第51話 また出たニトリア

 森王国、宮殿をちょっと離れた場所で。

 ニトリアを呼ぼうと俺が提案したら、ミスティが物凄くいやそうな顔をした。


「やめようよー!! あの女絶対ヤバいって! あいつだって、ウーサーを狙ってるもん! ライバルじゃん!」


 狙ってるってどういうことだろう。

 だけど、俺になんか好意みたいなものを持ってくれていて、話が通じそうな十頭蛇なのだ。

 これは今こそ頼るべき相手じゃないだろうか?


「ミスティのスキルをなくすためだから! ミスティ、運命の女の力がある限り狙われるじゃん」


「うっ、それはそうだけど……」


「俺はそういうヤバい力を無くして、平和になったところでミスティと一緒にいたいんだ!」


「はっ……! ウーサー……!」


 ミスティが目をうるうるさせた。

 俺も顔を赤くして、彼女と見つめ合う。

 なんだろうこの雰囲気!


 ドキドキが止まらない……。


「お話中失礼」


 俺たちの間に、ニューっとウーナギが生えてきた。


「「うわーっ」」


 驚いて離れる俺たち。


 また地面から登場してきた。

 なんなんだこの人。


「ウーナギさん邪魔ー!」


 ぷりぷり怒るミスティ。


「あっはっはっはっは、済まないね。僕はこうやって若人の青春を横から邪魔したりするのが趣味なんだ」


「趣味悪くない?」


「よく言われる」


 よく言われるんだ。


「それはそうと、マナビ王からの伝言を預かってきた。ヘルプ機能の託宣に従い、君たちを支援してきたが、ここからは自由に行動してくれということだ。君たちはもう、自らの身を守る力を持っているだろう?」


「確かに……!」


「これだけやってもらって、あたしたち何もお返ししなくていいの?」


「仕事を手伝ってもらった。それに、セブンセンスでは技巧神イサルデの復活にも立ち会え、伝手も生まれた。これで十分だと王は考えているんだよ。さあさあ、自由なタイミングで旅立ちたまえ。なお、王が言うには森の外れで侵入しようとした者が捕まったので見に行くといい、だって。過保護な人だよねえ」


 ウーナギはそう言って笑いながら、また土の中に消えていった。

 掴みどころのない人だなあ。

 悪い人ではないと思う……いや、どうなんだろう? なぜか断言できないなあ。


 それはそうと、マナビ王が具体的な場所を指定してきたので、俺たちで様子を見に行くことにする。

 森はちょっとした結界みたいになっているけど、ミスティがいれば全然問題ない。

 すいすい通って、なんなら最短ルートで森外れまで移動できた。


 エルフたちが驚き、俺たちに振り返った。


「お前たちか。よくぞエルフの付き添いなしで迷いの森を抜けたな……!」


「ええ、そういうの、ミスティが突破するの得意なので」


 普通は抜けられないものらしい。

 魔剣鍛冶の里でも、カトーやスミスがそんなこと言ってたもんな。


 さて、俺たちが探す人は……。

 と意識するまでもなく、すぐ眼の前に転がっていた。


 木の枝や蔓草で、ぐるぐる巻きになっている。

 近くにはやっぱり蔓草で固定された蛇がたくさん転がっている。


『あっ、ウーサーくん……! やっぱり会えました。これはもう運命……!』


「ど、どうもニトリア……さん」


『さん付けなんてよそよそしい。ニトリアと呼んで下さい……!』


 ミスティがうげーっと舌を出す。


「いちいち語尾にハートマークが付いてそうなんだけど! やっばい。マジでこいつ、ウーサー狙ってる!」


『ふふふふふ……。長く一緒にいながらまだウーサーくんをモノにできてないようですね。わたくしが横からさらってしまう余地は十分にある……』


「エルフの人たち! こいつ危険! やっつけちゃってください! 邪悪な十頭蛇ですー!!」


 ミスティがなんか叫んでる。

 ニトリアも焦って、自由になる足先をバタバタさせた。


『あーっ、やめてくださいやめてください。わたくし、寝ても覚めてもウーサーくんの事ばかり思い浮かんで、ついつい蛇の導きに従って迷いの森にふらっと入ったらすぐ捕まってしまったのです。十頭蛇ともあろうわたくしが、こんな無様を……。ですが恋は盲目なので仕方有りませんね』


 思ったよりも別方向で変な人だった。


「あのー、ニトリアさん」


『呼び捨てでいいんですよ』


「あ、いや、年上の女の人なんで」


『まあ! 礼儀ができてるんですね……。そういうところもカワイイ……』


 何を言っても褒められる。

 接しづらいなあ。


「あの、俺、ミスティのスキルをなくすためにですね、十頭蛇のトップの人に会いたいんですけど」


『あらまあ。ウーサーくんにそんな狙いが……』


 ニトリアが俺を見て、次にミスティを見た。


『彼女が普通の小娘になれば、わたくしの勝ち目がさらに増すというもの……。いいでしょう。ウーサーくん、このお姉さんを頼って下さい』


 ニトリアがニヤーっと蛇みたいな笑みを浮かべた。

 うーん!

 物言いとか性格に難はあるけど、この人は悪人じゃない気がするなあ……!


「まさかこいつの手を借りるとは……!! うぐぐぐぐ!!」


 ミスティがなんか唸ってる。

 君を助けるために必要なんだ。わかって欲しい……!

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