第63話 バイキングのちょっといいとこ

「ありがてえ。これで島は守られた。俺らのお宝も安泰ってわけだな! がはははは!」


 バイキング王が豪快に笑いながら、俺の肩をバンバン叩いた。

 前の俺だったらよろけてただろうけど、今の俺は割りとちゃんと受け止められている。


 おお、我ながら成長してるかもしれない。


「それは良かったです! じゃあ、魔王が来たら俺に力を貸してください!」


「おう、引き受けたぜ。だが、このままじゃ、俺たちの方が申し訳ない気分になる」


 どういうことだろう?


「してもらいっぱなしで、俺らバイキングの凄さを全然見せてねえだろう? ちょうど、北にある四つめの領海にタコの化け物が出たそうだ。俺たちの狩りを見て言ってくれや」


 そういうことになったのだった。

 すぐに準備は進み、俺たちはバイキングの大きな船に乗せられている。


「確かに、この人たちが何ができるのか見てなかったもんねえ。それとウーサー」


 ミスティが近づいてきた。

 ……あれ?


 前は彼女のほうがちょっと上に目線があったと思うんだけど。

 今は、少しだけ彼女のほうが低い。


「たくましくなってたんだね! うんうん、あたしは嬉しいなあ!」


 そう言いながら、ミスティが俺の方とか腕をパンパン叩いた。


「やっぱり! すごくガッチリしてきてる! 男の子って凄いねえ。あっという間に大きくなって、どんどん頼りがいがある感じになる!」


「そ、そうかな……! ありがとう!」


 ミスティと出会ってから、ひたすらに鍛えてきた気もするもんな。

 ヒョロヒョロだったスラムのガキが、割りとしっかりした体格になるくらいには色々あった。


『わたくしとしては、ウーサーくんは優男のままでもいいんですけど……。もったいない……儚い……』


「あんた余計なこと言わないでよ!」


 横から口を挟んできたニトリアが、ミスティに突っ込まれた。

 これを見て、エグゾシーは呆れている。


『しかしまあ、見事にバイキングどもの心を掴んだな。奴らは力こそ全て。力に優れたものを認める分かりやすい連中じゃ。それだけ、お前の力は強くなっているのだろう』


 彼はまたぴょんと飛び上がると、俺の肩の上に乗った。

 定位置になってきてないか?


 まさか、魔神をずっと肩に乗せる日々が来るとは……。


「出航するぞー!!」


 声が響いた。

 港で、打楽器が打ち鳴らされ、にぎやかに船が出る。


 バイキングの船は六隻。

 小舟は大きな船に搭載されている。


 これで、四つめの領海とやらに向かうのだ。

 バイキングは、海を幾つかの領海に区切って把握しているらしい。


 海戦を行う時、略奪をする時、漁をする時、それぞれの領海の性質をしっかりと知っていれば、危険は少なくなるんだそうだ。


 船は迷うこともなく、風を的確に捉えて領海へ突き進む。

 この操船技術は凄い。


『ふむ……。お前が船を生み出し、わしがアンデッドでこの操船技術を持ったスケルトンを作り出せば……海を自在に渡ることができるようになるな』


 エグゾシーが何か考えているようだ。

 確かにそうだけど、操船の技を学ぶのは大変そうじゃないだろうか。


『この船員どもの体の一部でもあれば可能になる。ちょっと手に入れてくるか』


「おいおいエグゾシー! 物騒なことはやめてくれ!」


 俺がそう言ったら、肩から飛び降りたミニサイズ魔神は心外そうに応じた。


『今船を動かしている人間を殺したら船の動きに問題が出るだろう。わしとてそれくらいは分かる。それに、味方になったものを敵にする必要もない。傭兵であれば自明の理論じゃぞ』


「じゃあどうするんだ?」


『なに、髪の毛や爪の先があれば良いのだ。仕事をしている連中を一通り見て回って、素材を回収してくるわい』


 エグゾシーは旅立ってしまった。

 タコの化け物狩りが終わったら戻ってくるかな?


 それにしても、自分の足で素材を集めに行くんだなあ。

 マメだ。


『十頭蛇の幹部は、元々個人でやってた傭兵ですからね。自分が動くのが一番効率がいいんですよ。ただ、リーダーは下を育てる意味で他の人にやらせるんですけど』


 ウーナギ、色々考えてるようだ。

 そんな話をしていたら、領海に到着だ。


 後部の船が前に出てきて、曳航していた何かを前に出した。

 それは……。

 沈没寸前のボロ船だ。


「あれはな、沈める前提で作った囮の船だ! 老朽化したやつに、浮かんでいられる最小限だけの構造を残してな。こういう化け物狩りに使う」


 バイキング王が説明してくれた。

 そして、確かに化け物は囮に食いつく。


 水中から触手が出現して、囮の船に絡みついた。

 青くて太い。

 一本一本が、マストと同じくらいのサイズがありそうだ。


 あんな物に絡まれたらひとたまりもない!


「よし、出てきたな! 行くぞ野郎ども!! 銅鑼を鳴らせ! 狩りの始まりだ!」


 バイキング王が宣言すると、船中がウワーッと盛り上がった。

 どこからか銅鑼が出てきて、ジャーンジャーンジャーン!と打ち鳴らされる。


「ひえー!! うっさーい!!」


 ミスティが悲鳴を上げる。

 だが、これは周囲の海域に響き渡ったようだ。

 他の船からも、呼応して銅鑼が打ち鳴らされる。


 化け物タコにも聞こえたらしく、そいつの動きが止まった。

 囮の船から触手が離れて、一旦水没しようとする。

 だが、既に周囲をバイキング船が取り囲んでいた。


 水中に何かがばらまかれる。


「毒だ。すぐに水で薄まっちまうが、今この瞬間は大層効くだろうよ」


 バイキング王がニヤリと笑う。

 化け物タコが慌てて浮上してきた。


 触手のあちこちに、黒い毒が付着している。

 そいつは触手を伸ばし、バイキング船の一つに掴みかかる……!


 そこへ、それぞれの船の巨大な弩弓が設置され、一斉に攻撃を始めた。


「撃てー! 撃ちまくれ!!」


 突き刺さった矢にはロープが張られており、船に繋がっている。

 六方向からタコを固定するわけだ。


 続いて射掛けるのは、燃え上がる矢だ。

 これを次々タコ目掛けて放つ。

 油とともに燃えているから、水に触れても簡単には消えない。

 タコが沈み込もうとしても、船が引っ張り上げているから水中には逃げられない。


 なるほど、完璧なコンビネーションだ。

 これがバイキングの戦い方かあ。


「魔王が来るってんなら、絶対にデカブツも来るだろ。海に来たならこうやって仕留めてやる! 見てろ、とどめを刺すからな!」


 俺たちが乗った船の舳先が、ガラガラと音を立てて形が変わる。

 怪物のようなヘッドがついていたのが、無骨な太い槍になったのだ。


「とつげーき!!」


 バイキング王が叫んだ。

 船が進撃を開始する。


 顔を出したタコ目掛けて、船そのものが巨大な槍になり、突き進むのだ。


『~~~~~~~~~~っ!!』


 タコは声にならない叫びをあげた。

 その眉間に、刃が突き刺さり、貫いて抜けた。


 タコが真っ二つになる。


 なるほど……!

 バイキングたち、凄い強さだ!


「どうだ? 俺らもなかなかやるだろう!」


 バイキング王は得意げに笑うのだった。


「まるで友達に自慢してるみたい。男って幾つになっても子どもねー」


 ミスティがなんだか、知ったふうな事を言って頷いているのだった。

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