第53話 個性的な同行者たち
すぐに、十頭蛇のリーダーである彼がやって来た。
ぬぼーっとした掴みどころのないエルフ。
そう、ウーナギだ。
『リーダー、二人をお連れしましたよ。お知り合いだったのですね。教えてくだされば良かったのに』
「はっはっは。まあこういうのは唐突に関係性ができちゃうのがたのしいもんだよ。やあ二人とも、びっくりしたかい?」
「驚いた! ウーナギ、十頭蛇だったのか!」
「敵……じゃないよね?」
ウーナギがうんうん頷く。
「十頭蛇はただの傭兵集団だよ。組織運営は十頭蛇それぞれの基幹構成員に任せてある。重要な報告のみ僕の所に来るんだ。十頭蛇は世界中に散らばっているから、彼らからの情報で世界の現状が容易に把握できるわけだね」
「はあ……。じゃあ、千年前のエルフだってのは」
「嘘だよ。僕はそもそもエルフですらない。魔導王が倒された後、この地に降り立った……うーん、なんと言えばいいかな。ミスティが分かる言葉で言うなら、魔王だ」
「魔王!?」
「知ってるのミスティ!?」
「う、うん。なんか世界征服を狙う悪いやつの親玉!」
「な、なんだってー!!」
ウーナギが悪のボス!?
あ、それって十頭蛇のリーダーを俺がイメージしたものと一緒じゃないか。
「おっと、待つんだ二人とも。僕はもう魔王としての意識に支配されてはいない。初代マナビ王に粉砕されてね。何をどうやったのか、彼が僕の意識を魔王としての固定観念から解放した。なので、僕は魔王の力を持つ、エルフに似た何者かになった」
何者かって。
何者なんだろう。
「それで、僕の狙いだが……。十頭蛇は世界の情報を束ねて、次にやって来る魔王に対抗するための組織だ。初代のマナビ王との約束でね」
「うーん! スケールが大きくて全然わからない」
俺の頭は大混乱だ。
色々な世界を見て回って、自分の世界が広がっている俺でもわけがわからなくなる。
世界、広がりすぎだろ。
「一気に大きい話になっちゃった。あたしも全然ピンと来ないよー」
ミスティも頭から煙を吹いているようだ。
そうだよなあ……。
全然分からない。
「いや、待って。じゃあヒュージとかエグゾシーは明らかに悪いやつだったみたいだけど。ニトリアとか……」
「ヒュージは若気の至りだね。ニトリアは依頼人の要求に応じただけ。エグゾシーは調子に乗って君に負けたな、ウーサー。おいエグゾシー聞いてるか? 反省してる?」
『うおおん、それを聞かれると恥ずかしい……』
甲高い声が聞こえて、ウーナギの袖口から白い骨の蛇が顔を出した。
エ、エグゾシー!?
『いやいやいや、わしはもうやる気はない。お前との戦いで破れ、肉体を失った! 人を見た目で舐めて掛かってはいかんとこの身で学んだわい!』
随分おとなしい感じになって、エグゾシーは床にポトッと落ちた。
しゅるしゅる移動して、その辺にとぐろを巻く。
「エグゾシーは僕が連れてきた魔王軍の幹部でね。同じくマナビ王に破れてこの世界の側についた。まあ、ご覧の通り調子に乗る性格だし、力なき人間の命を軽んじているのでああいう事もやる」
『基本的に依頼人に頼まれたままだぞ』
そうだったのか……。
「それでだね。ミスティのスキル能力を奪う件だけど……。今のところはそれに応えることはできない。何故か分かる?」
「……なんで?」
「どうして?」
俺とミスティで首を傾げる。
隣でニトリアが真似してきた。
「真似しないでよ!」
『いいではありませんか』
ミスティとニトリアが喧嘩してる。
「失わせるにはあまりにも惜しいスキル能力なんだ。それを移し替えられる器が生まれるまで待ってくれないか? それに、そう時を置かずに次なる魔王が降り立つ。一度魔王が降りた地には烙印が刻まれるんだ。そして、複数の魔王が降り立つことになる。なお、何回か魔王を撃退すると、今度は魔王の烙印が複数あるのに問題なく存在している世界になるから、魔王の方で要注意世界として近寄らなくなるんだ」
「何を言ってるんだか分からない」
「つまり、もうすぐ来る魔王との戦いに彼女には付き合ってもらい、そこから子どもを作ってもらってスキルを移し替えれば……」
「な、何を言ってるんだ」
俺が大混乱する横で、ミスティがハッとした。
そしてもじもじする。
「えー、まだちょっと早くない? あたしもウーサーも若いし……」
えっ、えっ!?
それってつまり、お、俺とミスティが!?
『えっ!? わたくしワンチャン無いんですか!?』
ニトリアが不服そうな顔をしてるのが意味がわからない。
こうして、ウーナギからの衝撃的カミングアウトは終わった。
彼は満足気に去っていく。
ウーナギの正体は、マナビ王も王子も知っているのだそうだ。
世界は裏側でも、色々な事が起こっているんだなあ……。
「予定が無くなってしまった。どうしよう」
「どうしようねえ……」
『では、世界を見て回ってはどうですか? お二人が知っている世界は、この大陸のほんの一部です。シクスゼクスを海岸線から抜けてイースマスに入り、南方の氷河地帯に行きましょう』
ニトリアが先導してくれる。
なんだろう、妙に頼もしい。
『それはもう、わたくし年長者ですから』
『仕方あるまい、わしも行こう』
当たり前みたいな顔をして、エグゾシーがニトリアの頭に上がってきた。
ウーナギに置いていかれたのか。
というか、十頭蛇の幹部を二人も連れて旅を!?
とんでもないことになってきてしまった。
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