5・神々のから騒ぎ

第41話 セブンセンス法国

 なんだか、訓練が終わってからあちこち行っている気がする。

 ずっとスラムにいたから、こういう旅行みたいなのはとても楽しいのだが。


 ライズが引く荷馬車に乗って、のんびりと進む。

 隣にはミスティ。

 彼女はぶすっとしている。


 なぜか。

 理由は明確だ。


「ねえ戦場行ったんでしょ? どうだった? 魔族ってザコばっかよねー。姫、超退屈だった! ウーサーも退屈だったの?」


 王女様が俺の後ろにいて、めっちゃくちゃ絡んでくるのだ。


「ど、どうだったかな。なんか戦ってるところまでは行けなかったんだけど」


「そうなの? ふーん、じゃあ実戦経験積めなかったんだー。そんなんじゃあんた、ずっとザコのままなんだけど? ふふっ、ザーコザーコ」


「ムキー! 黙って聞いてればあたしのウーサーに馴れ馴れし過ぎるんだけど!!」


 うおーっ、ミスティが怒った!


「はあ? まだ婚約もしてないんでしょ? ってかウーサーは成人してないし、誰のものでもないでしょー? なんで怒ってるわけー?」


「誰のものでもなくない! あたしのです! あ・た・し・の!! 最初っからずーっと二人で旅して来たんだから!!」


「ここ一ヶ月は離れてたんでしょ? ずっとじゃないじゃん」


「うーっ!!」


 ミスティが唸り声を上げてじたばたした。

 怒ってる怒ってる!


「どうどう、ミスティ。王女様はこれ、悪気があるわけじゃなくて素だよきっと。ペースに乗せられてはいけない」


「はあ、はあ。ふう……ウーサー成分補給……」


 ミスティが俺の頭をぎゅっと抱きしめてきた。

 うおーっ、いい匂い!

 そして耳に当たる柔らかな感触。


 華奢だと思ってたけど、ちゃんとある……。

 不思議な感動に包まれる俺だった。


 王女様はこれをきょとんとして眺めている。


「何怒ってるわけ? 意味わかんなーい」


「はー、お姫様はまだおこちゃまだから分かんないんでしょうねー」


 おいミスティ煽るなー!


「はぁ!? 姫は立派に大人ですけど!? あと二年で成人なんですけど!? 姫は空も飛べるし、光も操れるし、どっかの尻で動くことしかできない兄上とは全然違うんですけど?」


 今変な人の情報があったな……。


 ちなみに、シェリィ王女から詳しい話を聞いたら、王家は三人兄弟らしい。

 長男はやる気のないマナビジュニアと呼ばれる人物で、寝転がったまま自由自在に移動できる。

 長女は優れた精霊魔法の使い手で、今は他国に輿入れしていない。

 次女がシェリィというわけだ。


 なるほど、王位は兄であるマナビジュニアが継承するから、王女様は自由なのか。

 それで俺たちについてきていると。


「そういうことだな。こんな感じだが、姫様は頭の回転も早いし物分りもいい。ちょっと口調がメスガキなだけだ」


 ゴウはけろりとしたものだ。

 彼は馬に乗って、俺たちの横を走っている。

 馬はちらちらと、荷馬車を引っ張るライズを見ているようだ。


 そんな重いもの、よく引っ張るよな、とでも言いたげだ。

 心なしか、ライズは最近マッチョになってきたような……。


 明らかに出会った頃より一回りでかい。

 こうして俺たち四人は旅を続け、三日くらいかけてセブンセンス法国へ向かった。


 俺とミスティがあちこち行かされているのは、俺の見識を広めるためと、ミスティを一箇所に留まらせ、宿命を発生させづらくするためでもあるらしい。

 なるほど、大変だ。


「俺はいつか、ミスティをその能力から解放してあげたいな……」


「えっ、ウーサー優しい……」


 なんかミスティがほろっと来たらしい。

 対して、王女様は首を傾げる。


「ふーん? でも姫、スキル能力者が無能力者になる話を知らないんだけど? 姫も光の翼っていうスキル能力なんだけど、これって生まれつきだし、姫の手足とおんなじだし」


「もしかしたら何かあるかも知れないだろ? 探して見なくちゃ」


「そう? 姫にはわかんないなー。強いほうが良くない?」


 これを聞いて、ミスティがフッと笑った。

 まだまだおこちゃまねーと思ったんだろう。

 口には出さない。

 ミスティは王女様より大人だっていう自覚があるからだ。


「見えてきたぞ。セブンセンスだ」


 ゴウの声で、俺は指し示された方を向いた。

 そこには、どこまでも広がる真っ白な壁があった。

 壁の向こうに、幾つもの塔みたいなものがそびえている。


 塔の屋根の色は、赤、青、緑、橙……。

 色とりどりだ。


「きれいな国……!」


 ミスティも目を輝かせる。


「六柱の神をそれぞれ奉ずる教団が存在する場所だ。神に最も近い国、と言われている。ちなみにこの国で信仰される太陽神アクシスは、蛮神バルガイヤーと同一の神で、慈愛神はバルガイヤーの妻である月の女神と同一だ」


 つまり、森王国との兄弟国家みたいなものなわけだ。


「国の中で起こっている諍いっていうのは……」


「おう。そう言うことだウーサー。別々の宗教が一緒に存在している場所。信者同士の争いは日常茶飯事ってことだな。まあ、これは……」


 俺たちの馬車が向かう先に、城壁の前に列をなすたくさんの人の姿があった。


「巡礼者たちだ。元からセブンセンスにいる連中はお互い譲り合っているが、巡礼者はそうじゃないからなあ……」


「なるほど……!」


 巡礼者どうしの諍いをどうにかしろ、という話だったらしい。

 でもそんなもの、どうやって?


「どうにかできるものなんだろう。国王陛下がオレたちに命じたくらいだ。オレたちが解決できる、とあの方が考えられたのだ」


 ゴウは確信しているようだった。

 そうなのか……?


 ずらりと並ぶたくさんの人を眺め、俺は首を傾げるのだった。

 俺に何ができるだろう?

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