6・世界漫遊編

第50話 次なる旅立ちは

 ずっと思っていたことがあった。

 ミスティからスキル能力を取り除くことだ。


 彼女は、あの運命と宿命を引き寄せる力がある限り、普通には生きられないと思う。

 それを無くしてやれば、幸せになれるんじゃないか。


「直接マナビ王に聞いちゃおう」


 俺は決心した。

 今まで何度か聞いては、はぐらかされてきた。

 それは、俺の真剣度が足りなかったのかも知れない。


 せっかく森王国に帰ってきたのだから、ここで本格的に、ミスティをスキルから解放するように行動してみよう。

 そう俺は思ったのだった。


「今までも、なんだかんだと前に進み続けてたらどうにかなったしな」


 そう決めたら、行動が早い俺。

 ミスティと一緒に生きるようになって、とにかく即断即決になった気がする。


 マナビ王を探して、王宮をうろうろする。

 巨大なお屋敷、という感じの建物だ。

 エルトー商業国の議事堂より小さいし、すれ違って会えないということは無いと思う。


 ミスティも連れていきたかったけど、彼女はエルフの人たちがやって来て、囲まれて行ってしまった。

 何やら相談事があるみたいだ。


 俺は俺で行動しよう……。

 歩き回っていたら、物陰からひょこっと王女様が顔を出した。


「何してんの? 暇なの? 仕事ないんだー? 頼られてないんじゃないのー?」


 煽ってくる。

 いつものことだなあ。


「あんた、煽ってもピキピキしないからつまんないのよねえ」


 ふん、と鼻を鳴らしつつ、王女様がマナビ王探しに加わった。


「なあに? ミスティからスキル能力取り上げたいわけ? なんで?」


「あんな、自分が望んでないのに運命とか宿命とかやって来る能力持ってたら、幸せに暮らせないだろ」


「ははーん。あんた、ミスティを普通の女の子にしてからイイコトするつもりね!」


「なっ、なにーっ!!」


 直接的な物言いをされて、衝撃を受ける俺。

 否定したいが、よく考えたらそうだ。

 完全にそうだ。


「姫は姫で、外の世界に姫よりも強い男子を探しに行きたいなーって思うけど、まあゴウでもいいんだよね。っていうか外から来て、油断してたけど姫を負かしたのあんたじゃない。どう? あんた、姫とイイコトする?」


「し、し、しない!」


「こっちにはめっちゃ反応するじゃん……。男の子ってわかんないわー」


 なお、王女様もイイコトとやらは勉強中で、全く実践したことはないそうだ。

 こうしてからかわれつつ、マナビ王を探し歩いた。


「何をしているんだい? 暇なのかい? 僕も仕事を放り出してきてちょうど暇なんだ」


 物陰からウーナギが出てきた。

 この人たち……!!


 彼はすぐに俺たちに合流し、歩きながら喋りだす。


「いやあ、千年ちょっとぶりに復活したと思ったら、世界が平和なもんでね。どんな仕事も退屈で堪らないんだよ。戦争が起きたって言うなら顔を出したいんだけどさ、僕が参加すると一方的な虐殺になるからってマナビ王が許可してくれないんだよね」


「ウーナギはなんでマナビ王に従ってるんだ?」


「うん。実力は僕のほうが強いだろうけどね。彼の持つヘルプ機能が厄介だよ! あれがある限り、ワンチャン僕が負ける可能性がある。僕は戦うのが好きなんじゃなくて、勝つのが好きなんだ」


 バトルマニアのエルフだ!

 正確には、ウーナギはハイエルフよりも古い最古のエルフの一人で、異なる世界からこの世界へ渡ってきたのだと言う。

 その頃ウーナギはまだ幼かったので、まだ覚えていないとか。


「ウーナギ、マナビ王探してよ」


「無理だよ。僕の精霊魔法でもあの男の行先は掴めないもの。この世界であいつを捕まえられるやつはいないよ」


 とんでもない事を言うなあ。

 でも、ヘルプ機能と言う能力はそれほど凄まじいものなのかもしれない。


 王宮の隅々を見て回ったけど、結局見つからなかった。

 外に出ているのでは……?


「ねえウーサー! お父様はいなかったけど、お兄様ならいたわよ!」


「うーわー」


 王女様が何か引っ張ってきた。

 質素な衣装を纏い、足を掴まれ引きずられてくる男だ。


 年は俺よりちょっと上くらい。

 成人して少し経ってるだろうか。


 片手に本を持って、抵抗する素振りもない。


「やめるのだ妹よ」


「うっさいわね。お兄様いっつも寝転がって本読んでるだけじゃない。移動する時も寝たまま動くし」


「王太子殿下だね。僕、この人苦手だなあ。マナビ王より苦手かも知れない」


 何者なんだ、王太子。

 起きなさいよ、と王女様に頭を叩かれて、渋々体を起こした彼。


 中肉中背、顔立ちは整っている。

 マナビ王に似てるけど、もうちょっと顔つきに覇気がない。


「や、や、君がウーサーくんだな。俺はマナビジュニアだ。気軽に王太子殿下って呼んでくれ」


「全然気軽じゃないじゃない!」


 王女様に小突かれている。

 だけど王女様は笑っているので、この兄が好きなんだな。

 それに対して、ウーナギの目は笑っていない。バトルマニアが警戒する系の王子様か。


 ウーナギは勝つのが好きって言ってたから、この王子は気持ちよく勝たせてくれないタイプなんだろう。


「俺ね、ちょっとヘルプ機能使えるんだけど、君が色々考えているらしいことは理解した」


「何も話してないのに!?」


 俺は驚いた。

 なんて話が早い人だ。


「君、あの厄介なスキルを持っている彼女をどうにか助けたいんだろ? 方法はある」


「あるんすか!!」


「ある。まあ、ちょっと大変だが。でも、君が関わっている十頭蛇という連中がその鍵になってるから、意外とやれると思うよ」


 十頭蛇が……!?

 あの謎の傭兵集団に、何ができるんだろうか。


「十頭蛇の一、今のトップである男が、相手のスキル能力を奪える能力者なんだ。そいつに奪ってもらうといい。ちなみに奪われても十分で戻ってくるから、戻る前にスキル能力自体をどうにかしないといけないんだけど……。あ、そいつを倒したら能力が戻るから倒してもダメだよ。協力してもらって」


「案外平和的な方法だった」


「十頭蛇は割りと話が通じる連中だよ? 全部お金で解決できるからね」


 ちょこちょこ話が通じないのは混じってると思うけど。

 エグゾシーを思い出す俺。


 だけど、王子様のお陰で、なんとなく、今後の道筋が見えてきた。

 俺は十頭蛇のトップに会って、ミスティの能力を持って行ってもらうのだ。


 じゃあ、十頭蛇と接触しないとじゃないか。

 どうしたらいいのか。

 接触しやすそうで、比較的好意的な十頭蛇関係者なんて……。


 俺の頭の中に、セブンセンスで出会った彼女が浮かんでくるのだった。

 ニトリア。

 なんか、俺にネバネバっとした視線を投げてくる女性だ。


 か、彼女に接触するかあ……。

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