第55話 魔王の予感
『運命を操る力が、俺様たちとお前らを繋げたということは、俺様の悩みを解決できるのがお前らだということなんだろう』
オクタゴンがニヤリと笑う。
『あの時もそうだったな。マナビはいきなりやって来て、この街の窮地を救った。運命というのは神の思惑すら超えた所にあるものだ』
何やら訳のわからないことを言う神様だ。
「それで、あの、オクタゴン様の悩みはなんですか」
『俺様の信者でもないんだし、様は付けなくていいぞ。悩みというのはな、一言で言えば魔王が近づいている』
魔王!
ウーナギが言ってたやつだ。
作り話でないことが今、はっきりした。
明らかに繋がりが薄そうなこの男、オクタゴン神が同じことを言っているもんな。
「ウーナギと同じこと言ってる!」
ミスティが口に出して指摘したら、オクタゴンが反応する。
『あいつか。勢いよくこの土地に降り立って、マナビを舐めて掛かったらそのまま攻略された魔王だな? なるほど、どうして倒さなかったのかと思ったら、あいつがお前らを導いたらしい。全て織り込み済みだったか』
ふ、ふ、ふ、と笑うオクタゴン。
輪郭がぶれて、もっと遥かに巨大で恐ろしいものの影が映る。
一瞬、室内がオクタゴンの影で満たされて真っ暗になって見えた。
『ひえー』
『ウグワー』
ニトリアとエグゾシーが震え上がる。
十頭蛇の二人が怯えるほど、眼の前の神様はとんでもないのだ。
『おっと、悪いな。思わず本体が漏れかかってしまった。運命を引き寄せる娘は平気そうだが、お前はきついだろう。だが、どうやらマナビが時を超えて仕掛けた伏線は、お前に結実するようだ』
オクタゴンが俺を見て言う。
なんのことだろう?
いや、察しの悪い俺でも分かる。
初代マナビ王という人が、魔王ウーナギを倒した。
だけど殺さず、どうやったのか魔王としての意識だけを破壊して、この世界の味方につけた。
で、ウーナギは俺とミスティと出会い、戦い方を教え、世界を旅するよう導いた。
全て、この後やってくる新しい魔王と戦うためだ。
その上、俺が切り札だって言う。
俺、そこまで凄いの……?
実感がわかない。
『じゃあ、これ』
オクタゴンが何か、眼の前に出してきた。
錆びついて、色々変なものがこびりついた短剣に見える。
「なんですかこれ」
『俺様を呼び出す短剣。残ってるのはこれ一本しかない。だが、ルサルカがこの一本さえあれば十分だって言うんだ』
オクタゴンの向かいに座っている、儚げな美少女がコクコク頷く。
そして俺ににっこりした。
うーん、可愛い人だ。
いや、神様なんだよな……。
彼女の言ってることは正しい。
「えっと、呼び出すってつまり、どういうことなんですか?」
『俺様はこの街を離れることができない。イースマスを守らねばならないからな。ここは俺様の能力で固定化した、いわば異世界だ。俺様がいなくなれば、たちまち瓦解してしまうだろう。再建にはまた、数百年という時が必要になる。それに、俺様の本来の姿を人間や魔族が見れば、たちまち狂気に陥る』
そういうことで、オクタゴンは街の外に出ることができないのだそうだ。
分身を作って行動することもできるが、ごく短時間だし、その力は限定的らしい。
『以前いたマナビという男は、そこを解決してくれたがな。だがあいつが特別だっただけの話だ。故に俺様は、魔王が降り立っても直接出向くことができない。世界を守れても、守るべきこの世界の住人を大量に殺してしまうし、守るべき俺様の街が無くなるからな』
「大変だ……。じゃあこの短剣は、オクタゴンを一時的に呼び出す道具なんですか」
『そういうことだな。使用されれば、その場所を短時間の間、イースマスに変える。そうなれば俺様が活動できるというわけだ。マナビの協力を得て何本か作ったが、これが最後の一本だ』
大切な品だ……!
俺は錆びた短剣を手にした。
ずっしりと重い。
ロバのライズに積んでおこう。
「それで、いくらくらいなんですか?」
俺が放った質問に、オクタゴンは目をパチパチさせた。
何を言われたか分からなかったらしい。
『幾ら? 値段をつけるのか? その発想は無かったな……。うむ、言うなれば……白金貨一枚くらいじゃないか? どこかの王がその金額で買い取っていったからな。そいつは海を干拓するために俺様の力を借りた』
白金貨一枚。
つまり、金貨百枚。
あれ? 確か俺、もうそれくらい両替できるよな……?
・スキル『両替』Ver2
※ランクアップしました。
・白金貨十枚までの対象を両替可能。
・視界内の価格が分かる物品を貨幣に、あるいはその場にあるものを自由に足し合わせた、割った価格の物品に両替可能。
・両替した貨幣と物品の引き寄せ。
・同意した対象の労力を貨幣へ両替可能。
・千回の使用で、Ver3へのロックが解除されます。
ら、ランクアップしてる!
しかも白金貨十枚ってことは……。
カトーのところで見せてもらった、最高峰の魔剣を作り出せるようになったってことだ。
ついにここまで来てしまったー!
だけど、この同意した対象の労力を貨幣へ両替……ってなんだ?
「おー! ウーサー強くなったね! だけど、お金が全然足りなくなったね」
「うん。足りない」
『また強くなりおったのか』
エグゾシーが呆れたように呟いた。
『素敵ですねえ。殿方は強いほうがいいですし、可愛いほうがいいですから……』
なんか、ニトリアからネットリした視線を感じる……!!
頼みのミスティは、ルサルカとのおしゃべりを始めていてこっちに気づかないな!
俺達を見て、オクタゴンがニヤニヤした。
『俺様のところにやってくる、運命を変える奴らはみんな変わり者だ。お前も同じようだな。名を教えろ。俺様の協力者として、その名を覚えておこう』
「あ、はい! ウーサーです!」
『ウーサー。その名をしかと刻んだぞ。こうして話している間にも、お前が強くなったのが分かる。世界を知り、己の世界を広げるほど強くなるタイプか。だったら、もっと旅をするがいい。今のイースマスには刺激はない。ここを出て、魔族の国を抜けろ』
「はい!」
俺は刺激を受けると強くなってくってことなのかな。
確かに、色々な人と会ったり、事件に遭遇したりしていると能力成長以外に自分が強くなっている気はする。
最高峰の魔剣も試してみたいし。
オクタゴンを呼ぶのは、もっと切羽詰まった時にしておきたいけど。
その後、運ばれてきたイースマス料理の数々は、めちゃくちゃ美味かった。
しかも、オクタゴンの奢りらしい。
いい神様だなあ……!
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