第57話 いよいよ魔剣のおでまし
イースマスを出て少し行くと、また周囲がシクスゼクス独特の、森や湿原に覆われた薄暗い感じになってくる。
浜辺付近はオクタゴンの領域なので、ここを意識して走るようにした。
海に住む魔族は、オクタゴンと協定を結んでいるので、比較的友好的らしい。
俺たちも途中で、下半身が魚の女の人や、全身に鱗がある人たちと食べ物の交換を行ったりした。
『えっ、魔弾将軍の妹さん? へえ……随分お姉さんより大きいんだねえ……』
ニトリアが魚人間みたいな人とお喋りしている。
魔弾将軍……?
『わたくしの姉ですね。シクスゼクスの前線を預かる将軍の一人です。スキル能力者で、自分が発射したものや投擲したものの軌道と速度を自由に操ることができるんです』
「どこかでそういう能力を持った相手と会ったような……」
世界は狭い。
『えっ、魔神なのかい? そんなちっちゃいのに!? はあー、そりゃあありがたいことだ。拝んでいいかい』
今度はエグゾシーが拝まれている。
どうやら魔神は、シクスゼクスだと信仰の対象みたいだ。
彼らが信じている魔神とは違っても、一応拝んでご利益を得ようとするのはタダ、ということらしい。
『わし、拝まれるのは変な気分だな』
エグゾシーは骨蛇の顔をしかめると、俺の背中側に隠れてしまった。
「ちっちゃくなってからちょっと可愛いよねー。あたしにエグゾシー貸して!」
『こりゃやめんか。うわー』
エグゾシーがミスティに摘まれて、ぶらーんと垂れ下がる。
これを見て、魔族たちもわっはっは、と笑った。
なんだか普通の人たちだなあ。
『かつては我ら魔族は人族と激しく争っていたのだが、魔法帝国時代になってから我らは人族に追いやられて絶滅しかけ、シクスゼクス帝国に入り込んで命脈を保ったのだ』
おごそかに、魚人間の人が説明してくれる。
『それで、帝国は滅びてな。バラバラな時代になった。なぜか帝国が滅びる時、我ら魔族は特に何もされなくてな。勢力を保ったままでここまで来た。途中で魔王がやって来て、我らを支配しようとしたので、慌てて人間と同盟を結んでガンガンに魔王とやり合ったのだ。それ以来、表向きは戦争みたいなことをしているが、大戦争を起こそうという者はいないな』
そういうことだったか。
あちこちで悪さをする魔族は、あちこちで悪さをする人間の悪党くらいの出現頻度らしい。
肉体的には人間より優れている魔族だけど、それは平均の話。
スキル能力や魔法、鍛え方でそんなものは容易にひっくり返る。
だから魔族側も人間を見下したりせず、どうにか対等に付き合っているということだった。
この世界は平和だったんだなあ……。
『こういう平和が漫然と続くと、中身から腐っていくのだ。わしら十頭蛇はそれをちょっと揺らがせるために、金次第でどちらにでもつき、諍いを小戦争くらいまで発展させる』
「おお、そういう存在理由があったんだ! される側は迷惑だけど」
『リーダーの考えだからな。リーダーは、己を倒したマナビ王からこの考えを受け継いでいるそうだ』
エグゾシーと話すたびに新しいことが分かる。
流石は長生きしている魔神だ。
こうして海の魔族たちと別れ、また旅を続ける。
何度か野宿して、夜中に目覚めたらニトリアがすぐ近くにいたり、それをミスティが追い払ったりという日々を送り……。
シクスゼクスの国境を越えたあたりで、急に寒くなった。
少し向こうの平原が、真っ白に染まっている。
凍土の大地に到着したのだ。
「寒……!!」
「やっぱ途中で防寒具交換してもらって来て良かったねえ!」
ミスティが荷馬車から、もこもこした服を取り出す。
本来は人狼用だそうで、フードに耳を入れるトンガリが付いていた。
俺とミスティでこれを着込み、ニトリアはローブみたいなものを纏う。
『わしは寒さを感じぬから問題ない』
エグゾシーはそのままだ。
だが、ミスティが彼の頭に、ちっちゃいもこもこ三角帽子をちょこんと被せた。
帽子が真っ赤なのでとても目立つ。
『こりゃ、やめろ! なんじゃこれは』
「可愛いじゃん! 周りが真っ白でしょ? エグゾシー落っこちたら見つからなくなるじゃん。それ被ってるといいよ!」
『むう、なるほどな。一理あるわい』
あ、説得された。
エグゾシーはぴょんとジャンプして、ニトリアの頭の上に移動した。
この中で一番高いところだ。
そこからさらににゅーっと伸び上がって周囲を見回す。
『おうおう、早速お出迎えじゃな。ウーサー、ここで存分にスキルを訓練していけ。わしも少しは手を貸そう』
エグゾシーの言う通り、全身が氷に覆われた、トゲトゲの球体みたいなのがあちこちに浮かび上がる。
そいつらは氷の中にある巨大な目玉をギョロつかせ、俺たちを発見するや否や、
『ヴォオオオオオオオ!!』
そう叫びながら一斉に襲いかかってきた!
「見たこと無いモンスターだ! なんだあれ!」
『氷の魔将の眷属、フローズンアイじゃ!』
『わたくしの技は通じなさそうなので見学していますね……』
ニトリアが馬車の中に戻っていった。
エグゾシーは彼女の頭からジャンプして、俺の肩に飛び乗る。
『よーし、やるか。いでよ、アンデッド! アイススケルトン!』
エグゾシーが呼ぶと、俺の周囲にある凍った大地が動いた。
……と思ったら、氷でできた骨人間が次々に立ち上がる。
いつの間にか、氷人間の頭の中には、小さなエグゾシーみたいなのが住み着いている。
『こいつらは巻き込んでも構わん。これを盾にして、お前の力を試すんじゃ』
「うす! 協力感謝!」
俺は全身あちこちに装備した革袋から、氷の針を掴みだす。
使うのは……炎の魔剣!
いよいよ、最強の魔剣の出番なのだ。
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