7・魔王が来たりて編
第67話 海水浴なのだ
北方。
どんどん暑くなってきて、もうずっと夏なんじゃないかという気温だ。
空はかんかんに照っていて、雲ひとつ無い。
「もう、泳ぐしかない!」
『こんなこともあろうかと、わたくしたち、バイキングの皆さんに水着を作ってもらっているんですよね』
「な、なんだってー!!」
とんでもないカミングアウトだ。
エグゾシーが『遊んでいる場合かぁ』と呆れる。
空には真っ赤な星。
あれは少しずつ大きくなっていて、恐らくは魔王星であろうとエグゾシーが言う。
つまり、魔王との対決は近い。
だけどここで遊んでしまおうというわけだ。
「ウーサー、よく考えてみて」
むむっ、ミスティとの距離が近い!
今まで割りと離れてることが多かったから、久しぶりのこの距離は新鮮だ。
ドキドキする。
「魔王が来ちゃったら泳げないでしょ」
「それはまあ、確かに」
「だったら今、海で遊ぶしかないじゃない」
「そうかなあ」
「そうだよ!」
押し切られてしまった。
何故か俺の水着まで用意されている。
なんでだー。
『仕方ない。十頭蛇の仕事は簡単には逃げぬからな。遊んでくるがいい』
諦めたようにエグゾシーが言うのだった。
ということで、どこまでも続く真っ青な海。
きらきら輝く黄金の砂浜。
晴れ渡る空。
空の一点に染みのように浮かぶ魔王星!
絶好の海水浴日和だ。
いいのかなあ!
そんな俺の疑問は、一瞬で消し飛んだ。
「じゃじゃーん!」
ミスティが姿を現したら、俺は彼女に目を奪われて何も考えられなくなったからだ。
白地に可愛い色とりどりの花がらがついた布が、胸元と腰回りだけに申し訳程度に巻かれている。
えっ、ほとんど裸じゃない?
っていうか裸よりもドキドキする気がする。
「どうかな? 似合うかな? こっちの世界で、こんな本格的な水着があるなんて思ってなかったんだよね! バイキングの人たち、イースマスとやり取りしてて、向こうから水着を作る技術を学んだんだって。各国の富裕層に結構売れてるらしいよ」
そんな商売してたんだ……。
だけど、確かにこれは売れる。
ミスティが見たことのない種類の魅力を放っているのだ。
うわーっ、前かがみになるー。
そんな俺を、ミスティはぐっと無理やり立たせた。
「ふっふっふ、あたしで元気になってくれるのはすっごく嬉しい……!」
真っ白な彼女の肩がすぐ近くに……!
と思ったら、ミスティの後ろに影が差した。
『日焼け止めを塗らないといけませんよ』
「ひゃあーっつめたぁい!」
飛び跳ねるミスティ。
彼女の全身に、ニトリアがペタペタと透明なオイルみたいなのを塗っている。
日焼け止め?
『蛇の抜け殻から抽出したものが、副次的に日焼けを抑える効果があることがわかったんです。わたくしも愛用していますよ。あ、ウーサーくん、どうですかわたくし』
「うっ!」
ニトリアの水着は、ワンピースもの。
だけど、胸元に深く切れ込みがあって、豊かな谷間がバッチリ見えてしまっている。
それに脇腹もむき出しになってて、これ着ている意味があるの……!? みたいな水着だったのだ。
俺に密着するミスティ、さらに奥にはニトリア!
俺に逃げ場なし!
『後ろに行けば良かろうが』
エグゾシーが冷静に突っ込んだ。
こうして、三人で泳いだり、水を掛け合ったり、砂で何かを作ったりして遊ぶのだ。
ちょっと慣れてきたけど、油断するとすぐに女子たちのあらわな肌が視界に入ってきて、俺はすぐ元気になってしまう。
ど、どうしたらいいんだー!
『わたくしはいつでもいいのですけれど? すぐにウーサーくんを満足させてあげますよ。あ、わたくし、逆転はさせない主義ですので』
何の話だろう!
だけど妙に魅力的な提案に聞こえて、俺はニトリアの誘惑にふらふらと乗りそうに……。
「だーめ!! ウーサーはあたしのだからね!」
『ですけどミスティ。いつまでもあなたはウーサーくんと進展しませんし、これは生殺しではありませんか? ちゃんとするべきことはしないといけません! わたくしが教えて差し上げようとそういうわけで。ああ、ミスティも見学してていいですよ?』
「だ、だ、誰がウーサーをあげるもんですか! あたしの! ウーサーはあたしのったら、あたしのものなの!」
思いっきり引っ張られたら、踏ん張りが効かなくなっていた俺は見事に倒れ込んでしまった。
「うわー」
「あきゃー」
ミスティともつれてしまう。
二人とも砂まみれになって、俺の上に彼女が乗っかるような姿勢になった。
あっ、体重が掛かって……ううっ!
「うっ」
「……な、なんかお尻の辺りが生暖かく……」
『あーっ、ウーサーくんが賢者になってしまいました。残念……』
俺は泣きたいよ……!
こうして、海水浴を一日楽しんだ俺たち。
なんとなく、ミスティとの距離感が変わった気がする。
「ウーサーはさ、その。したい?」
「よく分からないけど、なんか最近、すごくむらむらっとする」
「だよねえ、男の子だもんねえ……。そっち方面あまり教わってこなかった系だもんねえ……」
うーむむむむ、と唸るミスティなのだった。
何を考えているのだろう。
こんな時、こっち方面に詳しそうな技巧神イサルデでもいれば、色々教えてくれると思うんだけど……。
今同行している仲間に、頼りになる男はいないんだよなあ。
エグゾシーは骨だし。
『なんじゃ?』
「なんでもないよ」
悶々としつつ、船は再び動き出す。
今度こそ、北方の戦場へ。
どうやらそこでは、漁場を巡って争いが起こっているらしいのだ。
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