝日に当たると崩れて消えてしまうからのう。昼間は船底でじっとしていてもらい、夜になったら外で働かせるのじゃ。しかし船の仕事はどうしても、きりがいいところで終わらせるわけにもいかん。ちょくちょく朝日を浴びて消滅するアンデッドがおるから、こうして都度ごとに補充せねばならん』


「大変だ……!」


 後は、あら事がありそうな時はニトリアが解決する。

 単身で相手の船に乗り込み、無力化して戻ってくる。


 俺たちは構っている暇などないから、そのまま通過するだけだ。

 相手は呆然としながらそんな俺たちを見送る。


「毎日、色々なことが起きるからもう頭が大混乱だ! なんか最近、一日が濃いなあ……」


 俺は舳先に立ってそんな事を呟いた。

 いつまでこの生活は続くだろう?


 確か今、船はエムズ王国側に向かっているはずだよな?


「あれっ、ウーサー。この瓦礫の山、ちょっと見たことがあるかも」


 いきなりミスティがそんな事を言った。

 瓦礫の山?


 ちょっと遠くに見えるのは、広大な平原。

 そこにうず高く積み上がる、瓦礫の山がある。


 近づくとよくわかったのだが、これは城壁だ。

 城壁が破壊されて、雑多に積まれている。


 もちろん、城壁の奥にある町も原型をとどめていない。

 完膚なきまでに破壊されている。

 これはひどい。


 そして瓦礫の周辺に、たくさんの人々がいた。

 みんな適当な布を貼って雨露をしのぎ、ここで生活しているようだ。


「まさかこれ……エムズ王国!?」


「みたい。とんでもないことになってるねえ……!」


 俺とミスティは、かつて知った王国の変わり果てた姿に驚愕した。

 慌てて船を岸につける。


『ここからは歩きじゃろう。船を消して構わんぞ』


「分かった! 両替!」


 船を魔法の針に戻す。

 これを見ていた現地の人たちが、目を丸くした。


「ふ……船が来たと思ったら、消えた!」


「なんだ!? 何が起きてるんだ!?」


「怪物が現れて国を滅ぼしてしまったと思ったら、今度は消える船……! 世界はどうなってしまうんだ!」


 わいわい騒いでいる。

 その中に、見知った顔を発見したので、俺は駆け寄った。


「おーい! おーい! 俺だよ、俺!」


 騒いでいるうちの一人が、俺に気付いて飛び上がって驚く。


「えっ!? ウーサーかい!? あんた、ウーサーなのかい!?」


 パン屋のおばちゃんだ。

 この人のところで、黒パンを買ってた日々が懐かしいなあ……。

 もうどれくらい前のことだろう。


 おばちゃんの知り合いということで、周囲の人々もホッとしたようだ。

 船が消えたのは一大事だが、それでも見知らぬ誰かではないというのは安心できるらしい。


「俺だよ、俺」


「ウーサーがなんかオレオレ言ってる」


 なんでミスティそんなことを気にするんだ?

 まあいいや。

 詳しい事情を聞いてみることにする。


「国は戦争が続いて、随分大変だったのさ。男たちは兵士として連れて行かれて、でも戦場ではエルトー商業国がのらりくらりと戦争をやり過ごしてね。人はあまり死なないけど、だらだらと続いていて、お陰で商品は入ってこないし働き手はいないし、大弱りだったんだよ」


 そんなエムズ王国に、そいつはやって来たらしい。

 星が欠けたのだ、と誰かが言った。


 星からこぼれ落ちた破片は、エムズ王国へ向けて飛来した。

 そいつは巨大な怪物の姿になった。


「空を覆い尽くすようなコウモリの翼を生やしててね……。バカでかい目が一つだけ……。目玉から炎やら氷やら光やらを放って、あっという間に国を滅ぼしてしまったのさ。今思い出しても恐ろしい……」


「ああ、間違いなく魔将だ。すっごいのが来たなあ……」


「ウーサーがこの間やっつけたやつの仲間でしょ?」


「だと思う」


 俺とミスティが、やっつけたみたいな話をしているので、おばちゃんと周囲の人々が驚いた。


「えっ!? あの怪物を!? やっつける!?」


「ああ。俺、そういうのができるようになったみたいだ。その魔将、どこに行ったかわかる?」


 俺が魔将を倒せるということを、みんな理解はできなかったようだった。

 だけど、すがるような目をしながら、彼らは一斉に一箇所を指さした。


 そこは瓦礫の奥。

 かつて王宮があった場所だ。


 エムズ王国の王宮、そう言えば見たこともなかったなあ……。

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