第54話 バーガーショップの神様
向かうは、都市国家イースマス。
ずっと古い時代から存在し、なんと邪神が直々に支配しているという国だ。
魔族の国、シクスゼクスの中にあるのに、何百年も存在しているんだからとんでもない。
この国を攻めようとか思わなかったのだろうか。
そしてその邪神というのは、性質が邪神と呼べるような凶悪なものなだけで、神様そのものは友好的らしい。
何しろ、海の神の旦那さんなんだから。
「へえ、スミスさんはイースマス出身だったんだねえ」
近づいてくる、変わった町並みを見ながら呟くミスティ。
魔剣鍛冶の里で仲良くなった、カエルみたいな姿の彼は、この都市国家からやって来たのだ。
「変わった見た目の国だ……。なんていうか……凄くカラフルだ」
城壁などはなく、どこからでもその国に入れるようだった。
一応、通路のあちこちには見張りらしき人が立っている。
見張りの人の外見が、カエルみたいだった。
スミスと同じ顔だ!
「こんにちは。入国していいですか」
『こんにちは。入国の目的は?』
『観光ですわよ』
ニトリアがしれっと答えた。
確かにそうかも知れない。
ウーナギいわく、俺たちは世界中を旅して色々なものを見聞きして、色々な人たちと交流すべきだってことだったもんな。
『はいはい、ちょっと待ってくださいね。邪心を感知します。……おや、魔族に魔神までいるのに邪心が無いですね、珍しい。どうぞ入国して下さい』
なんか、入国担当の人がもにゃもにゃと祈りの言葉を呟いたら、すぐに通してくれた。
魔法を使ったんだろうか。
『この国は神との距離が近いのだ。故に、すぐに神聖魔法は効果を発揮する。魔神であるわしすらあっという間に丸裸よ。まあ、わしはもう骨しか残ってないから元々裸だがな』
ふっはっは、と笑うエグゾシー。
今は手のひらサイズの骨の蛇なので、全然怖くない見た目だ。
ひとしきり笑うと、彼はまたニトリアの首あたりに絡まって大人しくなった。
こうして見てるとネックレスか何かみたいだな。
『注意ですよ。わたくしたち十頭蛇と言えど、神には手も足も出ません。中でもイースマスを支配する海の邪神オクタゴンは、肉体を得て現存している強大な神です。一説によると、最強のスキル能力者だとも言われていますね』
「神様が能力者なんだ!?」
「すごいー!」
俺とミスティでとても驚く。
能力って鍛えていくと、そこまでいけるのか!
イースマスについての説明をニトリアから聞きつつ、街中を歩き回る。
本当にカラフルな街だ。
基本は石造りの灰色の建物が多いのだけど、あちこちに赤や黄色や緑のひさしがある。
ひさしには、何種類かの文字で、
『バーガーショップ』『タコス!』『ピザ・イースマス』とか書かれていた。
壁にはめ込まれている、透明な板はなんだろう。
そこから屋内が見える。
「うわっ、この世界に来てから始めて、ガラス窓見たかも。神殿にはステンドグラスがあったけど、ここのはでっかい一枚ガラスじゃん!」
ミスティが興奮している。
「知ってるの?」
「うん! あたしの世界だと普通なんだけどね。こっちだとまだ、ああいう大きい一枚ガラス作れないと思うんだ。だけどここにはあるっていうことは、オクタゴンってやっぱりスキル能力者で、しかもあたしと同じ世界から来てるよ!」
「そ、そうなのかー!」
『これ以上ない証拠ですねー』
三人できゃっきゃとはしゃぎながら、とりあえず腹ごしらえをすることにした。
ミスティが適当に指さした、赤いひさしのお店へ。
イースマスバーガーと書いてある。
バーガーって、スミスが作ってくれたハンバーガーのことだろ?
絶対美味しい。楽しみすぎる。
ウキウキしながら店に入って、やっぱりカエルの顔をしている店員に注文をした。
詳しいのは分からないから、おすすめで。
『おすすめですと、チーズバーガーセットですね。席までお持ちします』
ミスティは先に、席を取っている。
その隣で、男女が話し込んでいた。
他に空いてる席はあるけど、誰かの隣がいいのかな。
「やっぱハンバーガーって、ワイワイ言ってる店の中で食べるのが美味しいでしょ! あたしの世界はそうだったし!」
「そういうものなんだ!」
ミスティも、異世界が懐かしかったりするのだろうか。
一度彼女の世界にも行ってみたいな。
ニトリアはなぜか、隣の席を見てからちょっと青くなり、離れた所に座った。
「あれ? 隣こないの?」
『いえ……流石にこれはわたくし、精神衛生上良くないです……』
『おおっ、強烈な神気を感じるわい。運命を操る能力者はとんでもないのう。一発で引当ておったわ……』
十頭蛇の二人がドン引きしてる。
なんだなんだ。
『おっ、能力者か。しかもかなり強いやつじゃないか』
隣にいた男が、俺の方を向いた。
金髪碧眼で色白な……だけど、特に美形でも長身でもなくて、冴えない感じの見た目の人だ。
ただ、異常に目力が強い。
彼と話していた女性は、小柄でめちゃくちゃ可愛らしい人だった。
そんな彼女からも特別な雰囲気が感じ取れる。
「分かるんですか」
『分かるぞ。俺様は神だからな』
「そうなんですか」
また神様かー。
イサルデと会った後だし、世の中には案外神様がたくさん歩き回っているのかもしれない。
「えー! 神様なの? 超カワイイ! 握手していい? あ、手小さーい!」
ミスティも、女子の方と握手したりしている。
神様らしい女性は、ニコニコしていた。
『凄いコミュ力だな……。ちょっと引っ込み思案のルサルカがあっという間に打ち解けてしまった。というか俺様たち、神気を抑え込んで気配を消していたはずだが、どうやってここを探り当てた? なに? 運命に干渉する能力? なるほどなあ』
男の方が勝手に了解して、うんうん頷いた。
「俺、まだ何も言ってないですけど」
『おう。それはな。この街は俺様が作り上げた、俺様の領域だ。ここで何が起きて、何が話されたかはその気になれば全て知ることができる。おう、名乗り遅れたな。俺様はオクタゴン。この都市、イースマスを支配する神だ』
凄くフランクに、新たな神様が現れたのだった。
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