第40話 次なる行き先

「それなりに死者は出るが、死んですぐならば精霊魔法で呼び戻すことができる。これは魔族の側も同様だろう。故に、この続く戦争は比較的小康状態を保っていると言える」


 ガウが難しいことを言った。


「死んでるけど生き返るから死なないってこと……?」


「ありていに言えばな。無論、頭を吹き飛ばされた者は死ぬ。だがそれ以外ならば精霊魔法でなんとかなるというわけだ」


 万能か、精霊魔法。

 後で聞いたんだが、植物の精霊の力を使えば、一瞬で傷を癒やすことができるのだそうだ。

 凄すぎる、精霊魔法。


 だが、失った部位は戻ってこないし、再生できるのは内蔵まで。

 やはりダメージを受けないことは重要なのだ。


「ほえー、こわあ……」


 ミスティが戦場を見回して震え上がっている。

 彼女を危険な状況に陥らせなくて良かった。

 ……あれ? これも彼女の能力が働いたから、戦場に辿り着けなかったんじゃないのか?


 ありうる。


 戦場跡を歩き回ると、色々凄惨な状況を見ることが多い。

 ミスティの顔がだんだん青くなっていくのだ。


「やっば……。トラウマになりそう」


「慣れろ」


「ガウが凄いこと言うなあ」


 それが現実だし、避けて通れないってことなんだろうけど。

 だけどとにかく俺としては、ミスティを守らねばなのだ。


「多少は精霊魔法を学んだのだろう。治療をしてみるがいい」


「あたしが!? ……しゃあない、やるかあ!」


 ミスティが自分の頬をパシパシ叩く。


「よし、ミスティ頑張れ!」


「ぶもー!」


「うし、頑張るよー!」


 俺とライズに応援され、やる気になったミスティ。

 怪我をしているバーバリアンの隣にしゃがみこんだ。


「怪我はここなの? うし、治すかんね」


「お……お前は……?」


 バーバリアン男性、ミスティを見て目をパチパチさせている。

 エルフでもバーバリアンでもない者がここにいる、というのが驚きなのかも知れない。


 黒髪で華奢で、色白なミスティは明らかに浮いてるもんな。


「治すって言ってるでしょ。うし、治療! あー、プランちゃん、こっちこっち、ここ治して。はいはい、そんな感じ」


「おお!」


 ガウが目を見張った。

 俺も驚きで口が開きっぱなしになる。


 まず、ミスティの周囲に光の渦みたいなものが出現した。

 これが緑色に染まり、バーバリアンの傷口に向けて収束していった。


 傷であったものが、まるで時間が巻き戻るように消えていく。

 一瞬で、傷が塞がった。

 跡も残っていない。


「な……なんだ……!? 痛みが完全に消えた!」


 バーバリアン男性が驚いている。

 俺たちも同様だ。


「スキル能力者が魔法を使うようになれば、その力はかなりのものだと思っていたが……。想像以上だ」


 ガウが唸る。

 そうなのか……!?

 

 どうやらミスティは、スキルを自覚的に使えるようになったみたいだ。

 つまり……運命みたいなのを引き寄せている?


「僕が説明しよう」


 突然、ハイエルフのウーナギが生えてきた。


「うおわーっ!!」


 俺もガウもバーバリアンたちも、ひっくり返るくらい驚く。

 ウーナギは俺たちを振り返り、不満そうな顔をした。


「どうしたんだ君たち、まるで化け物でも現れたみたいな顔をして。僕はこの国の精霊魔法使いの頂点だぞ? そんな僕が、世界の命運を左右するスキル能力者の魔法指導に当たるのは当然じゃないかい?」


「言われてみると、それは確かにそうだけどさ」


 俺は唸るしか無い。


「ウーナギ、俺の相手もして、ミスティの指導もしてたってこと?」


「君の訓練相手は一時的なものだっただろう? それに今の君ならばまだ、片手間で相手をできる。指導に本腰を入れることもできたということさ」


「ぬうー」


「ウーサー、ウーナギっちともシュギョーしてたの? この人半端じゃないっしょ」


「ウーナギっち……!?」


 凄い呼び方するなあ!

 ウーナギ本人はまったく気にしていないが。


「彼女は、運命の流れを司る能力を持つ。つまりこれは、神にも匹敵する権能だ。ただし、彼女が自覚的に使えるのは、それのほんの一部だけという制限があるようだね。ただし、その一部だけでこの結果だ」


 精霊魔法の効果には揺らぎがあるらしい。

 効果を著しく発揮したり、イマイチだったり。


 ミスティは、これを常に最高の結果で使うことが出来る……ということらしい。

 とんでもないな!


「あとは自学自習で強くなっていけるだろう。人間の命は短く儚い。限られた時間の中でこそ研鑽を積み、僕らエルフよりもずっと短い期間で強くなれるんだ。せいぜい励み給え」


 ニコニコしながら、ウーナギがミスティの肩をポンポン叩いた。


「ういっす、ウーナギっち!」


 敬意っていうか親しみの籠もった返事だな……!


 しかし、ミスティがこれだけ強くなっているということは……俺もまだまだ頑張らなくちゃだ。

 なんか決意を新たにしたぞ。


「ま、あたしも頑張んなくちゃ、なんかこう、ライバル出現の予感がすんだよね……! だから超頑張るよ! 今までみたいにウーサーの後ろに隠れてたらなんか取られそうな気がする……! あたしの友達もそんな感じで略奪愛されてるし!」


「ミスティが燃えてる! 何のことが分からないけど、一緒に頑張ろう!」


「おー!」


 ということで、俺はミスティと大いに盛り上がったのだった。

 そして、また後方の陣地に下がって朝まで寝て、王国まで帰還することになった。


「ふう……。王国にはあいつもいるからね……。こっからは勝負だわ」


「どうしたんだミスティ。まるで戦場に向かうみたいな顔つきじゃないか」


「あたしにとってあそこは戦場なの! 大事なものを狙うやつが一人いるからね! 負けねー!」


 自分の実力を確認してから、ミスティは自信というものがついたようだ。

 やっぱり誰を敵視しているのかは全然分からないけれど、やる気になっているならよしだ!


 ガウがそんな俺たちを見て、頷いた。


「我がお前たちの相手をするのはここまでだ。また縁があれば会おう。我の弟が再びお前たちを導くであろう」


「あ、ゴウのことか」


 ガウはゴウの事を信頼しているのだろうな。

 こうして、一旦修行は終わり。


 次は何をするんだろう、と思っていたら……。


「よし、では実戦だ。セブンセンス法国にて、小規模な諍いが起きている。止めに行くぞ」


 ゴウが宣言した。


「えっ!? セブンセンス法国!? 諍いを止めに!? どういうこと!?」


「蛮神であり、太陽神でもあるバルガイヤーを国名に頂くオレたちは、そういう役割も負っているということだ。お前と、ミスティ。そしてオレの三人で行くぞ」


 そういうことになってしまったのだった。

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