第39話 足止め魔弾の射手

 夜光板をつけて、前線へ急ぐ。

 すぐにガウが叫んだ。


「注意せよ! 魔族どももスキル能力者が出てきている! 今夜は戦場をかき回すつもりだぞ!」


 俺は緊張する。

 敵対するスキル能力者というのが、あまり経験ないというのもある。

 何せ、敵が何をやってくるか分からないからな。


 自分がそうなだけに、敵の出方が怖い。

 魔法の針をばらばらと足元に落とした。


「ライズも何かあったら教えてよ!」


「ぶもー」


 いつもマイペースなライズが、のんびり答えてくれる。

 少しして、ガウが無造作に腕を払った。


 一見何もないところを、拳が突く……と思ったら、ガウの拳が幾つにも分身したように見えた。

 信じられない速度と数の連続パンチが、見えないそれを撃退する。


 カラン、と音を立てて何かが荷馬車の上に落ちた。


「これ……黒く塗られた矢だ! 太くて短いけど……」


「ひええ、殺意高すぎる」


 ミスティが震え上がる。


「夜光板を付けてなければ、音で認識するしか無い。しかもこいつは、お前たちを狙って放たれたな。枝の間を縫うように飛んできたぞ」


「枝の間を……!?」


「魔弾の射手という種類の能力者だ。認識した相手をどこまでも追いかける必中の矢。魔族どもには多いタイプだぞ」


 ガウはこいつの勢いを、よく分からないパンチで撃ち落としたのか。


「それと、これはクロスボウの矢だ。使い手の筋力によらずに安定した威力を叩き出してくるから、気をつけろ」


「両替! ミスティ、これ持ってて」


「へ? なになに? うわーっ、重いぃ!」


 魔法の盾を両替したのだ。

 これをミスティに持たせてひたすら防御してもらう。


 ライズは馬車が重くなったので、歩みの速度がのんびりになった。


「ぶもー」


 なんて堂々としたロバだろう。


「大物だなあ」


 大きな盾を構えたバーバリアンたちが感心している。

 普通、ここまで豪胆なロバはいないらしい。


 その後、さらにビュンビュンと矢が飛んできた。

 本当にヤバい。

 戦場に近づけない。


「向こうも我らに気付いている。我らを戦場に近づけぬことが仕事だな。だが、じきに矢は尽きよう」


 ガウが冷静だ。

 それでも、攻撃を食らってる俺等はたまったものじゃない。

 行きている心地がしなかった。


 ずっとライズとミスティの心配をして、胃をキリキリさせていた。

 無限に続くかと思った時間だったが、気がつくと終わっていた。



「矢が尽きたな」


 攻撃が止まったらしい。


「だが罠かも知れん。慎重に行くぞ。業腹だが、今回は敵の狙い通りになりそうだ」


 ガウが歯噛みしている。

 矢は尽きたかも知れないが、尽きていないかも知れない。

 こちらは注意しながら進まなければいけないわけで、ガウほどの使い手でもそういう警戒をするわけだ。


 これは多分、俺たちを連れているからでもあるんだろうけど。


 魔族側のスキル使い、めちゃくちゃ頭がいいぞ。

 

「ねえねえウーサー。さっき、サラッと魔法の盾を出してたけど」


「うん」


 盾に身を隠しながら、ミスティが続ける。


「腕上がってね? これって確か、金貨百枚くらいするやつじゃなかったっけ」


「えっ、そうだっけ!?」


 慌てて自分のステータスを確認した。



《スキル》

 両替(八段階目)

 ・視界内に存在する金貨二百枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣か物品が必要。

 ・再現した物品を手元へ引き寄せることが可能。物品の質量が大きい場合、使用者が引き寄せられる。

 ・手にした貨幣を視界内の任意の箇所に移動させることができる。障害物があった場合移動できない。

 ・反射両替 防御に適した物品を無意識で作成し、盾とすることができる。


※レベルアップ条件

 ・金貨二百枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは金貨二百枚から五個の同価格の物品を再現する。



「強くなってた……! 金貨二百枚ってどういうこと……!?」


 俺は混乱する。

 ちなみに、能力が強化されたきっかけはどこだったかよく分かる。

 王女様との試合、そしてウーナギとの訓練だ。


 確かに強くはなってる。

 だけど、スキルが強化されても、まだまだ上には上がいると分からされる毎日だ。


 今回会った魔族のスキル能力者なんて、射撃を絶対命中させるという能力一つで、ガウと俺たちを足止めできている。

 能力は強い弱いじゃなく、使う人間次第なんだな……!


 なるほど、ゴウが俺の素の身体能力を上げようとしてたのはどうしてなのか、よく分かった。


 その後、到着した戦場では、もう痛み分けになっていた。

 ほどほどダメージを受けたバーバリアンと魔族が、ばらばらとお互いの陣地に戻っていく。


「くそっ、間に合わなかったか。あの魔弾の射手はいつも我を足止めしてくるのだ」


「ガウ狙いだったのか……。いつもあんな感じなのか?」


「いや、いつもはあんな生ぬるい射撃はしてこない。我が守るべき者を連れていると理解した上で、最小限の力で足止めしてきた」


「ヤベえ」


「うむ。最前線の戦いとはこのようなものだ。空気だけでも吸って帰るがいい」


 戦場の苛烈さを見せられなかったことを、ガウは大変悔やんでいるようだった。

 いやいや、そんな恐ろしいものミスティに見せなくていいから……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る