第59話 海へと漕ぎ出す
その後、氷原を巨人みたいなモンスターが走ってきた。
炎の魔剣で焼き焦がされた大地を踏んで、
『あっつっ!? なにこれ!? 引くんだけど!!』
と驚いて、慌てて駆け去っていった。
なんだあれ。
『ウェンディゴだ。魔将の影じゃな。レーヴァテインには勝てないと思って逃げたんじゃろう』
「現実的だなあ……」
『二百年もこの世界に居着いていると、自由意志を持っているじゃろうからなー』
あれは無視していいっぽい。
真っ黒な大地になった氷原を歩きまわり、適当なところでキャンプすることにした。
『凍土の大地ではこんなものですね』
『うむ。炎の魔剣をどれだけ呼び出せるかは知らんが、これがやれるなら凍土で学ぶことは何もないじゃろ。次は……』
『海ですね』
「海!? イースマスみたいにどんよりしてない、暖かくて空がカラッと晴れてる海!?」
急にミスティが元気になった。
「なんでそんなにテンションが上がってるの!?」
「だってウーサー。あたしねー、こっちに来てから泳いでないんだよねえ。あたしって泳ぐの大好きだから、海があったら泳ぎたいなーって」
「そうなんだ……」
「……そうだ。ウーサー、水着を両替して!」
「……水着?」
ミスティが何やら察した顔をした。
そしてすぐに鼻息を荒くする。
「これは、あたしがウーサーに水着というものを教えてあげないといけないねえ!」
なんでそんな使命感に燃えているんだ。
だがこれを聞いて、ニトリアまでもが『むむうっ、恐ろしい娘!』と唸った。
なんだなんだ?
エグゾシーは興味を無くして、荷馬車に潜り込んでしまった。
俺を一人きりに。
「なのでニトリア、海沿いのルートでそれっぽいのを……」
『ふむ、ライバルのあなたですけれど、その恐るべき策略は瞠目すべき才能です。協力しましょう。ただ、イースマス以外では水着をつける習慣が薄いので』
「えっ、セブンセンスとかヌードで泳いでるの!?」
『殿方はヌードですね。女性は布を巻いていますが、布ですから』
「透け透けじゃない。それは刺激が強すぎる……」
良からぬ相談をしてる。
『問題が起きている場所だと、ここですね。バイキングたちが集まっている場所です。セブンセンスともよく争っているようですが、これは彼らが略奪で生計を立てているためですね。戦神教団と共闘し、小国と争ったりなども……』
込み入った国関係の話をしてる。
ええと?
バイキングという海賊の国があって、そこはセブンセンスと争ったり共闘したりしてて、周辺の小国とも争ってる?
そこに行くわけか。
つまり、次は海。
で、なんで海で、ミスティとニトリアのテンションが上がることが……?
俺には何もわからない。
結局、理解できないまま眠って、朝目覚めても何一つ分からなかった。
『ほう、東方に? 海を渡るか。良かろう。わしが船を作ってやる』
俺が船を覚えていなかったので、今回はエグゾシーにお願いすることになる。
海に続く大きな河までやって来て、そこでアンデッド船みたいなものが出現した。
『中空の骨を再現してな。これで水に浮かせるのじゃ。それ、乗り込むぞ』
「ぶるるー」
すっかりエグゾシーと仲良しになったロバのライズ。
頭の上に小さな骨蛇を乗せて、トコトコとアンデッド船に乗る。
俺も後を追って乗り込んだ。
踏み出すたびに、足元でパキパキ音がする。
骨の船だなあ……。
「見た目は怖いけど、なんか中は広いし乗り心地良さそうだねえ。……トイレとかどうするの?」
『重要な問題ですね』
女子たちに尋ねられたエグゾシーは、実にめんどくさそうに体をくねらせた。
『本当に、女は面倒じゃのう!! それ!』
メキメキと音を立てて、船を構成する骨の一部が盛り上がっていく。
そこは、小さな部屋のようになってしまった。
『穴があって水に繋がっておる。そこから出せ』
「デリカシーがなーい!」
『まあ、屋外ですからね。これでよしとしましょう。わたくしが使い方を教えますよ』
女子たちが行ってしまった。
エグゾシーは、何かぶつぶつ言っている。
そんな状況で、アンデッド船は出航なのだ。
うおお、揺れる揺れる。
俺、よく考えたら船に乗るの、生まれて初めてなんだった!
船はゆっくりと進んでいく……と思ったら、どんどんと加速を始めた。
俺がイメージする船って、帆が張られていて風を受けて進んでいくんだけど、この船は違うみたいだ。
『船の動力か? 船の底に足が生えておってな。それがバタバタと泳いでいるんじゃ』
「思ったよりも分かりやすい構造だった」
船底でバタバタやってるなら、それは揺れるわ。
あまり揺れ続けていると、気持ち悪くなったりしそうだが……。
俺もミスティも、ライズの馬車に揺られている事が多かったので耐性ができていたらしい。
全然平気だった。
船は途中、川べりにある村に立ち寄る。
アンデッド船が来ると、みんなパニック状態になって逃げるのだが、降りてきたのが俺とミスティだったので拍子抜けしたようだ。
魔法の針を換金して、これで食料を買ったりなどする。
「エグゾシー、もっと怖くない見た目にできないの?」
『わしがやるならこれが限界じゃな。お前がさっさと船を覚えて両替せよ』
「それもそうかあ」
説得されてしまった。
川べりの村で、小舟を幾つか触らせてもらい、構造を把握する。
大体の値段も聞いたし、これで両替できる。
船は案外安いんだなあ。
魔剣に慣れてきて、俺の中の価値基準がすっかりおかしくなってきているのだった。
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