第58話 本物魔剣レーヴァテイン

『よーし、行け行け行け行け行け』


 エグゾシーが俺の肩の上で号令をかける。

 アイススケルトンたちは、ワーッとフローズンアイ目掛けて飛びかかっていった。


 これを迎え撃つフローズンアイ。

 氷の中から、ピカッと光が現れて、それが光線になってアイススケルトンを撃つ。


『凍結光線じゃな。馬鹿が。こちらはそれを読んで氷で下僕を作っているわい』


 アイススケルトンに通用しない。

 フローズンアイは慌てて、体当たりでアイススケルトンと戦い始めた。

 原始的な戦いだ!


『ほれウーサー! ぼーっと見ているのではない。わしを倒した時もだが、お前はどうにもスロースターターなところがあるな』


「あ、そうかも。よし、じゃあやってみる! 両替行くぞーっ!!」


「やっちゃえウーサー!」


 後ろで、ミスティがぴょんぴょん飛び跳ねて応援してくれているのが分かる。

 やる気がもりもりわいてくるぞ!


『やってくださいウーサーくん!』


 あっ、後ろでニトリアがねっとりした視線を投げながら応援している……!

 いや、やる気にはなるけどさ。


 とにかく!

 地面に散らばった魔法の針の山。


 ここから、魔剣を両替する。

 カトーが作った最上位の炎の魔剣だ。


「出てこい、炎の魔剣+5……!」


『なんとも盛り上がらん名前だなあ……』


「勝手に名付けるのもちょっと……」


『では、わしが知る炎の魔剣の名を伝えてやる。レーヴァテインと呼ぶがいい』


「かっこいい響き! それ、いただくよ! 出てこい、レーヴァテイン!」


 俺の叫びに応えて、魔法の針の山が盛り上がる。

 それは真っ赤に輝くと、集結し、一つの魔剣の形を取った。


 白金貨10枚の価値?

 とんでもない。


 その数倍の金額に値する魔法の針がそこにはあった。

 それが全部、無くなっている。


 何もかも、生まれ落ちた炎の魔剣に吸収された。


 赤く、めらめらと炎を上げる剣がそこにあった。

 俺は恐る恐る、それを手に取る。


「ウーサー大丈夫? 熱くない?」


「熱くない……」


『真の魔剣は持ち主を選ぶ。そして持ち主を傷つけることはないわい。……おかしいな。あの魔剣鍛冶の里にあったのは、最高級のものも含めて全てまがい物の魔剣だというのがリーダーの調べじゃったが』


「えっ、どういうこと!?」


『話は後じゃ! フローズンアイが来るぞ! アイススケルトンごとやってしまえ!』


「お、おう!!」


 アイススケルトンよりも、フローズンアイのほうがずっと数が多い。

 氷原を埋め尽くすほど出現したそいつらが、一斉に俺へ向かってきた。


 俺を抜かれたら、ミスティが危険な目に遭う。

 それだけは防ぐ!


「行くぞレーヴァテイン! おりゃああああああっ!!」


 俺は闇雲に、炎の魔剣を振り回した。

 すると……。


 赤い炎が吹き上がり、どこまでもどこまでも伸びていく。

 炎は氷原の隅から隅までを、俺のスイングに合わせて薙ぎ払った。


『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』


 聞こえるだけでも数十の断末魔が起こり、フローズンアイが炎に溶かされて消滅していく。


『あのへっぴり腰でこれほどの威力か! こりゃあ、本物じゃなあ……。恒星の熱量を一本の剣に鍛え上げたと言われる灼熱魔剣レーヴァテイン。本物を両替してしまったようじゃのう』


「ど、どういうこと?」


 俺は正直、とんでもない威力を目の当たりにして腰を抜かしかかっている。

 こんなの、この間までスラムでちまちま小銭稼いでたガキが振り回していいものじゃないだろ!


『お前の力の真の意味ということじゃろうな! 金を媒介にして、物品のコピーを行う……そういう能力だと思っておったが。対象がコピーであった場合、十分なコストが存在すれば本物を呼び出すんじゃな』


 俺の手の中のレーヴァテインが、仕事を終えた様子で消えていく。


『ほな、また……』


「なんか喋ったんだけど!?」


『そりゃあ宇宙に一振りしかない本物の魔剣の一つじゃ。喋るくらいするじゃろう』


 足元に、ざらざらと魔法の針が落ちる。

 俺はもう一度、炎の魔剣を作ろうとしてみた。

 だけど、上手くは行かなかった。


「なんでだろう?」


『本物魔剣は、現れるべき場所を己で選ぶということじゃな。お前はそれっぽい時が来たら、本物魔剣を呼ぶつもりで力を使ってみるといい』


 エグゾシーのアドバイス、的確なような、適当なような……。


「うわーっ! 氷が全部解けちゃった!!」


 ミスティが歓声を上げて走ってきた。

 俺を追い越して駆け回るのは……。

 さっきまで氷原だった場所。


 そこは、真っ黒な土がむき出しになっていて、見渡す限り、氷の姿なんか無かった。

 明らかに暖かくなってるし。


「本物の魔剣って、気候まで変えちゃうのか……。とんでもないな……!」


 これは、気軽に使ってはいけない力な気がする。

 しかもあと四本、呼び出せそうな魔剣があるんだよな?


 カトーが作った最強の魔剣が全部レプリカなら、それがモデルにした本物があるはずだ。


 五本の本物の魔剣。

 とんでもなく危険な代物だ。

 確かに、ここまで鍛えてきた俺でなければ扱えなかったんじゃないだろうか。

 いや、今も振り回されてる気がするんだけど。

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