第62話 氷の本物魔剣

「ここだ。俺たちが中継地点にしている島なんだが、火山が噴火してな。マグマが流れて島がでかくなってる。それだけならいいんだが、船を停められる天然の港がこのままじゃ無くなっちまう」


「なるほど」


 俺とミスティが連れてこられたのは、バイキングの島から少し離れたところだった。

 倉庫みたいなものが立ち並んでいて、略奪した品や交易品をここに置いてあったらしい。


「元の島は、俺らの家と畑しかない。それでスペースがいっぱいいっぱいだ。この島を失うわけにはいかねえ。どうだ? お前の力でなんとかできるか?」


 バイキング王は、試すように俺を見た。

 あまり期待してない顔ではある。

 それは当然だ。

 噴火を止められる人間なんか、普通はいるわけがない。


「いけるかもしれない」


 だが、俺はなんか、普通じゃなくなっている。


「ほ、本当か!?」


 バイキング王が目を剥く。

 周りにいるバイキングたちも、驚きで「オオー」とかどよめいていた。


「いけるいける! まあみんな。ウーサーの凄いとこ見てて! あ、山頂まで行く? 運んでってあげる。精霊魔法鍛えたんだー」


 ミスティは気軽な様子だ。

 というか、いつの間に精霊魔法を強くしてたんだろう……?


 さて、俺たちが行く先は噴煙を上げる火口。

 とは言っても、高い山があるわけじゃない。

 なだらかな丘みたいな作りをしている火山だ。


 島自体は結構広い。

 で、多分俺たちがいる天然の港みたいな場所も、火山の裾野なんだと思う。


 ここをひたすら歩いていけば、火口に到着する。

 すぐ近くを、サラサラしたマグマが流れて行っている。

 これが海に落ちると冷えて固まり、島の一部になるわけだ。


 いつかはこの島は、もっともっと広くなるかもしれない。

 だけどそれは今じゃない。

 今やられたら、バイキングたちが困る。


「ちょっとお金が必要になるんだけど。何か持ってっていいものある?」


「金……? 金なんかどうして火山で使うんだ? まあいいけどよ。こっちの倉庫に積み上がってるのは、海の底から拾い上げた武器や防具だ。錆びちまってこのままだと使い物にならねえから、手入れしないといけねえところだ。数が多くてなあ……」


 確かに、バイキング王が示してくれた倉庫には、ぎゅうぎゅうに武器や防具が詰め込まれていた。

 かなり古い時代のものらしい。

 武器? 防具?

 見方によっては、防具から手足や頭が生えているように見えるんだが……。


「まあいいや。じゃあ借ります! 両替!」


 俺が宣言すると、眼の前にあった装備の山が一瞬で変化した。

 それよりも遥かに小さな、金貨の小山に。

 これをさらに、魔法の針へと変える。


「はいはい。じゃああたしが持っとくね」


 この光景を見たバイキングたちが、言葉を失ってポカーンとしていた。

 ミスティが、俺にひそひそ話しかけてくる。


「ねえウーサー、みんなびっくりしてるね! もっと驚かせて、ウーサーが凄いってところ見せちゃおう」


 彼女、俺が褒められると嬉しいらしい。

 よし、頑張るぞ!

 俺は頷くと、ミスティに手を差し出した。


「頼む!」


「うん!」


 ミスティが風の精霊を纏った。

 彼女の体がふわっと浮き上がる。

 俺も一緒に、空に舞い上がった。


 バイキングたちは、まだポカーンとしている。


「みんなーっ! これからマグマを凍らせるから! 危ないから、海に逃げててくれー!!」


 俺が大声で忠告する。

 すると、彼らはハッと我に返った。

 海、と言う言葉で現実に戻ったらしい。


 大慌てで船に乗り込み、陸から離れていく。


「よし!」


 誰も島に残っていないことを確認して、俺は力を使った。


「両替……! 氷の魔剣!」


 俺たちが持つ、全ての魔法の針が飛び出してきた。

 それが白銀に輝きながら、一つになる。

 俺の手の中に、ずっしりとした重みが掛かった。


『魔剣グラム。まさかこのような異世界に召喚されようとはな』


「喋った!」


「やっぱり本物の魔剣って喋るんだねえ!」


 俺たちがキャッキャしていたら、魔剣グラムがぼそりと言った。


『用がなければ帰るぞ』


「あ、ごめんごめん! 頼みがあるんだ! 下にある火山を止めたい!」


『良かろう。振るうがいい』


 グラムの言葉は簡潔だった。

 俺に、彼を振ることを許可するもの。


 だから俺は思い切り振りかぶり、グラムを島に向けて一閃した。


「凍れ! 火山!!」


 白銀の斬撃が生まれ、大地に炸裂する。

 ドロドロと流れていたマグマは、一瞬にして凍りついた。

 青黒い塊になって停止する。


 凍結が遡っていき、火口に達した。

 際限なくマグマを生み出していた火口は、その噴煙をどんどん減らしていき……。

 やがて、凍りついて火口を閉ざした。


 噴火は止まったみたいだ。


『ではさらばだ。また呼ぶがいい』


 それだけ告げて、魔剣グラムは去っていった。

 魔法の針が、革袋の中に戻っていく。


「やべえ」


「本物魔剣、凄いのばっかりだねえ……」


 あと三本控えているんだ。

 それぞれ両替して行く必要もあるかも……。

 

 どれもが意志を持っているなら、両替して挨拶しておかないと。


 下の方では、バイキングたちがわあわあと騒いでいた。

 船がすごい速度で戻ってきて、彼らがわーっと降りてくる。


 そして、凍りついたマグマの上に登り、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。


「うわーっ! さっきまでドロドロのマグマだったのに、よくやるねえあれ!」


「命知らずなんだなあ……。そこがバイキングの強みなのかも」


 半分凍結した火山の島。

 この氷は、しばらく……多分、何百年かは解けそうになかった。

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