第49話 神々の国を後にして

 その後、戦神教団の過激派を率いていたらしい男がすぐに発見された。

 蛇の抜け殻でぐるぐるに縛られて転がされていたのだ。


「これ、ニトリアがやったのかな」


「ウーサーの事を気に入ったようだったしな。それに過激派には勝ち目がないと踏んだんだろう。傭兵というのものはそういうものだ」


 ゴウが含蓄のあることを言う。

 傭兵は戦力を商売として提供しているけど、もちろん命は惜しい。

 だから、明らかな負け戦になったら雇い主を裏切ったりもするらしい。


 まあ、そんなことをした傭兵は、事が明らかになれば次から信用されなくなるだろうけど。


「……もしかしてあの女、傭兵を廃業してこっちに来る気じゃ……!?」


 ミスティが何か恐ろしいことを思いついてしまったようだ。

 二人で「あひーこえー」と震える。

 凄くありそう……!!


 結局、諍いの原因となった男は捕まり、過激派集団も俺たちによってほとんどが粉砕された。

 残る一部は、戦神教団が内部粛清を行ったようだ。


 今までは、過激派の数が多くて手がつけられなかったらしい。

 物凄い勢いで、今回の事件は解決していったのだった。


 セブンセンス法国がドタバタしてから、三日後。

 俺とミスティは、アンナに案内されながら都の観光を楽しんでいた。


 あちこちにそれぞれの宗教の建築物があるから、見てて飽きない。

 教団によって、暮らしぶりも違うし、何より出てくる料理が違う。


 戦神教団は肉とか麺が多めのエネルギー、スタミナ食だし、知識神教団は何故か魚料理が多かった。頭が良くなるのかな?

 じゃあ海神教団はと言うと……。


 ハンバーガーだ!


 なんでだろう……。

 技巧神教団は、色々凝った料理が多かった。

 見た目が良くて、味は多様なソースで調整する、みたいな。


 至高神教団の料理は、見た目が凄く地味だった。

 白か茶色しかない。

 大体、牛乳で作ったソースが掛かっている。いや、それなりに美味しいんだけどさ……。


 慈愛神教団の料理は、みんなで突ける鍋物や大皿料理が多いらしい。

 ミスティとゴウと王女様とアンナで、大鍋ごと運ばれてきた煮込み料理を食べた。


 その最中、俺たちに呼び出しが掛かったのだった。


「何なの!? 姫、今ご飯食べてるんだけど! 法王許さないわ!!」


 王女様が鼻息も荒く宣言したので、俺たちを呼びに来た使者は震え上がっていた。

 結局、王女様はゴウに抱えられたので、法王に手出しできなかった。


 おお、じたばた暴れている。

 穫れたての魚みたいな暴れ方してる。


 法王はこれを見て、ちょっと椅子の奥の方に逃げながら、


「お、お陰で都を騒がせていた諍いは片付いた。礼を言う……。こちらからの礼金などは森王国に直接届けておくからな。マナビ王によろしく言ってくれ」


 そこまで言ってから、ちょっと語調を変える法王。


「時にな。そなたらが何か、喋るサルを肩に乗せて移動していたのを見た者がいるらしいのだが……。喋るサルというのは、とある神を象徴する存在で、その、あまり縁起がよろしくない……」


「あ、なんでもないですよ、気のせいです」


 俺は素早く誤魔化した。

 俺だって、だんだん空気が読めるようになってきているのだ。


 王女様は何か言いたかったらしいが、ゴウに口を塞がれて、ムームー叫んで暴れていた。



 ついにセブンセンス法国を離れる時が来た。

 ほんの数日間だったけど、濃い滞在の日々だった気がする。


 見送りに来たのはアンナと、至高神教団、慈愛神教団の人たち。

 後はなぜか、技巧神の最高司祭と偉い神官たち。


「な、なぜ彼らが……!?」


 驚く他の教団員をよそに、アンナはよく理解している顔だった。

 あの後、イサルデから直々に色々な技を伝授されたらしいからね。

 どうやって伝授してるんだろう。


「あなたがウーサー殿か!」


 技巧神の最高司祭はサササッと音もなく近寄ってきた。

 見た目は、スラリとした感じの普通のおじさんだ。


「あなたのお陰で、イサルデ様が帰ってこられた。まさか私の代でイサルデ様を直に拝めるようになるとは……。どうやらバツが悪くて復活後も戻ってこれなかったようだが、あなたとともに風呂を覗いたり、いい出会いがあったりしたことで吹っ切れたとか」


「あ、そ、そうですか」


 俺のお陰じゃ無いと思うんだけど。


「イサルデ様からの伝言です。ウーサー殿はそのうち、大きな運命に巻き込まれるだろう。そうなった時、世界で繋いだ絆があなたを助けるだろう、とのことです。イサルデ様もなんと駆けつけると仰っておられます。面白そうだからだそうですな」


「うわーっ」


 凄く大きい話になってしまった。


「なになに? モテモテじゃんウーサー! このこの! 男になら幾らモテてもいいからね!」


 ミスティが無責任な事を言う!


 そしてアンナにも、世話になった礼を告げる。


「実は私揺れていまして」


「揺れてる?」


「あんなに技巧神様に良くしていただいたので……。ですけど、棄教は問題ですし、至高神にお仕えしながら技巧神様の寵愛を賜るというのもなんというか光栄ですが居心地が……」


 アンナに何が起こってるんだ。

 ミスティがなんだか、生暖かい笑顔になった。


「まあ難しいよねえ。イサルデと話し合って、直接神様に言ってもらうしか無いんじゃない?」


「えっ、技巧神様にお使いを頼むんですか!? そ、そんな恐れ多い……」


「いいじゃない。向こうはアンナに惚れてんでしょ? じゃあちょっとは無理を聞いてくれるから!」


「そ、そういうものでしょうか……」


 女子たちの会話、俺にはさっぱり分からない。

 だけど、セブンセンスに何か大きな変化が起ころうとしている話みたいだ。


 アンナには頑張って欲しい……!


 こうして俺たちは、セブンセンス法国を離れた。

 振り返ると、城壁の上でサルがぴょんぴょん飛び跳ねている。

 イサルデだ。


 俺は大きく手を振り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る