第30話 コトマエ・マナビの伝説

 話が終わって外に出ると、ゴウが待ち構えていた。


「話は聞いたようだな」


「おいゴウ、どういうことだ? 俺は聞いちゃいねえぞ!」


「悪いなアキサク。国家レベルの話だ。いかにお前でも話せん事はある」


 難しそうな大人のやり取りだ。


「あの、俺はー」


 俺が声を発したら、ゴウが頷いた。


「オレが連れていく。アキサク、ちょっとこいつを借りるぞ。お嬢ちゃんもな」


「そりゃあ、ウーサーが行くならあたしもでしょ」


 ミスティ、当然のような顔をしている。

 そんな彼女に向かって、ゴウがニヤリと笑った。


「能力任せで、実を守るのはウーサー頼みのお嬢ちゃんも、バルガイヤーに行けば鍛えられるぞ」


「ひ、ひええ」


 何かを察したミスティである。

 だが、彼女は基本的に流れに流される主義らしく、大人しくついてくることになった。


「ゴウも大体、そんな任務があるならどうしてずっとこの国で管を巻いてたんだ」


「エムス王国に侵入するには、オレは目立ちすぎるからな……。一度見つかって追い出された」


「あー」


 俺とミスティとアキサクで、納得の声を漏らした。

 バーバリアンであるゴウは人一倍体格が大きく、体の見える所に複数の入れ墨をしていて、常に髪の毛が逆だってるような男だ。

 確かにとても目立つ。


「ということだ。こっちまで異世界召喚者が逃げてきてくれたのは行幸だった。しかも、思わぬ力を持つスキル能力者までついてきた。その上、スキル能力者は素直で性格のいい少年ときている。これをエムスや十頭蛇といった連中にそのままぶつけるべきではない……。上の連中がそう考えたんだ」


 それで、俺をバルガイヤー森王国へ招くというわけか。

 それってつまり、ミスティの保護というよりは俺の強化のため?


 森王国は何を考えてるんだろうな?


 こうして俺たちは、世話になった宿に礼を言い、アキサクと食堂の人たちにも挨拶をし……。

 次なる国へと旅立ったのだった。


 なお、ゴウの妹であるマオはまだ残るらしい。

 彼女がエルトー商業国との連絡員を務めることになるのだとか。


 こんな感じで、森王国の関係者はあちこちに潜んでいるのかもしれない。


 俺たちを運んでくれるのは、見覚えのある武装荷馬車だった。


「ヒャッハー! お前らか! 森王国に招かれるとはなあ!」


「俺らに任せりゃ、道中は安全だぜぇーっ!!」


「あの地域には魔族もうろついてやがるからなあ! 武装荷馬車の威力を見せる時だぜえ!!」


 いつもながら、モヒカン、ヒゲ、スキンヘッドの三人は元気だ。


「うす! お願いします!」


 俺が挨拶したら、おっさんたちは三人とも目を細めて、親しげに肩とか背中とかを叩いてきた。


「あいつ、本当に男に気に入られるタイプの男だな」


「でしょー。うちのウーサーは可愛い系男子だし」


「お前も自分を磨かないと、あいつを誰かに取られちまうぞ」


「マジで!?」


 なんかミスティの焦る声が聞こえた。


 今回は、俺たちが武装荷馬車に乗って移動する。

 運ぶための荷物が俺たちというわけだ。


 ちなみにロバのライズも一緒で、ライズは横をトコトコ歩いている。

 なんだかんだで付き合いが長くなってきてるな、ライズも。


 ゴウは荷馬車の幌の上に腰掛け、草笛などを吹いている。

 モヒカン、ヒゲ、スキンヘッドの三人からは、「キザ過ぎる」「同類かと思ったら裏切り者め」「髪を剃れ」と非難轟々だ。

 武装荷馬車は幌自体が頑丈なので、上に座るのは問題ないらしい。


 旅が二日目ともなると、周囲の光景が変わってくる。

 不思議な形の、透き通った瓦礫がたくさん地面に突き刺さる平原。

 そんな場所を通過した。


 ゴウが教えてくれる。


「かつて、魔導王という化け物がいてな。そいつが今存在する全ての魔法の素を作り出した。あの幻の太陽も、魔導王が作った残滓だ」


「ほえー。すっげえのがいたんだなあ……」


 太陽を作るとか、何者だ。


「その魔導王は悪いやつだったんだよ。幻の月は、人間たちに魔法を使える力を与えていた。その力で、人間が何をするかを奴はずっと見ていたんだ。で、奴の思惑通り、人間は魔法を使って互いに争い始めた」


 人間、どうしようもない。


「魔導王は嬉々として現れ、人間を滅ぼそうとした。ところが、そいつの前に立ちふさがったのが異世界召喚者だった。我がバルガイヤー森王国の建国王たる、マナビ王だ」


「おお、ど、どうなったんだ」


「マナビってまるで日本人みたいな名前だねえ。……異世界召喚者ってことは、日本人なのか!」


 ミスティが何か気付いたようだ。


「よくは知らんが、世界を手玉に取った最強の異世界召喚者だったそうだ。でだな。マナビ王は、オクタゴン神と、俺の先祖であるコンボの達人とともに魔導王を討った。その舞台が、この平原の空に浮かんでいた空中城塞だったそうだ。この透き通った瓦礫は、空中城塞の破片だな」


「うわあ……。俺の知らない世界が広がっていた……」


 思わず聞き入ってしまった。

 ドキドキする。

 こういう物語とか耳にする機会、あんまりないからな。


「目をキラキラさせてるウーサーが可愛い……」


 やめろミスティ、可愛いとか言うな!

 それにしても、ゴウのご先祖は英雄の一人だったのか。


 オクタゴン神というのも、魔剣鍛冶の里のスミスが話してた神様の名前だよな。

 神様も異世界召喚者だったりするんだろうか?


 異世界召喚者ってなんなんだ。

 じっとミスティを見た。

 一番身近にいる異世界召喚者だ。


「あらー。あたしに見入っちゃってどうしたのー?」


「な、なんでもない! なんか、ミスティがそんな凄い英雄の仲間だって思えないなーって」


「そう? まあ、あたしも実感全然無いんだけど。そもそもスキル能力っていうのを使ってる自覚もない……」


「うん。ただ可愛いだけの女の子で……」


「か、可愛い? むふふ」


 ニヤニヤしたミスティが、俺にくっついてきた。

 う、うわーっ!

 人前でくっつかないでくれー!

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