第61話 一仕事

 バイキングの船を引き連れて、アンデッド船が入港する。

 辺りは大騒ぎになった。

 血気盛んな人たちは武器を持って飛び出してきて、年寄は絶望してへたり込む。


 中には泣き叫ぶ者や、この世の終わりだと神頼みを始める人たちまでいた。


「待て待て! 俺たち、別にここに悪さしに来たわけじゃないから!!」


 舳先に飛び出した俺が、ミスティと二人で両手を振った。


「みんな待ってー!! これ、船の見た目が怖いだけで全然怖くないから! 安心してー!!」


 俺と彼女が、一番他人の警戒を誘わない見た目をしてるからな。

 ニトリアが出てきたら、開戦の合図だろう。


 なので、彼女には甲板に寝そべっておいてもらった。


 アンデッド船から、ごく普通の少年少女が出てきたので、バイキングたちは拍子抜けしたようだった。


「な、なんだお前ら! それに、うちの船をぞろぞろ引き連れて……。まさか、仲間たちをアンデッドにしたんじゃないだろうな!?」


「違う違う! 攻撃してくるから、ちょっと大人しくしてもらっただけだってば。誰も死んでないし、怪我もしてないから!」


 すぐにバイキングたちが小舟を出して、帆船に乗り込んでいった。

 そして仲間の無事を確認したらしい。


「ほんとだ……。みんな怪我もしてないな。白昼夢でも見てるような顔してやがる」


「おら、目覚めろ!」


「ウグワー!」


 殴られて、バイキングの一人が正気に返ったようだった。


「うおーっ! 骨の船! 骨の船がそこに……って、なんで港に帰ってきてるんだ……?」


 バイキングの人は、俺たちが骨の船から手を振っているのを見て、きょとんとした。


「えっ……。先導されてる……?」


「お前、あいつらに操られてたんだよ」


「えっ、こわ……」


「なのに無事に届けてくれたんだが」


「圧倒的な実力差を示すデモンストレーションじゃん……」


 バイキングの人たちが大人しくなった。


『実力主義の社会じゃからのう。中途半端な慈悲は奴らのメンツを潰すから、むしろ好戦的になる。だがこれほど禍々しい見た目のアンデッド船を駆り、バイキングの一部隊を完全に無力化した上で、誰一人として怪我すらさせずに全員連れ帰ったとなると……』


『わたくしたちを圧倒的な格上だと捉えますね。確かにその通りなんですけど。ウーサーくん一人で、バイキング全員を相手取って圧勝できますし』


「そ、そこまでかなあ」


 なんか自覚はないんだけど。

 上陸したかったけど、ちょっと待っててと懇願された。

 差し出される、バイキングの料理とか果物をつまみながら待っていたら、向こうから馬に乗った大柄なおじさんがやって来る。


「アンデッド船に乗って押しかけてきたというのはお前らか! 何者だ!」


 彼は角の付いた兜に、大きな紋章の付いた木製の盾を手にしていた。


『バイキング王じゃな』


「王様が直々に来たんだ」


『小さな国じゃからな。王が直々に戦士たちを統率しておる。そもそも、最強の戦士でなければ王になれぬそうじゃ。なんとも原始的だのう』


 エグゾシーがため息をつき、俺の頭上にぴょんと飛び乗った。


『ほれ、話をしに行くぞ。わしの話など人間は聞くまい。お前の出番じゃぞウーサー』


「俺!?」


 確かに、他にいるのはミスティとニトリアだもんな。

 しゃあない、やるか! と決意を固めて、俺はアンデッド船から陸に上がった。


 バイキングたちが緊張し、武器を構える。


「俺は戦う気ないんですけど、一応こういうことができるってのだけ見せておきます。両替!」


 俺が宣言すると、周囲にあった全ての武器と防具が、銀貨と銅貨に変わった。

 じゃらじゃらと硬貨が地面に落ちる音がする。


 バイキングたちはポカーンとした後、すぐにパニック状態になった。

 一瞬で全員が無力化されたんだから、仕方ない。


 俺はすぐに、武器と防具を元通りにしてあげた。

 どの装備も、値段が大体分かるもので良かった。


「ということで、俺はこう言う事ができます。で、なんでここに来たかって言うと、もうすぐ魔王が来るそうなんで」


「ちょっと待て! 待て! いきなり色々な事が起こりすぎて、何も判断ができん!!」


 バイキング王が叫んだ。

 兜の下は、つるっとはげた頭だった。


「魔王? 今魔王と言ったか! 確かに我が国にも、その名は言い伝えられている。それが現れたなら、誰もが争いを止めて一丸とならねばならんとな。お前はそれを我が国に伝えに来たのか!」


「あ、はい。後、なんかあちこちの国を見て回った方がいいって言われてて」


「……誰に?」


「ウーナギに」


「あー……。十頭蛇のあいつか。なるほど、完全に理解した」


 バイキング王の表情が柔らかくなった。

 ウーナギ、顔が広いなあ。


「あいつが来ても信用ならんから、俺たちは協力しないだろうしなあ……」


「なるほど、だから俺を……」


「そういうことだ。だが、まだお前を信用したわけじゃない。もっとお前の力を見せて、俺たちバイキングの手助けをして信用を勝ち取ってもらおうじゃないか」


「あ、そうなりますか」


「なるな。世の中はそんなもんだ」


 なるほど、簡単にはいかない。

 だけど、ウーナギの名前が一応はコネの役割を果たしてくれたようなのだった。


 仕方ない、バイキングの国でひと働きだ。

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